銀行のサポートに国税〝お墨付き〟

暦年贈与、ご利用は計画的に

310万円の受け渡しも有効!


 年間110万円までの贈与は課税対象にならない。しかし、一定期間、定期的に継続してお金を受け取る「定期金給付契約」に同意して贈与すると、贈与税はどうなるのだろうか。例えば贈与初年度に「毎年110万円ずつ10年間移転させる」と同意して贈与すると、定期金給付契約に関する権利についての贈与契約が生じたと国税当局にみなされ、無税で財産を引き渡すことができなくなるおそれがある。三井住友信託銀行は、自行の提供するサービスの利用者に、思わぬ贈与税が課税されることがないか国税当局に確認したところ、「サービスを利用した贈与は、定期金給付契約の権利の贈与に該当するものではない」との回答を得た。財産を渡す人と受ける人との間で毎年贈与に関して合意し、贈与契約書を作成することがポイントであるようだ。


 三井住友信託銀行は、普通預金口座開設者向けの暦年贈与サポートサービスの課税関係について国税当局に回答を求めた。提供するサービス内容は、財産を渡す人と受け取る人との間の贈与の意思を毎年確認し、合意が得られたときに贈与契約書を作成、預金振替による財産移転をサポートするもの。

 

 サービス利用者に贈与税の課税問題が生じる可能性があったため、国税当局の見解を求めていた。年間110万円までは、財産を他者に移転させても贈与税が掛からない。受け取る人との間で毎年合意があれば、結果的に数千万円単位の資産を無税で受け渡すことができ、相続財産を大きく減らして相続税額を抑えることにつながる。

 

 しかし、贈与初年度に「毎年110万円ずつ、10年間贈与する」との合意で贈与を開始した場合、定期的に110万円、合計で1100万円を受ける権利(定期金給付契約に関する権利)に関する贈与契約が生じてしまい、贈与税の課税対象になる。

 

 三井住友信託銀行は、利用者がサービスを申し込んだ時点で贈与契約が成立したと国税当局にみなされ、複数年分の贈与に贈与税がかけられるおそれを懸念し、国税当局に事前確認をしていた。

 

 これに対して国税当局は、定期金給付契約に関する権利がサービスの利用開始時に発生することはないと回答。毎年の贈与契約によって課税関係が生じるとした。金融機関の暦年贈与サポートサービスを使って毎年110万円を贈与した場合に贈与税がかからないことに、国税当局が〝お墨付き〞を与えたことになる。贈与のたびに双方が合意し、贈与契約書をきちんと作成することがポイントといえそうだ。

 

相続増税で高まる生前贈与ニーズ

 生前贈与で資産を移転し、相続財産の圧縮を図るケースは増えている。平成25年度税制改正大綱で相続税と贈与税の増税が決定して以降、資産を生前贈与する動きが活発化した。

 

 国税庁が今年6月1日に公表した資料によると、平成27年分の贈与税申告をした人は53万9千人。申告納税額は増税決定前の24年は1311億円だったが、25年は1718億円、増税前の26年は2803億円に急増。27年は前年の大幅増の反動減で2402億円と前年比14・3%のマイナスになったものの、相続増税前と比べると生前贈与で多額の財産が移転している。

 

 贈与税には暦年課税制度と、2500万円まで無税で生前贈与でき、相続時にその贈与財産も含めて相続税を計算する相続時精算課税制度があるが、それぞれの適用件数は圧倒的に暦年課税制度が多い。暦年贈与の適用者は48万9千人、申告納税額は2161億円、一方の相続時精算課税制度の適用者は4万9千人、申告納税額は241億円となっている。

 

毎年「111万円」を贈与する変則技を使わなくても

 110万円までの財産を無税で受け渡せる暦年贈与だが、財産が多いときは非課税の枠を超えて贈与したほうが効果的なことがある。

 

 東京・荒川区の大久保俊治税理士は、毎年110万円の贈与だけではなく、「310万円贈与」の検討も勧めている。基礎控除110万円を超える部分(200万円)には贈与税が課税されるが、200万円までは適用税率が最も低い10%で済むためだ。

 

  「310万円贈与を10年続けると、3100万円を現金で次世代に移転できて、税金は200万円。小規模宅地の特例などほかの減税制度と比べても効果が高くなることがある」

 

 現金化しづらい不動産と比べて、安定した納税資金確保策にもなる。110万円の暦年贈与では相続税の節税効果が不十分という人は、贈与額に応じて8段階に分かれている適用税率を確認し、最も低い10%税率の範囲に収まる310万円贈与などの方法で、贈与税を納めてでも財産移転することを検討したい。

 

 三井住友信託銀行が国税当局に回答を求めたのは、前述のように、暦年贈与を数年間続けると税務署から思わぬ課税をされてしまうおそれがあるからだ。税務署からあらぬ疑いをかけられぬよう、暦年贈与の際は財産を渡す人と受け取る人の双方が銀行口座を開設し、毎年新たに贈与契約書を作成して、資産移転の証拠を確実に残す必要がある。

 

 贈与の指南書には、111万円を贈与し、非課税枠を超える1万円に対する税金を毎年納めることで贈与の証拠とする方法が紹介されているが、贈与契約書などで事実を明らかにしていればそのような〝変則技〞を使う必要はないだろう。

 

 金融機関のサービスを使った暦年贈与に国税当局がお墨付きを与えたことを機に、生前贈与について改めて確認し、家族の財産を不要に減らすことのないようにしたい。

(2016/08/04更新)