海外への豪華な出張だけかと思えば、湯河原の別荘への公用車使用だの温泉旅館への家族旅行だの、絵画購入だのと、よくもまあ税金を好き勝手に使ってくれたものだ。挙句の果てにはコーヒー代の領収書までチョロまかしていたというのでは、あまりにもセコ過ぎて書く気にもならなかったが、そうもいくまい。
これでも辞任しないという舛添要一東京都知事が、最近ではバケモノに見えてきて、じつは心底怖い。「厚顔無恥」という言葉の生きたサンプルともいえるほどの、地位や権力へのおぞましいほど強力な執着心は、いったいどこからわいてくるのだろうか。
案の定、自分たちで選んだ弁護士による〝第三者機関〟の調査では、「不適切ではあるが違法性はない」などという結論。加えて都議会の追及も甘い。いったいどうすれば、このバケモノを権力の座から引きずり下ろすことができるのだろうか。
しかし、スキャンダルの追及や政治的な論評などは、この際、他紙にお任せしたい。わがエヌピー通信社は、日本新聞協会の加盟社中、唯一の税務・財務専門新聞社。都知事の醜聞を「税金」の面から考えてみる。
豪華な旅行を会社が社長に提供したときは、税制上、給与として社長に課税されることがある。社長さんは、「自分で稼いだお金」であっても好き勝手には使えずに、経費性が認められなければ「給与」として所得税を課税されているのだ。かたや、都知事が使ったお金は税金である。「自分で稼いだお金」には課税されるのに、「他人から集めた税金」ならば課税されないとでもいうのか。舛添氏や都職員は出張で、給与と同じ意味合いを持つ「経済的利益」を受けているのではないか。
都知事はよくても民間の社長さんはダメ、などといわれても到底納得できない。「税の公平性」を守る国税当局には、租税正義の番人として、ぜひとも民間企業の社長さんたちに接するときと同じように、「納税者としての舛添氏個人」に対峙してもらいたいものだ。
〝号泣議員〟を覚えているだろうか。あの、野々村竜太郎元兵庫県議には、裁判で懲役3年が求刑されている。そんな野々村氏がだまし取ったといわれている金額は約900万円だった。豪華出張や温泉地通いで多額の〝無駄遣い〞を重ねる舛添氏に対して、彼が「どうしてボクばかりが……」「そんなに支出してもお咎めナシ?」と悔しがったとしても不思議ではないだろう。
舛添氏の豪華出張を会社に置き換えて考えてみる。出張に「通常必要」な分を超えて会社が費用を支出したときは、出張した役員や社員に経済的利益があるとみなされ、給与として課税される。例えば、極端に高額な出張旅費(手当)や、高級ホテルのスイートルーム代、航空機のファーストクラス料金は、国税当局に「通常の出張に必要」と認められず、給与課税されるおそれがある。
都の昨秋のロンドン・パリ出張での宿泊料は、5泊7日で合計922万2千円だったとされている。出張した20人全員が5泊したとして、一人当たり1泊約9万2千円の出費になる。実際に全行程に参加したのは14人で、一人当たりの宿泊料は10万円超になるようだ。
社長の出張について、会社が都と同様の会計処理で税務申告した場合はどうなるのか。当然、社長に経済的利益があると税務調査官に判断され、給与課税されかねない。宿泊料以外にも、都は航空費1443万7600円、携帯電話借り上げ代・通信料224万6100円など高額な出費をしているが、会社であればこれらが出張に必要であることを合理的に説明するのは難しいだろう。
また、出張費用だけではなく、社員旅行のための費用を会社が負担したときも、その負担した金額が過大であれば社員が所得課税されてしまう可能性がある。例えば、毎日クルージングで高級ディナーを堪能するような豪華ツアーを企画したら、国税当局に給与とみなされることがある。
舛添氏のように「二流、三流と思われると体面が良くない」といった考えから、社長が会社のお金で、出張用として有名ブランドのスーツ、ネクタイ、靴などを新調したとする。これも当然ながら社長個人の経済的利益として給与扱いとなるのが原則だ。「二流、三流と思われると対面が良くない」などと、社長さんが説明したとしても、国税当局が経費性を認めるだけの合理的な理由になるとは思えない。
つまり、「税の公平性」からいえば、「通常必要な出費を超えた無駄づかいであると大半の人が考えている」ものは、経費とはみなされずに、社長さんや役員・社員への個人的な給与だとみなされ、課税されるというのが、税金の基本的なルールなのである。
舛添氏が受けた「経済的利益」は、すべて税金で賄われている。第三者機関も都議会もあてにならない以上、租税正義を守る観点からも国税当局が鋭いメスを入れてくれることに期待したい。
【槌】
(2016/06/10更新)