今年もまた、豪雨災害が日本列島を襲った。復興の一助となるよう、自然災害の被災時に使える税の負担軽減ルールをまとめた。台風シーズンはこれからが本番であることを踏まえ、関連税制を再確認しておきたい。
「激甚災害」に指定されると、復旧にかかる予算への国庫補助率が上積みされることに加え、雇用保険や被災企業に対する緊急貸付などで特例措置が講じられる。また激甚災害の指定が直接の条件となっているわけではないが、過去に激甚指定された自然災害では、国税でも納税猶予や期限延長が行われることがほとんどだ。
自然災害の被災時に使える税の特例は大きく分けて2つあり、そのうち1つが地域を指定しての個別措置だ。激甚災害のように被害が特に大きかった場合に適用されるもので、昨年は日本全国に被害をもたらした台風19号などが指定されている。
もう1つが、特定の災害に絞らず、恒常的に用意されている、いわゆる「災害税制」だ。災害で何らかの被害を受けたものの、地域ごとの個別指定を受けられなかった人は、こちらの税制をフル活用して復興への足がかりにすることになる。もちろん個別指定を受けた人も利用できるので覚えておきたい。
例えば、災害によって申告や納税などが期限までにできない場合には、所轄の税務署長に申請して承認を受けることで、災害から2カ月の範囲内で期限を延長することができる。国税庁では被災者に対して、延長の申請は当初の期限が経過した後でも行うことができ、申告と同時に申請することもできるとホームページ上でアナウンスしている。
豪雨水害では鉄道や道路などの交通インフラが絶たれることも少なくない。このような災害による交通途絶も、申告・納税ができない理由に該当する。
また、災害によって家屋や設備に被害があった場合には、全財産のおおむね20%以上の損失を受けているなどの基準を満たすことで、最大1年間の国税の納税猶予を受けられる。
これとは別に、被災して資金難に陥ったことなどを理由に納税が困難になったケースでも、最大2年間の納税猶予を受けられる。認められる猶予期間は損失の程度によって変わるが、2つの特例を組み合わせれば、最大で3年間は納税が猶予される。
これらの特例を適用するためには、財産の収支状況報告書などを添えた申請書を税務署に提出して認められる必要があるが、後日の提出も認められ、聞き取り調査だけで済むこともある。まずは申請してみることだ。ただ猶予を受けようとする金額が100万円以上の場合は担保の提供が求められる。
会社が災害によって被害を受けた場合、税務署の承認を得ることで、災害が生じた日が属する課税期間について、簡易課税制度の適否を変えることが可能だ。災害によって事務処理能力が低下したために簡易課税に切り替えたいケースや、業務用資産にダメージを受けて緊急の設備投資が必要になり、一般課税への変更が必要なったケースなどで使える特例だ。
商品や事務所に損害があった場合には、当然その分は損金として処理することができる。損壊して使い物にならなくなった資産の取り壊し、流入した土砂の除去費用も忘れずに損金に算入したい。
気を付けたいのは、復旧時の費用だ。被災した建物などを原状回復させるためにかかった費用が修繕費として損金にできるのはもちろんだが、「今後の豪雨被害に備えて」という理由で被災前の機能を超える補強を行うと、それについては資本的支出として減価償却を行わなければならない可能性がある。修繕費と資本的支出の判別は当局にチェックされやすいポイントでもあるので、税理士などと相談の上、しっかりと処理しておきたいところだ。
個人として被災した場合の特例では、「雑損控除」か「災害減免法」の2択が基本的な考え方となる。雑損控除は、本人か生計を一にする親族を対象として、「損害額から保険金や損害賠償金を差し引いた金額-所得の10分の1」か「損害額のうち、被災後の取り壊しや土砂除去などにかかった費用-5万円」のうち、多いほうの金額が、所得から控除されるものだ。損失が控除しきれない際は、3年間かけて控除することも可能で、その対象となる支出には、失われた家財や車の価格のほか、洪水などで流出してしまった現金、泥の除去費用、家屋やガレージの修繕費など幅広い費用が含まれる。
一方の「災害減免法」は、所得に応じて、その年の所得税額が軽減されるものだ。所得が500万円以下なら全額免除、500万円超750万円以下なら2分の1軽減、750万円超1千万円以下なら4分の1軽減となる。ただし災害で受けた損害金額が、住宅や家財の2分の1以上という大きな被害でなければ適用できない。
雑損控除と災害減免法はどちらかの選択適用となるが、災害減免法の特例は所得1千万円以下の人が対象となっているため、経営者であれば雑損控除を適用するケースがほとんどかもしれない。
個人でも、全財産の20%以上の損害を受けていれば最大1年間の国税の納税猶予が受けられる。被災して資金難に陥ったことなどを理由に納税が困難になった場合には、法人同様、2つの特例を組み合わせて最大で3年間の猶予措置が適用できるので覚えておきたい。
その他、さまざまな税目で被災者が使える税制上の特例があるので、使えるものは使って元の生活を取り戻すための足がかりとしたいところだ(表)。
自分ではなく取引先などが被災したため、何らかの支援をする際の税金についても押さえておきたい。取引先に対する災害見舞金については、被災前の取引関係の維持や回復を目的とするものならば、全額を損金に算入することができる。被災した取引先の売掛金などを免除した場合の損失も損金算入が可能だ。
さらに、低利・無利息による融資をした場合には、金利相場との差額が寄付金として扱われ損金算入額に限度額が設けられるが、被災した取引先への融資なら、低利または無利子でも寄付金にならず、融資額や期間についても制限がないこととされている。
(2020/09/07更新)