飲み代の損金化に国税の目ギラリ

交際費の総額5年連続増

接待費10年前の水準に


 全国の会社が支出した交際費の総額が平成24年度から5年連続で増加していることが、国税庁の会社標本調査で明らかになった。交際費は税務調査で必ずと言っていいほど支出の実態について調べられる項目であり、支出額が年々増えるなかで税務署はより一層厳しい目で見るようになっている。飲み会の代金を損金にするためのポイントを確認しておきたい。


 国税庁がこのほど公表した「会社標本調査」によると、平成28年度に全国の法人267万2033社が支出した交際費の総額は3兆6270億円で、前年度の3兆4838億円から4・1%の増加となった。

 

 伸び率は26年度の5・4%、27年度の7・2%と比べると鈍化しているが、平成19年度から23年度まで5年連続で前年度比マイナスだった分を、24年度からの5年で穴埋めし、28年度に10年前(3兆6816億円)とほぼ同額に戻したことになる。

 

 交際費支出のピークだった平成4年の6兆2078億円には及ばないものの、景気のバロメーターとも言われる交際費の支出が増えている状況を見ると、儲けが出始めた会社は少しずつ増えているようだ。

 

 交際費は税務署の調査官にとって誤りを見つけやすい項目だ。本来は損金にできない支出を経費計上していないか、厳しい目で申告書に目を通す。

 

 会社が交際費の税務でまず押さえておかなければならないのは、交際費の損金算入額には制限が設けられている点だ。過剰な接待代や飲食費を計上して利益を減らす節税策に制限をかけるためで、損金にできる交際費の額は、①交際費のうち800万円以内の額、②交際費のうち「接待飲食費」の半額――のうちの高い金額となっている。

 

 どちらを選択すべきかは、接待飲食費だけで1600万円を超えるか否かで判断する。1600万円超ならその半額の800万円以上を損金にできるので②が有利となる。なお、資本金1億円超の大企業に①は適用されないので、交際費の支出内容にかかわらず接待飲食費の半額を損金とすることになる。

 

事業に必要な接待かプライベートか

 取引先との飲み代の全てが接待飲食費とされ、損金算入額に制限がかけられるわけではない。1人当たりの額が5千円以下なら接待飲食費には当たらず「飲食費」や「会議費」として全額損金にできる。

 

 このルールを適用するには、領収書の保存に加え取引先の担当者の名前や肩書き、人数を控えておく必要がある。具体的には「株式会社〇〇、△△部、山田太郎部長ほか4人、仕入れ先」といったメモ書きを残せば、損金化を否認されない。

 

 税法上は損金算入額が制限されている交際費だが、会社標本調査によると、資本金1億円以下の会社が平成28年度に支出した交際費額は平均122万9千円で、800万円に届いていない。つまり、ほとんどの中小企業は交際費を全額損金にできると考えてよい。

 

 問題になるのは、会社が損金に算入している交際費のなかに、役員のプライベートなお付き合いの費用が含まれているケースだ。

 

 社長が友人や家族、あるいは愛人と私的な飲食をした時の代金を会社が支払うと、税務上は社長に臨時的な役員報酬を支給したことになる。臨時的な役員報酬は損金にできないので、仮に損金にしてしまい税務署の調査を受ければ、法人税の過少申告で追徴課税の対象になる。

 

 また、役員報酬の支払い時には源泉徴収しなければならないため、交際費にしていると源泉徴収漏れが発生してしまう。役員の私的な飲食の費用を交際費にしないのは当然として、税務署に余計な疑いをもたれないためにも、仕事上の飲食であることを証拠として残しておく必要がある。

 

 当然、交際費の額があまりにも高額だと税務署に目を付けられる。少人数の飲食で1回何十万円も使っていたり、年間の交際費支出の総額が多かったりといった申告を見つけると、交際費を過大計上しているのではないかと疑う。

 

経費で落とすためのポイント

 都内の税理士・保岡武樹さん(仮名)は自分の事務所の税務申告に関する調査を受けた際、調査官から「交際費の支出が会計事務所の平均と比べると格段に高いですね」と言われ、最終的に一部の支出が税務署に否認された。

 

 保岡さんによると、事務所が歓楽街の近くにあるため来所した顧客とよく飲みに行くこと、そして金遣いが比較的激しいとされる芸能関係の付き合いもあることから、ほかの事務所と比べて交際費が多額になるのは当然との認識だったという。

 

 「税務署にとっては額があまりにも過大で、目をつけるきっかけになったのかもしれません。ただ、損金化を否認されたのは額の問題ではなく、交際費のなかにプライベートな支出と判断されてしまう支出があったことが原因のようです」(保岡さん)

 

 税務署は業種ごとにどの程度の交際費を使うかということを把握している。交際費支出額を業種別にみると、1社当たりの支出額が多いのは化学工業(318万9千円)、金融保険業(276万7千円)で、少ないのは農林水産業(57万6千円)や不動産業(75万7千円)だった(表)

 

 同業他社と比べて交際費支出が多いというだけで税務処理を否認されることはないだろうが、交際費が同業種と比べて高い会社や営業収入に占める交際費の割合が高い会社は、税務署に狙われる可能性が増すことを覚悟しなければならない。自社の交際費が業種ごとの平均額から大幅に乖離していないか、帳簿を確認しておきたい。

 

 交際費は税務調査で狙われやすいとはいえ、損金化のポイントを押さえて税務処理すればおそれることはない。経費で落とせる接待を心おきなく楽しむようにしたい。

(2018/05/29更新)