経営革新等支援機関の肩書を持つ税理士などの専門家の協力を適用条件とした優遇制度が増えている。昨年スタートした事業承継税制の特例をはじめ、償却資産税の負担を大幅に軽減する特例など、支援機関の関与を前提としたメニューは幅広い。さらに、毎年新たな補助金の公募も始まるが、支援機関の関与を条件としたものが少なくない。補助金や助成金は社会保険労務士や中小企業診断士の専売特許と見られてきたが、支援機関なしでは適用できない制度の増加により、税理士に受給のサポートを頼みやすくなっている。顧問税理士が支援機関の肩書を持っているなら活用を検討しない手はない。
経営革新等支援機関とは、税務、金融、企業財務についての専門知識が一定レベル以上であることについて国から認定を受けた個人・法人を指す。全国に約3万の機関があり、そのうち税理士が65%、税理士法人が10%で、つまり4分の3が税理士(個人・法人)による登録となっている。
新年度がスタートして間もないこの時期には補助金の公募が増えるが、いくつかの補助金の受給条件を見ていくと、支援機関の関与なしでは受給できないものがあることに気付く。例えば、革新的なサービスや試作品の開発、また生産プロセス改善の設備投資費用を支援する補助金(ものづくり商業・サービス生産性向上促進補助金)もそのひとつだ。今年2月に公募が始まったこの補助金制度では、支出した機械装置費、技術導入費、運搬費、専門家経費などの費用の最大3分の2が補助される。
また、事業承継をきっかけとした経営革新や事業転換にかかる費用の一部が補助される補助金(事業承継補助金)の公募も始まる。やはり適用には支援機関の関与が必要で、これまでの制度の内容を見ると、補助額の上限は新商品の開発などの「経営革新」が200万円、既存事業の廃止などの「事業転換」が500万円となっている。
これらのように公募期間が限られている補助制度だけではなく、通年で応募が可能な制度もある。それは、支援機関のサポートを受けながら「経営改善計画」を策定することで、その策定費用の一部が補助されるもの(経営改善計画策定支援事業)だ。支援機関に支払う計画策定費用やその後のフォロー費用の3分の2を上限に、最大で200万円を国が肩代わりする。この経営改善計画の内容によっては銀行が返済条件を緩和することがあり、借り入れにかかる負担を和らげることもできる。
補助金だけではなく、税優遇策においても支援機関抜きでは適用できないものが多い。支援機関の協力のもとで人材育成や設備投資などの見通しを盛り込んだ「経営力向上計画」を策定した会社が、機械や装置にかかる固定資産税の軽減を受けられる税優遇は、昨年スタートしたものだ。法人税ではなく固定資産税を優遇するため、赤字の会社でも利用できるという使いやすさがあり、幅広い人気を集めている。
自社株の相続や贈与の負担を軽減する事業承継税制の特例も支援機関が関わらなければ適用できない。支援機関の協力のもとで「特例承継計画」を策定して都道府県に提出すると、通常の事業承継税制では3分の2までしか認められない猶予対象株式の割合が10割に引き上げられ、また相続税評価額の8割だった猶予上限も10割に拡大される。特例承継計画は残り4年のうちに提出することが必須となっている。
そして平成31年度税制改正に盛り込まれた、個人事業主の事業引き継ぎに掛かる税負担が緩和される「個人版事業承継税制」についても、支援機関の関与が適用のための必須条件だ。法人版が自社の非上場株式を対象としているのに対し、個人版は事業用の土地、建物、機械・器具備品など幅広い資産が対象になっている。法人版同様、承継円滑化法に基づく認定を受ける必要があり、5年以内に承継計画を提出しなくてはならない。
支援機関制度を取り巻く状況を見てみると、ここ1〜2年で活動する機関が大幅に増え、登録者の増加ペースも早くなっている。さらに今春からは、支援機関の実績の詳細がインターネットに掲載されるようになり、顧客に選ばれる機関となるために支援機関としての活動を強化する動きが出ている。
4年前に支援機関となった東京・板橋区の高丘康子税理士(仮名)は、最近までは実際に支援機関としての業務を行わない「名ばかり機関」だったという。しかしインターネット上に実績の詳細が掲載されるようになったことを受け、「顧客が私の支援機関としての活動状況を調べる可能性もある。そこで私に実績がないと分かれば、税理士業務の依頼を避けてしまうということも起こりかねない」といった懸念から、具体的な実績を積むことにしたそうだ。高丘さんに限らず、税理士の積極的な動きは目立つようになっている。
支援機関の関与を適用条件にしたこれらの各種制度は、全国に3万ある機関のどこに頼んでも適用できることになっている。ただ中小企業庁によると、不当に高額な成功報酬を請求する機関もあるようだ。やはり信頼できる顧問税理士に頼むのが一般的と言えるだろう。なお、支援機関となっている税理士は全税理士の3分の1程度に過ぎず、会社の顧問税理士が必ずしも登録しているとは限らないことは知っておきたい。
(2019/05/09更新)