いつか、きっと来る・・・

苛烈さ増す相続税調査

申告4件に1件がターゲットに


 相続税は基礎控除額の引き下げで課税対象者が増え、これまで以上に多くの人にとって〝身近な税金〞になった。相続税の大衆化は即ち、調査を受けるおそれが高まっていることも意味する。相続税の申告期限は相続開始から10カ月、調査は申告後1〜2年でやって来る。増税の影響が調査に反映されるのもそう遠くない。事前の相続対策を講じるべきなのはもちろんのこと、仮に国税当局の鋭い追及を受けることになってもきちんと対応できるように調査の概要を知っておかなければならない。


 相続税は、申告件数に対する税務調査割合がほかの税目と比べて圧倒的に高い。平成26年度に実施された相続税の実地調査は「平成24年分の相続が中心」(国税庁)で、1万2406件。24年分の申告書提出に掛かる被相続人数5万2572人で単純計算すると、課税対象になる相続のうち23・6%が税務調査のターゲットになっていることが分かる。

 

 法人税調査は申告30件のうち1件に調査、所得税調査は300件のうち1件程度であるのに対し、相続税は申告4件に1件が調査対象になる計算だ。実地調査1万2406件のうち、申告漏れなどの非違が見つかったのは1万151件、非違割合は81・8%だった。税務調査を受けると8割の人が申告ミスを発見されてしまう状況だ。事前に国税当局が資料情報を念入りに調べ、調査対象者を精査していることがうかがえる。

 

 相続税の基礎控除額引き下げで、以前までの税制であれば課税対象ではなかった人も相続税の納税者になる。調査の対象にならないように慎重に申告することに加え、万が一調査を受けることになっても適切に対応できるよう、相続税調査の実態をきちんと確認しておきたい。

 

「調査官は無駄な話は一切しない」

 相続税調査の調査官は基本的に2人でやってくる。玄関に入ってきた瞬間から調査は始まっていると言ってよい。調査官は調度品を鋭くチェックしているのだ。そして、被相続人の霊前に線香をあげた後、被相続人の生前の思い出話をするように促してくる。実はこれも調査の一環だ。

 

 相続税調査に関する著書を持つ服部誠税理士が、エヌピー通信社と一般社団法人相続税務支援協会が共催したNPビジネスセミナーで「調査官は無駄な話は一切しない。どんなにささいな世間話でも必ず何か狙いがある」と語ったように、やり手調査官は常に申告漏れを見つけ出すための糸口を探っているので油断は禁物だ。

 

 被相続人の趣味や交友関係といった相続税調査とは一見無関係のことでも、それを聞き出すことで、財産の流れを探ろうとする。例えばゴルフが趣味であれば、ゴルフ会員権を持っている可能性を頭に浮かべるという。死因だけではなく病歴も聞き出される。5年前から認知症を患っていた被相続人の口座から、死亡1カ月前に多額の現金が引き出されていたとしたら、相続人が現金を手にしている可能性を疑われることになる。

狙われる名義預金

 また、室内にかけられたカレンダーや洗面所のタオルに金融機関の名前が印字されていれば、提出書類にあった金融機関名と照合される。申告資料にその金融機関名の記載がなければ、疑われるのは、名義人と実質的な所有者が異なる名義預金の存在だ。名義口座が疑われた場合、その金銭が名義人の特有財産であることを証明する必要がある。

 

 名義預金を含めた「現金・預貯金」は、調査官が税務調査で特に目を光らせている財産である。相続財産のうち、「現金・預貯金」は全体の約3割(金額ベース)で、「土地・家屋」の約5割と比較すると少ない。しかし、調査で発見される申告漏れ財産で見ると、「現金・預貯金」は4割近くに上り、「土地・家屋」の約1割を大きく引き離す。

 

 被相続人の配偶者や子自身の預金口座にそれぞれの収入にそぐわない預金があるときは、その口座に入ったお金の出どころを探られる。被相続人から合法的に受け取ったものであることを証明できるように、事前にきちんと対応しておきたい。例えば暦年贈与の非課税枠を使って毎年贈与を受けるのであれば、贈与証明書を残しておくことが大切だ。

 

 このほかにもありとあらゆることが聞かれ、室内のいたるところをチェックされる。今後、調査の苛烈さが増すことは想像に難くない。相続税の大衆化に加え、富裕層への監視も強まっている。相続税調査の受け手は初めての経験でとまどうことばかりだろう。それに対して調査官は百戦錬磨の腕を持っている。調査官のプレッシャーにひるむことのないよう、専門家である税理士に相談して対応したい。

(2016/09/07更新)