負担増で節税効果年々減少も

税メリット健在の〝法人成り〟


 個人事業主の「法人成り」による節税メリットが、今後も減っていくことになりそうだ。ここ数年の税制改正では、個人事業主と比べて税メリットが多い法人成り企業の税負担を重くする見直しが毎回盛り込まれ、最新の平成30年度改正でも今後さらに負担増となることが示されている。ただ、将来的にはメリットが減っていく可能性が高いとはいえ、現状は個人事業者と比べて法人が納税額を減らしやすいのは変わらない。法人成りは家族経営をしている高所得の個人事業者ほど効果は大きい。法人が適用できる数々の特典を整理し、最も良いタイミングで法人成りできるように検討しておきたい。


 平成30年度の与党税制改正大綱の「検討事項」では、個人事業主と法人成り企業を含めた小規模企業の税制のあり方について「所得の種類に応じた控除と人的控除のあり方を全体として見直す」と、何らかの改正を行っていくことを記している。

 

 大綱だけでは改正の目的は読み取れないが、平成26年に政府税制調査会がまとめた「法人税の改革について」と題した資料では「個人事業主か法人形態かの選択に税制が歪みを与えるべきではない」と税負担を軽くするために法人成りする事業者をけん制し、また「個人・法人間の税制の違いによって法人形態を選択する『法人成り』の問題は是正する必要がある」と税制の見直しを示唆してきた。与党大綱はこの方針を基に作られ、法人成りすれば税負担が減る状況を見直そうとしている。

 

 法人成りによる税メリットはいくつもあるが、近年の税制改正で特に狙われてきたのは、法人になれば役員報酬を法人税と所得税の計算上で2回控除できるという点だ。

 

 個人事業者は自分が受け取る給与を事業の経費として所得から差し引くことはできないが、法人成りをすると、会社は社長をはじめとする役員への報酬を損金にして黒字を減らし節税することができ、さらに役員個人は受け取る報酬を給与所得控除の対象にできるので所得税額を減らすことが可能となっている。

 

退職金、生命保険、社宅…

 この点につき、近年の税制改正では、法人成り企業の税メリットが減らされてきた。まず平成18年度改正では、会社が損金にできる役員報酬から賞与が除外され、役員への報酬支払いによる節税のハードルが高くなった。

 

 さらに、役員個人が所得から差し引ける給与所得控除も年々減っている。平成24年までの控除額は収入に応じて上がっていったが、25年度の税制改正で上限額が設定された。そして、30年度税制改正で全ての所得階層の控除額を一律10万円減額するとともに、控除上限がさらに引き下げられることとなった。

 

 平成30年度大綱の法人成りに関する項目では、28年度や29年度の大綱にはなかった「勤労性所得に対する課税のあり方等にも配慮する」との記述が加えられ、給与所得を含めた勤労性所得への課税が今後も強化されることがうかがえる。

 

 将来的に節税メリットがますます減っていくとはいえ、現状では法人になれば個人事業者より多くの税負担を軽減できる制度であることに変わりはない。法人成りをすると、役員報酬以外にも経費にできる支払いが増える。

 

 特に退職金は、会社が支払い分を損金にできるとともに、個人は税制上の手厚い優遇を受けることが可能となっている。退職所得は、勤続20年以下は「40万円×勤続年数」、20年超は「800万円+70万円×(勤続年数-20年)」を退職金から差し引き、さらに半分にした額となるので、税負担を抑えやすい。

 

 生命保険料の支払いも経費になる。例えば生命保険の掛け金は、個人事業者が適用できるのは最高12万円の生命保険料控除だけだが、法人は契約者と受け取り人を会社とすれば保険の種類によっては全額を経費にできる。

 

 また、社宅の費用も、法人なら福利厚生費や給与として損金にできる。

 

消費税の免税でも恩恵

 法人税と所得税以外の税金も節税が可能となる。東京・新宿区の高橋創税理士は「個人事業者への法人設立の提案は、個人事業者が消費税の課税事業者になるタイミングで行うことが多い」として、法人成りは消費税についても節税効果が大きいと語る。

 

 消費税は個人事業や法人の開始から2年間は原則的に納める必要はなく、課税売上が1千万円を超えた年の翌々事業年度から納税が始まる。個人事業の経営が順調に伸び、消費税の課税事業者となる段階で法人成りをすれば、たとえ課税売上が多くても2年間は消費税を納めなくて済む。ただし、第1期目の最初の半年の売上もしくは給与が1千万円を超えると2年目は消費税の課税事業者となり、納税が免除される期間は1年だけになる。

 

 法人成りによって相続税の節税も可能だ。個人で不動産経営をしている人は、法人を設立して役員を子や配偶者にすれば、役員報酬として資産を生前に移すことが可能となり、相続財産を減らし相続税の軽減を図ることができる。子や配偶者が受け取った報酬は給与所得控除などの控除制度を使うことができ、税負担を抑えることが可能となる。

 

 ただ、法人成りを検討する材料は税メリットだけではない。法人になると社会保険の負担が重くなる。また、赤字でも法人住民税が掛かるといった負担も増える。様々なことを考慮して法人成りを検討する必要がある。

 

 累進課税である所得税は、高所得者であればあるほど負担が重くなる。一人で重い所得税を負担するよりも、法人成りによって家族へ役員報酬を支出し、家族それぞれが所得税を納める方が全体の負担は少なくて済む。法人税の実効税率が4月から0・23%分引き下げられるなど、法人は個人と比べて節税しやすくなっているなかで、同族経営の法人成りはより有効な選択肢となっている。

(2018/05/10更新)