新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府は〝コロナ対策税制〞を盛り込んだ緊急経済対策を閣議決定した。コロナ対策税制の特例を利用すれば、延滞税を負担せずに納税を1年間先送りすることが可能となり、キャッシュフロー悪化の防止につながる。だが、利用に当たっては細かい条件をクリアしなければならず、ほかの施策で事業立て直しを図ると猶予を受けられなくなるおそれがあるなど注意点は多い。中小事業者が生き残るために、納税猶予を受ける上でのポイントを整理した。
いわゆる〝コロナ対策税制〞は、3月27日に成立した2020年度税制改正法とは別建ての特別措置で、関係法案が国会で成立した後に適用開始となる。
安倍首相が「世界各国と比べても最大」と言い切る経済対策の事業規模は、政府の説明によると108兆円に上るというが、即効性があるはずの中小事業者への直接給付金は約17兆円に過ぎず、その効果は疑わしい。
中小が〝使える〞政策を挙げるとすれば、26兆円の納税猶予特例くらいだ。新型コロナの影響で収入が大幅に減った納税者を対象に、2月1日から来年1月31日までの間に納期限がある国税と地方税、そして社会保険料を1年間猶予する。特例の施行日前が納期限となっているものについても遡及して対象とする見通し。
赤字企業であっても消費税や固定資産税などは必ず支払わなければならないが、来年1月までの納付分については先延ばしが認められる。その際、通常の納税猶予を適用する場合に必要な担保の提供と年間1・6%の延滞税は求められない。つまり、消費税や固定資産税に相当する金額の融資を無利子・無担保で受けたのと同じ効果が生じることになる。
だが、新型コロナの影響に苦しんでいるすべての事業者が適用できるわけではない。大前提として、収入が前年同期比でおおむね2割以上減っていなければ猶予は認められない。仮に新型コロナの感染拡大によって事業活動にダメージを受けていても、収入の減少を2割未満に抑えることができていれば対象外となってしまう。
この2割基準の判断の際には、今年2月から本来の納期限までの期間のうち、事業者にとって有利な期間を選ぶことができる。1カ月以上であればどの期間で判断しても問題ないので、4月までは一定の収入を確保できていても5月以降に前年同期比で大幅減となる月があれば適用できるということになる。
その判断において重要なことは、前年同期と比較する「収入」の解釈だ。金子尚弘税理士(名古屋市)は、「臨時的な特別利益は『収入』から除外して判断することになるのではないか」と見ている。例えば前年に本業とは関係のない不動産の売却益があり、その収入を前年の利益に加えれば今年の利益の減少割合がようやく2割を超えるというケースでは、「納税猶予が認められない可能性が高い」(金子税理士)という。
また、収入2割減の要件とともに押さえておかなければならないのが、「一時の納税が困難と認められる場合」という条件だ。現行法上の納税猶予でも同様の条件があるが、通常は納税すると1カ月分の事業資金すら手元に残らないようなケースが想定されているのに対し、今回の特例では「少なくとも向こう半年間の事業資金」を確保できなくなる事業者を対象にすることが予定されている。
これまではわずか1カ月分でも事業資金が残るようなら問答無用に納税を促されてきたのだが、今後は半年分までは手元に残すことが認められるようになる。ただ注意したいのは、融資を受けていると猶予の特例が使えなくなる可能性があることだ。
政府は経済対策の目玉として無担保・無利子の融資があることを強調しているものの、全ての事業者が利用できるわけではなく、対象から外れる事業者は金利を負担しなければならない。利子を負担してでも1年間の資金を調達することにした場合、「『半年間の事業資金』という条件を満たさなくなるので、無利子の借入と同じ効果がある納税猶予は受けられなくなる可能性がある」(金子税理士)という。
そのような注意点を確実に押さえ、納税猶予措置の対象になるのなら利用したいところだ。今回の特例について都内の国税OB税理士は、「大規模な災害の際には当局の審査基準は緩くなる傾向があるので、納税猶予の特例の申請は思いのほか通りやすいということになるはず」と見ており、適用条件を満たすか否かの境界線上にある経営者にも積極的に制度の利用を提案するとしている。
適用可否の境界線上にある場合は税務調査のリスクが気になるが、「そもそも特例は猶予に過ぎず、最終的に納税者は税金を納めることになるので、後から申請内容に若干の疑義が見つかっても、それだけで調査に移行する可能性は低いのではないだろうか」(OB税理士)と予想する。
特例を適用できればキャッシュフローの改善効果は大きい。新型コロナで被った損害を緩和するために、適用条件を確実に押さえるようにしたい。
(2020/05/28更新)