コロナ直撃! いつもと違う決算対策

損失分を漏れなく反映


 新型コロナウイルスの影響で、今年の決算は昨年までとは異なる対策を検討する必要に迫られそうだ。定石とされてきた節税手法の多くが使えなくなる一方で、感染拡大による消費の落ち込みや経営環境の変化を踏まえた対策が有効に働く。今年は支出を増やして課税所得を減らすということ以上に、コロナの感染拡大による損害をきちんと帳簿に落とし込む節税策を見逃すわけにはいかない。


 決算手法の王道とされてきた節税対策の多くが今年は使えないかもしれない。例えばこれまで有効な節税策となってきた決算賞与の支給は、〝コロナ不景気〞の直撃で売上が減少している現状では非現実的であり、また福利厚生も兼ねた社員旅行の費用を経費計上することで法人の所得を圧縮するという手法も、集団感染のリスクがある中では実行しにくい。

 

 ただ、王道の手法は使えなくても、非常時ならではの決算対策が利用できるか否かの検討は不可欠と言える。事業活動への影響が大きくになるにつれ、事業者の負担を減らす節税の重要性はいつも以上に増しているからだ。

 

 この時期に真っ先に考えられる節税策は、コロナ対策につながる備品や消耗品を購入し、その費用を法人の所得から控除するというものだろう。アルコール消毒液などの衛生品が必要であれば年度内に購入するようにしたい。また、通勤による感染を防ぐことを目的にテレワーク(在宅勤務)を導入する場合は、従業員に自宅で仕事をしてもらうためのパソコン代を損金とすることが可能だ。

 

 こうした備品や設備に関する費用は、購入額が10万円未満なら全額をその年の経費として損金にできるが、それを超える金額となると、原則として備品ごとに決められた法定耐用年数に応じた期間に分けて経費にしなければならない。ただし、10万円以上でも法定耐用年数に関係なく税務処理ができる例外が2つあり、30万円未満なら年間合計300万円まで一度に損金にでき、また20万円未満なら3年間で均等に償却する方法を選ぶことも認められている。

 

 また、新型コロナで何らかの被害を受けた個人や企業に対し自社製品を無償で提供することも、法人税額の減少につながる。通常、自社製品を取引先などに無料で配布する際の費用は、寄付金や交際費として損金算入額が制限されるが、災害の被害を受けた不特定多数の人に提供する際の費用に限っては、広告宣伝費に準じるものとして損金にできる。崎陽軒がダイヤモンド・プリンセス号の乗客や乗員に対してシウマイ弁当4千食分を提供したことが話題になったが、その費用は全額損金にできるものと考えられる。

 

不良在庫や不良資産を処分

 とはいえ、設備投資や寄付などで多額の支出ができるのは一部の大手に限られる。大半の中小事業者は経営に深刻な影響を受けていることを考えると、今年の決算では新たな支出を増やすことで節税につなげる以上に、損失分を税額計算に反映させることが重要となる。

 

 売上の減少が税金の減少に直接的につながるというだけの話ではなく、例えばコロナ不況の影響で売れ残った商品や使えなくなった設備を損失分として確実に決算書に計上し、税負担の減少につなげる工夫が必要だ。

 

 通常、売り時を逃して商品価値が大きく下がってしまったものでも、帳簿上は仕入れ価格のまま評価しなければならず、実質的な損失である価値の低下分(評価損)は税額計算に反映されない。評価損を正しく反映させるには、いわゆる決算セールなどで商品を大幅に値下げして販売するか、商品を廃棄処分することで、損失を確定させる必要がある。

 

 評価損の計上は税務署と争いになることが多い部分でもあるので、帳簿に損失分を計上するだけではなく、決算セールによる値下げ販売であればその時の広告(チラシ)、廃棄であれば産廃業者から受け取る廃棄証明書を残し、実際に損が出たことを証明できるようにしておきたい。

 

 また、売れ残った商品の金銭化と従業員の福利厚生を同時に図る方法として、自社商品を従業員に割引販売することが考えられる。この場合も仕入れ価格との差額が損益となるが、注意が必要なのは、コスト割れや3割を超える割引率での販売だと、従業員に一定以上の経済的利益があったとみなされて給与課税の対象となることだ。事業者はその分の源泉徴収をしなければならず、また役員の経済的利益については損金にできないので気を付けたい。

 

 商品の不良在庫だけではなく、機械設備などの固定資産の中で使うことのない〝不良資産〞についても、解体や廃棄をすれば、決算時の税額計算の際に廃棄損として損失を反映することが可能だ。

 

 ただ、大規模な機械設備の廃棄には莫大な費用がかかるため、不要な資産を抱え込んでいるケースも少なくない。そのような場合でも、将来にわたって使い物にならない資産であることを税務署に証明できれば、有姿除却損として損失分を計上することが例外的に認められることがある。

 

 実際には廃棄していない資産を税額計算上は廃棄したものとみなすことになるので、税務署の厳しいチェックが入る税務処理ではあるが、確実に使わない固定資産があるなら検討の価値がある。

 

消費税も確認

 ここまでは法人税について見てきたが、消費税についても確認しておきたい。注意が必要なのは、コロナ流行を踏まえて社員旅行や出張を取りやめることになった時に支払うキャンセル料の税務処理だ。社員旅行の中止に伴って旅館から「宿泊料相当分+消費税」のキャンセル料を請求されて支払ったとすると、実際に旅行した場合とは異なり、その支払いに掛かる消費税分を会社の売上から仕入税額控除できなくなるおそれがある。

 

 キャンセル料に掛かる消費税の実務は、その費用の内容によって2つに分かれる。宿泊する部屋の料金や解約の時期にかかわらず一律の料金で徴収されるキャンセル料は、解約手続きに伴う事務手数料の意味合いがあり、事務という役務の提供に対して支払うことになるので、消費税の課税対象取引となる。

 

 一方、「解約が宿泊の1週間前なら宿泊料の5割、3日前以降なら10割」などと設定されているキャンセル料は、旅館が本来得ることができたはずの利益を受け取れないという逸失利益に対する損害賠償金の一種であって、役務の提供に対する対価ではないので、消費税の課税の対象にならない。

 

 すなわち、たとえ旅館に「宿泊料相当分+消費税」をキャンセル料として支払っていても、その消費税とされている金額を売上分の消費税から差し引けないということになる。逸失利益という観点では、旅館はキャンセル料に含まれる「消費税」を売上分として納税する必要がないので、消費税分は損失とは言い難い。

 

 社員旅行の参加予定者の数が多ければ消費税額だけでも多額になることを考えると、消費税分をキャンセル料から除外してもらうように交渉することが必要かもしれない。それでも消費税分の支払いが必要ということなら、仕入税額控除ができないキャンセル料として支払うより、実際には宿泊しなくてもキャンセルせず、宿泊料として支払った方が税法上の考え方で言えばトクということになる。社員旅行のキャンセルを検討している場合は、宿泊場所との交渉の検討や税理士への相談をしたうえで慎重に行いたい。

 

 普段と経営状態が大きく異なるからこそ考えられる節税策も少なからず存在する。経営に大打撃を受けた中小事業者は、少しでも税負担を減らすため、新型コロナ流行期ならではの決算対策を真剣に考えたい。

(2020/05/07更新)