社長さんに負担ズシリ

年収数千万円~1億円に重課税


 中小企業の社長の負担がさらに重いものになりそうだ。政府税制調査会はこのほど、今後の税制のあり方に関する見解をまとめた文書を公表し、いわゆる高所得者への課税強化を図る方針を示した。所得再分配機能の回復の観点から所得税の各種控除を見直すとしており、高所得者の控除額を減らす内容の改正が想定されている。税金の実質負担率が最も高い年収数千万円から1億円クラスの社長がまたもや課税強化の対象となった。


「高所得者」のライン引き下げ

 政府税制調査会(政府税調)は「経済社会の構造変化を踏まえた令和時代の税制のあり方」と題する文書で、これまで所得再分配機能の回復を図り「経済力に応じた公平な負担」の実現に向けた改正を行ってきたとしたうえで、今後についても再分配機能の回復につながる税制改正を行う方針を示した。

 

 

 所得再分配機能とは、所得に応じて税金を徴収し、格差の是正を目指すというものだ。すなわち、多くの税を負担することができる高所得者から、より多額の税金を徴収するという方向性が示されたことになる。

 

 所得再分配機能は現状、有効に働いているとは言えない。最も大きな問題は、金銭的に余裕があるはずの年収数十億〜数百億円レベルの超富裕層の負担は軽く、多くの中小企業の社長が当てはまる、所得が数千万円から1億円ほどの層が最も重い負担を背負っていることだ。国税庁のデータによると、所得控除分などを差し引いた所得税の実質負担率は、所得5千万円から1億円の人の28・5%が最も高い(グラフ1)

 

 所得5千万円から1億円の人と比べ、所得1億円超の所得者層の負担率が下がる理由は、株式の配当など金融所得の割合が大きいためだ。給与所得など総合課税の対象となる所得に対する最高税率は45%だが、分離課税となる金融所得は15%しか課税されない。そのため金融所得の割合が多ければ多いほど負担率が低くなる。

 

 そもそも給与所得に関しても、所得が4千万円を超えると一律45%となり、年収が数千万円でも数十億円でも税率が変わらない状態が放置されている。

 

 近年の税制改正の傾向を見ても、年収数十億円クラスの人への課税強化ではなく、「高所得者」に区分されるラインが引き下げられ、年収数十億円の人と一括りにして、同じ条件でしか控除制度を適用できなくする内容の改正が目立つ。

 

高額納税者だけで8割カバー

 給与所得から控除できる「給与所得控除」の改正もそのひとつだ。給与所得控除は、収入が多い人ほど控除額が増える仕組みで、収入が一定額を超えると控除額は頭打ちとなる。3年前までそのラインは年収1200万円だったが現在は1千万円で、さらに来年からは850万円に引き下げられる。年収850万円の人は「高所得者」とみなされ、年収数十億円の人と一括りにされてしまうことになる。

 

 また「配偶者控除」についても、昨年から所得制限が設けられ、納税者本人に1千万円を超える所得があると適用できなくなっている。政府税調が今回まとめた文書では、所得が一定の額を超える人の控除額を減らしたことについて「各種控除の適正化が行われた」と記しているが、超が付くほどの高額所得者の負担は軽いままで、年収1千万円ほどの人の負担だけ重くなっている。

 

 所得税の申告納税額がある641万3千人のうち、所得が1千万円超の人は84万1千人で、全体の13%に過ぎない。反対する声が少ないために狙い撃ちされてしまうという部分はあるだろう。だが1千万円超の人が支払った税額は全体の8割超、じつに83・4%を占めている(グラフ2)

 

 政府税調が今回示した意向を踏まえて税制改正が行われることとなれば中小企業の社長の負担はさらに重くなるが、課税強化にはもっと慎重な議論が必要なはずだ。

(2019/11/28更新)