制度開始から10年を経過した「ふるさと納税」が、岐路に立たされている。もともとは思い入れのある土地に寄付をして税優遇を得られるという趣旨でスタートしたが、返礼品が人気を呼び、自治体間の寄付争奪戦が過熱。地方の生き残りは自助努力にかかっているとうたってきた手前、政府も強気の対応に出られず、結果として総務省の求める〝節度〞に従った自治体とそうでない自治体との間にさらなる差が生じることとなっている。自由競争か、規制による横並びか。どちらの道を選ぶにせよ、決断の時はそう遠くなさそうだ。
昨年11月に実施されたアンケート調査によると、2016年度のふるさと納税寄付受け入れ額の上位100自治体のうち、6割が「17年度は寄付額が減少する見通し」だと答えたという。
その理由は、総務省が昨年春に全国の自治体に一斉送付した通知による。換金性の高い商品券やプリペイドカード、あるいは寄付金の7割に達する高還元率の返礼品が寄付を集めていた状況を踏まえ、「換金性の高い家電製品などは自粛し、価値も寄付金額の3割まで」とする基準を打ち出した。
多くの寄付金を集める人気自治体の多くは、7割とまではいかなくても高返礼率を売りにしていたため、基準に従って返礼品を見直したところ、寄付が激減するケースが相次いだ。
16年度に全国2位だった長野県伊那市は、総務省の要請に基づき家電製品やカメラを返礼品から取り下げたところ、寄付金額が72億円から5億円にまで落ち込んだという。3位だった静岡県焼津市も、返礼割合を3割以下に抑えたところ寄付がほぼ半分に減った。
そんななか、全国1位だった宮崎県都城市は前年とほぼ変わらぬ約75億円の寄付を集めたが、ここにはカラクリがある。同市も5〜6割だった返礼率を3割以下に抑えたため、寄付が低迷。そこで返礼品の価格を、それまでの「事業者の利益を上乗せした定価」から「原価」にしたところ、寄付が急回復したという。要するに、言葉の解釈だけを変えることで総務省の基準をくぐり抜けたわけだ。
そもそも総務省の打ち出した基準は、あくまで要請であり強制ではない。そのため、都城市のような〝言い訳〞をせずに、通知後も変わらず還元率の高い返礼品を送っている自治体や、新たにそうした返礼品を始めた自治体もある。
例えば神奈川県寒川町は今年3月、町のブランド戦略の一環として約1カ月間だけ「返礼率5割」の旅行券を用意し、15億円の寄付を集めた。
また茨城県水戸市は「姉妹都市である」という理由で、100万円の寄付に対して40万円の価値がある米国アナハイムへの旅行券を現在もプレゼントしている。
過半数の自治体が総務省の通知に従い返礼品を見直した一方で、寒川町や水戸市のように〝過度〞な返礼品を用意する自治体が存在する。当然、後者に一層の注目が集まり、多額の寄付が集まるのは、やむを得ないことだ。こうした一部の自治体に対して、野田聖子総務大臣は「制度の趣旨に反する」と苦言を呈している。
だが苦言はあくまで苦言にとどまり、拘束力を持つものではない。高額返礼品に対してたびたび総務省は不快感を表してきたが、建前として返礼品はあくまで自治体による寄付者への感謝の気持ちに過ぎず、国がそこに介入することは地方自治の原則に反することになってしまうからだ。
また安倍政権が、地方創生の方針として自治体による自助努力を奨励してきたこともある。「やる気のある地方を応援するのが、安倍内閣の『地方創生』だ」(安倍首相)と明言してきたにもかかわらず、財源確保に積極的に取り組んだ自治体を押さえつけてしまっては、いわばこれまでの政権の姿勢に逆行することにもなるため、総務省も強く出られないという事情がある。
もっとも、そうは言っても現状を放置すれば総務省の基準に素直に従った自治体からの不満は蓄積するばかりだ。野田氏は「現在は制度全体についての取りまとめの最中で、そこで見つかった課題を踏まえて対応を検討したい」とも話していて、現状打破のために何らかの対策を考えていることは間違いない。
もう一つ、野田氏の最近の発言で見逃せないのが、返礼品の総額にも言及したことだ。これまで総務省が主に問題視してきたのは、寄付金額に対する返礼品価格の「割合」だ。しかし野田氏は6月22日の会見で、「高額な返礼品については、一部の高所得者のみが対象になり、制度の趣旨に反する」と、返礼品の「値段」そのものに触れた。
仮に寄付に対する割合が3割以下だったとしても、30万円分の返礼品を手に入れるには100万円の寄付が必要になる。野田氏はそれを「高所得者の特権」とみなし、解消すべき課題だと認識していることになる。
ふるさと納税は、東日本大震災の被災地を支援する方法として利用者を増やし、返礼品の人気で広く利用されるようになった。しかし寄付を集める自治体と集められない自治体、税収を奪われる自治体と奪う自治体という新たな対立構造を生んできたのも事実だ。自治体間の自由な競争として受け入れるのか、それともこれまでの方針を曲げて強権的な規制に踏み切るのか、国は判断を迫られている。
(2018/08/31更新)