投資で得た利益を長期間にわたって非課税にする「つみたてNISA(ニーサ)」が1月からスタートする。通常の「NISA」、未成年を対象にした「ジュニアNISA」に続き、これでNISAは3つ目だ。さらに制度としては異なるが、投資に税優遇を設けて資産形成を助けるという意味では「iDeCo(イデコ)」もある。各制度はいったい何が違うのか、資産形成のためにはどの制度が適しているのか。この際、一挙にまとめて比較して、自分に最も合った制度を見つけておきたい。
金融庁はこのほど、2018年1月にスタートする「つみたてNISA」の商品のラインナップを更新し、計124本となったことを発表した。17年春の時点では金融、証券各社から出された商品は50本程度と低調だったが、森信親金融庁長官が業界に喝を入れたこともあって夏以降は順調に増え、様々な債券や株式などを組み合わせた金融商品が並ぶこととなった。
つみたてNISAでは、通常のNISAと同様に、投資で得た利益にかかる税金がすべて非課税となる。非課税対象となる投資期間が通常のNISAの4倍となる20年にまで伸びたのが大きな特徴だ。通常型に比べて1年当たりの投資上限額は減ったものの、投資できるトータルではつみたてNISAが上だ。短期間では多額の儲けが狙えなくても、20年あれば〝大化け〞することもあり、毎年少しずつ投資して、長い目で資産形成を狙いたいという人に合った制度となっている。
注意点としては、上場株式の個別銘柄が買えないことがある。通常のNISAやジュニアNISAとの大きな違いで、つみたてNISAでは、前述したように証券会社や金融機関などが用意した限られたラインナップからしか投資対象を選べない。もっとも、限られているとはいえ多くの商品は手数料が無料で、一般の投資信託に比べるとコストをかなり抑えられるようになっている。手数料が低いということは、それだけ利益を出せる可能性が増えるということを意味するわけで、手数料の低さはつみたてNISAの大きな長所と言えるだろう。
もう少し短期間に大きな投資をしたいという人であれば、通常のNISAが向いている。年間の投資上限額はつみたてNISAの3倍で、上場株式なども銘柄を指定して自由に買うことができる。一般の株式投資などと変わらぬ条件のもとで、運用益は非課税というメリットを享受できることになる。つみたてNISA同様に途中での払い出しも可能で、好きなタイミングで儲けを税負担なしに受け取ることができるわけだ。
「貯蓄から投資へ」という安倍政権のスローガンのもと2014年に創設されたNISAは、制度開始以来税制改正でたびたび見直され、投資上限の引き上げなどの拡充が行われている。そのなかでも画期的だったのが、17年度改正で実現された「ロールオーバー」の上限撤廃だ。
ロールオーバーとは、NISAの非課税期間が終わった時に、5年間で得た利益をそのまま次の5年間に引き継ぐというものだ。これまでは、たとえ120万円を元手に200万円まで資産を増やしていても、引き継げるのは年間の投資上限120万円までで、残る80万円は通常の課税口座に移さなければならなかった。これが17年度改正によって、200万円をそのまま非課税口座に引き継ぎ、それを元手にさらなる投資ができるようになった。短期間でまとまった儲けを出すには限度があるというのがNISAの最大の弱点だったが、ロールオーバー上限の撤廃によって、かなり使い勝手が良くなっていると言える。
もっとも、NISAはあくまで2023年までの時限措置だ。金融業界はNISAの恒久制度化を強く求めていて、国内の投資活動を活発化させたい政府が今後応じる可能性は低くないが、現時点では、NISAそのものが将来どうなるか不確定な部分があるという点は踏まえておきたい。
