賦課課税方式に高まる不信

あなたの固定資産税は適正ですか?

運用ルール覆す判決も


 固定資産税の算定方法をめぐり、納税者が行政を相手に訴えを起こす例が目立つようになっている。行政による相次ぐ過徴収などの課税ミスが、役所から送られる納付通知書通りに税金を納める「賦課課税方式」への不信につながっているようだ。いくつかの裁判では、これまで通例となっていた運用ルールを覆す判決も出ており、通知書に書かれたとおりに納めるだけだった固定資産税への向き合い方が大きく変わりつつある。


 昨年12月21日、宇都宮地裁で固定資産税をめぐる画期的な判決が下された。訴えを起こしたのは栃木県那須塩原市の温泉旅館経営者で、「観光客の減った旅館には、固定資産税の需要減による評価額の減額特例が適用されるべきだ」との主張に対し、宇都宮地裁は訴えを一部認め、15%の評価額減を市に命じた。

 

 地方税法では、需要減を理由とした固定資産税の減額特例が定められているが、これが建物に認められるのは、かなり例外的なことだ。これまで特例の適用は、交通の不便な離島や、騒音問題のある住宅地など特殊な事情のある地域に限られてきた。市が控訴したため確定判決ではないものの、もし前例として認められれば、全国の空き家や地方の商業地などに多大な影響が及ぶことから、関係者の強い関心を集めている。

 

 このように、これまで通例とされてきた固定資産税のルール適用に司法が疑義を挟むケースが近年目立つようになっている。

 

 昨年2月には、マンション内にある事務所部分の固定資産税の算定方法をめぐり、用途によって異なる補正率を用いていた札幌市の運用法を札幌地裁が「地方税法に反する」と退けた判決があった。同様の運用を行っている自治体は全国に多数あり、判決は反響を呼んだが、9月には高裁で市の主張が全面的に認められる逆転判決が下された。原告の業者は上告する構えを見せており、決着までにはまだ時間がかかりそうだ。那須塩原市の温泉旅館をめぐる一審判決も高裁でひっくり返される可能性はあるものの、これらの判決は今まで当たり前とされてきた固定資産税の計算ルールに一石を投じるものとして、注目に値することは確かだろう。

 

〝通例〟に司法が疑義

 こうした固定資産税をめぐる納税者と行政の対立が全国で起きている背景には、固定資産税を運用する自治体への不信感の高まりがある。不信の原因は、全国の自治体で長年にわたる同税の過徴収が発覚したことにある。

 

 過徴収の例を挙げればキリがない。2014年に埼玉県新座市で発覚したケースでは、夫婦から27年間にわたって本来の2倍超の固定資産税を徴収。その結果、税金の滞納によって自宅を差し押さえられた事件は全国に大きな波紋を広げた。

 

 問題を重くみた総務省が全国の自治体に注意と再確認を呼び掛けた結果、さらに多くの徴収ミスが発見されたが、その後も納税者からの指摘によって誤りが判明するケースは後を絶たず、現在確認されている分も氷山の一角と言わざるを得ない。しかも固定資産税の過徴収の多くは、過徴収が長期間にわたるため条例によって税額を返却しきれず、返却できた分についても加算金を税金で負担するという、二重三重の納税者への裏切りとなっているのが実情だ。

 

 過徴収が発覚した自治体では、本来なら定期的に行うべき実地調査をまったく行っていなかったり、課税台帳への入力ミスが10年以上放置されていたり、担当者の異動時の引き継ぎがほとんど行われていなかったりと、税務行政のお粗末さを露呈した。

 

全国で相次ぐ運用ミス

 固定資産税は、自治体が計算した税額を納税者に通知し、納税者は通知書に書かれたとおりに納めるという「賦課課税方式」を採っている。申告納税方式である所得税や法人税と異なり、納税者が積極的にその中身を吟味することはないし、税務のプロフェッショナルである税理士ですら、税額の妥当性を調べることはまずないといっていい。

 

 さらに、課税された固定資産税額の妥当性について納税者が調べようと思っても、近隣の土地や家屋と比較できる「縦覧」ができる期間は限られている。1年のうち長くても3カ月、短ければ1カ月にも満たず、しかもその期間は自治体によってバラバラだ。納税者が自分の納める税金について知りたいという意思は、制度によって阻まれているといっても過言ではないだろう。自治体に言われた通りに支払う賦課課税方式、一年のうち限られた期間しか許されない縦覧というシステムもあって、固定資産税の課税ミスは長らく見過ごされてきたわけだ。

 

 だがそうした状況にあっても、前述の新座市の問題などによって関心が高まり、ようやく納税者が主体性を持って固定資産税のあり方を意識するように至ったのが現在だと言える。

 

 過徴収などは単なる計算ミスであり問題外だが、固定資産税の算定方法そのものの適正性や、あるいはルールが正しくても自治体の運用のあり方におかしい点はないのかというもっともな疑問が、近年の複数の裁判に表れていると言えるだろう。

 (2017/03/08更新)