税の専門家もうっかりミス

続出!税金の過大納付

届出書類の提出を忘れ大損など


 税理士の先生は節税や間違いのない申告のための心強い存在だが、そんな税金の専門家であってもミスをするときがある。難しい税制による誤りだけでなく、イージーミスが多発しているのが現状だ。特に消費税や法人税で判断ミスや届出失念が続出している。税理士の最新失敗事例を反面教師にして、決して人ごとではない税務ミスについて学びたい。


 税の専門家でも税金に関するミスを犯すことを前提に、税理士業界には顧客からの損害賠償請求の負担を緩和する「税理士職業賠償責任保険」(税賠保険)がある。この税賠保険に加入しているのは、約2万7千人の税理士(開業税理士の約46%)と2500社の税理士法人(税理士法人本店の約81%)。ミスが発生する可能性は残念ながらゼロにできないことを踏まえ、多くの税理士・税理士法人が損失時の補償を求めている。

 

 日本税理士会連合会(日税連)はこのほど、税賠保険の加入者が顧客から賠償請求を受けた事例を公表した。同様のミスが再発することのないように税理士に毎年注意喚起することが公表の目的だが、経営者や会社の経理担当者も同じ誤りをすることのないように参考にしたい。

 

 毎年失敗事例が多い税目は消費税だ。難解な税務処理ではなく、単純ミスが目立つ。

 

 平成26年4月に資本金100万円で設立されたA社は、決算期を12月に設定していた。税理士とはその年の6月に顧問契約を締結。この税理士は、A社が消費税の還付を受けるために課税事業者になる必要があることを認識していた。しかし、提出期限である年内に「消費税課税事業者選択届出書」を提出しなかった。

 

 年末に国税電子申告システム「e―Tax(イータックス)」で電子送信しようとしたのだが、年末・年初はシステム停止していることに気づき「停止期間は無理なのだから、年明けに送信すればよい」と誤認し、年が明けて1月5日に送信したという。しかし、届出書が無効であることを2月に税務署から通知された。

 

 早めに税務署に届出書を提出していれば防げたミスだといえる。このような課税事業者と免税事業者の選択に関するミスは毎年の〝常連〞だ。また、消費税には原則課税と簡易課税があるが、この制度関連の届出でミスをしてしまう税理士も多い。

 

消費税、法人税で数々の失敗

 簡易課税制度は、年間の課税売上が5千万円以下の事業者が、課税売上高と、業種ごとに定められた「みなし仕入率」で支払い消費税を計算する方法。実際に支払った消費税額以上の額を控除できることがあるが、開業当初など設備投資や仕入れが多い時期は原則課税を選び、実際に支払った消費税額を差し引いた方が税額が少なくて済む。

 

 B社は平成22年7月、顧問税理士を通じて「消費税簡易課税制度選択届出書」を税務署に提出。25年には太陽光発電設備の投資計画を立てて税理士に相談し、27年に太陽光設備を取得、売電を始めた。

 

 ここで問題になったのは、多額の設備投資があることが分かっていた以上、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出して原則課税の適用事業者になるべきだったにもかかわらず、税理士が届出を失念したことだ。

 

 ミスは、課税売上高が5千万円を超える期間が2期続いたという状況のもとで発生した。簡易課税制度は課税売上高5千万円以下の事業者を対象にしたものであり、届出書を提出していても売上高が5千万円超になると原則課税制度が適用される。原則適用期間が2期続いたため、税理士は平成22年に簡易課税制度選択届出書を出していた事実を忘れてしまっていたのだ。

 

 消費税と比べてミスの内容が多種多様になるのが法人税である。

 

 C社は社員に支給する給与を増やし、給与支給額が増加したときの法人税額の特別控除(所得拡大促進税制)の適用を受けようとした。しかし、提出した申告書をC社がチェックしたところ、税額控除の適用がないことに気づく。顧問税理士に確認すると、この税制の適用要件に関する税理士の認識違いの事実が発覚した。国税当局に更正の請求をしたが認められず、過大納付額が発生したため、賠償金を税理士に請求した。

 

 このほか法人税関係では、投資信託の配当控除、公共の利益になる事業のために土地を譲渡したときの収用換地の所得特別控除、子会社との適格合併時の繰越欠損金の引き継ぎ、外国子会社合算税制などで税理士のミスが発生している。また、贈与税では非上場株式の評価額の計算ミス、所得税では投資信託の配当控除の誤申告があった。

 

 今回の所得拡大促進税制の例のように、会社が制度不適用について税理士に質問したことで発覚したミスもある。過誤が発覚する可能性は高いわけではないが、税理士に質問をすれば税金に関する知識が深まる。そのことで会社の経理担当者から発生する税金ミスは大幅に減るだろう。税理士とのコミュニケーションを深めることは、間違いのない税務処理をするための一歩といえそうだ。

(2016/07/08更新)