3種類のNISAのなかでも異色なのが「ジュニアNISA」だ。子や孫の将来の資産を形成する親を対象としていて、原則として子や孫本人が19歳になるまで現金化できないというのが最大の特徴だ。投資対象は通常のNISAと同じく投資信託から上場株式まで自由に選べるほか、非課税期間は5年間となっているが17年度改正でこちらもロールオーバーの上限が撤廃されている点は大きい。今後の法改正がどうあれ、子や孫が19歳になるまで投資を続けるに当たって、今後ロールオーバーを使うケースも多いのではないだろうか。
ジュニアNISAの年間の投資上限額は、通常のNISAとつみたてNISAのちょうど中間となる80万円だ。前述したように、投資期間中の途中払出が原則認められないというのがジュニアNISAの短所で、それに見合った長所がこれといって見当たらないため、現状では他のNISAに比べてもやや使いづらい制度と言えるかもしれない。
少額の投資に税優遇を設けて資産形成を助ける制度として、NISA以上に注目を集めているのがiDeCo(確定拠出年金制度)だ。年々加入者が増えていることに加えて、17年からは専業主婦なども制度対象となり、さながらブームの様相を見せている。
iDeCoの最大の特徴は、NISAとは異なり、あくまで年金制度の一種であるということだ。年金制度なので、他の年金制度に加入しているかどうかで年間の拠出額の上限が変わり、また「加入できるのは60歳未満」という年齢上限が設けられている。なお年間の拠出額の上限は、自営業者なら81・6万円、厚生年金の被保険者なら他の企業年金に加入しているかなどによって14・4万円〜27・6万円となっている。
長期間をかけて資産形成をするという点ではつみたてNISAと比較しやすいが、どちらのほうが年間に投資できる額が多いかは、当人の状況によって変わるわけだ。iDeCoでは加入時から60歳になるまでの期間が長ければそれだけ多く投資できるため、若ければ若いほどiDeCoが向いているとも言えるだろう。
そしてiDeCoによる投資は、あくまで老後の資産を積み立てるものであるという理由から、60歳になるまで払出ができない。投資対象は、つみたてNISA同様、証券会社や金融機関が用意した商品のなかから選ぶことになるが、ラインナップはつみたてNISAに比べればはるかに多い。
年金制度であるがゆえに多くの制約を受けるiDeCoだが、逆にiDeCoだけが持つメリットもある。それが手厚い税優遇だ。iDeCoは、NISA同様に利子や配当にかかる所得税が非課税になるだけでなく、掛金とした払い込んだ全額が所得から控除される。つまり投資するほど所得税や住民税が安くなるわけで、この掛金の所得控除こそがiDeCoの最大の長所だと言えるだろう。
iDeCoでは、最終的にそれまで投資で得た利益を払い出す際に、退職金として一度に受け取るか、年金として少しずつ受け取るかを選び、それぞれ退職所得控除と公的年金等控除を適用できる。この優遇に、掛金の全額控除と運用益の非課税を併せて「iDeCoの3つの税優遇」ということもできるが、一つ気を付けたいのは、iDeCoは運用している途中の配当や利子には税金がかからないが、最終的に払い出す際には、退職金控除や公的年金等控除を受けられるものの、所得税自体はかかるということだ。
これは各NISAが払出時にも非課税であることとは、大きく異なるポイントだ。ただし、各控除の枠を出ないよう受け取ることで課税を避けられることもある。また掛金の控除と合わせればトータルで得をする結果になるため、一概にiDeCoが損とはいえないものの、「最初から最後まで全て非課税」と単純に考えていると、資産形成プランの落とし穴になりかねないので注意したい。
4つの制度にはそれぞれ長所と短所があり、確実に一番得をすると言えるものは存在しない。何よりもこれらの制度は全てが結局は「投資」であり、そこには必ず損失リスクが付きまとう。なかには元本保証を掲げる商品もあるが、そういった商品はリターンも少ないため、長い間にインフレが進めば、額面は変わらなくても実質的な価値は目減りしているということもあり得る。
絶対に損をしないという選択肢はないことを踏まえ、自身や家族の状況とライフプランを考えた上で、賢く資産を増やしていきたい。
(2018/01/01更新)