社長さんなら絶対避けたい給与課税

あらためて確認、役員の〝経済的利益〟


 株主代表訴訟などに備えて役員が加入する「会社役員賠償責任保険」の保険料を会社が負担した場合、これまでは役員の給与所得として課税対象とされてきたが、今後は一定の要件を満たせば非課税になることが明らかになった。経済産業省の文書照会に国税庁が回答したもの。賠償責任保険の保険料のみならず、役員に関連する会社の支出には国税当局が目を光らせている。「経済的利益」があるとみなされれば給与課税されてしまうので、思わぬ税金が掛けられることのないよう、その内容をきちんと知っておかなければならない。


訴訟対策保険料、会社負担分が非課税に

 会社役員賠償責任保険は、役員業務遂行に起因する損害賠償請求で発生した損失を補償するもの。損害賠償金のほか、賠償責任に関する訴訟費用・弁護士費用などの役員の支払いの負担がカバーされる。

 

 この保険の保険料を会社が負担したときはこれまで、役員への給与として課税対象になっていた。しかしこのほど、国税庁が新たな税務対応を示したことで、一定条件下では給与課税されないことが明らかになった。

 

 見直しの契機は、経済産業省の研究会が昨年7月24日に公表した報告書「コーポレート・ガバナンスの実践〜企業価値向上に向けたインセンティブと改革」で、会社が①取締役会の承認、②社外取締役が過半数を占める任意の委員会の同意または社外取締役全員の同意の取得―の2点の手続きを経れば、株主代表訴訟敗訴時担保部分の保険料を会社が会社法上適法に負担できると明確化したことにある。これを受けて経産省は、国税庁に対し、会社負担が会社法上適法とされたことを受けて税法の取り扱いもそれを反映するのかどうかを確認(文書照会)。国税庁は前記①と②の手続きをすることで会社法上適法に負担したときは、役員に対する経済的利益の供与はないと考えられるため、「役員個人に対する給与課税を行う必要はない」と回答した。

 

 幹部個人の訴訟リスクが高まるなか、役員が保守的になってしまって積極的・独創的な経営判断ができなくなることのないよう、税務の取り扱いが変わったことをきっかけに会社役員賠償責任保険の加入を検討しておきたい。

 

 なお、役員の損害賠償責任の負担リスクを担保する商品はこれまで、普通保険の約款でリスク担保部分を免責する条項を設けたうえで、その部分を保険対象に含める特約を別途付帯するかたちで販売されてきた。しかし、経産省の研究会の報告書公表を受け、今後は特約として区分する必要がなくなったため、普通保険約款に免責条項を設けない新たな保険の販売が想定されると経産省はみている。現時点で加入している会社も商品の内容を改めて確認するべきだ。

 

 この保険料負担が給与課税になる判断基準は、役員に経済的利益があるとみなされるか否かにある。実質的にその役員に給与を支給したのと同じ経済的な効果がもたらされるのであれば給与の一部とみなすわけだ。

 

豪華社宅にご用心

 役員への経済的利益には、社宅の貸与などの金銭以外の利益を与えることも含まれる。この場合、1カ月分の家賃として一般的に適当と認められる「賃貸料相当額」を会社が受け取っていれば給与課税されないが、そうでなければ課税対象になる。

 

 社宅貸与時に給与課税の対象になるのは、役員に無償で貸与していれば賃貸料相当額、賃貸料相当額より低い家賃で貸与していればその差額だ。また、現金で支給される住宅手当や入居者が直接契約しているときの家賃負担は、社宅の貸与ではないので全て給与として課税される。

 

 ここでいう賃貸料相当額の算出方法は、「小規模な住宅」(建物の耐用年数30年以下は床面積132㎡以下、30年超なら99㎡以下)と、それ以外の住宅で計算方法が異なる。いずれも建物と敷地の固定資産税課税標準額、床面積を基に算出する。

 

 ただし、社会通念上一般に貸与されている社宅と認められないような〝豪華社宅〞だと、時価(実勢価額)がそのまま賃貸料相当額になる。豪華社宅であるかどうかは、床面積が240㎡を超えるもので、取得価額や支払い賃貸料の額、内外装の状況にかんがみて、国税当局に判定されることになる。床面積が240㎡以下でも、役員個人の嗜好を著しく反映したプールなどの設備があると、前記の算出方法で賃貸料相当額が算出されず、状況によっては豪華社宅とみなされてしまうこともある。

 

 このほかの経済的利益には、会社からの資産贈与時の資産の時価や、資産低額譲渡時の時価と譲渡額との差額、債務放棄・免除時の放棄等額、利息または低率での金銭貸付をしたときの利息と通常受け取るべき利息との差額、役員を被保険者であり保険金受取人とした生命保険契約の保険料などが含まれる。会社の発展に尽力している役員の負担を減らすために無利息貸付などを考えることもあるだろうが、税制面の負担は必ずチェックしたうえで実行する必要があるだろう。

 

 なお、役員の経済的利益に関する会社の経理についてだが、役員の給与の額とされる経済的利益の額が毎月おおむね一定(定期同額給与)であれば損金算入できるが、それ以外のケースでは損金として認められない。

 

 役員関連の支出には国税当局から厳しい目が向けられやすい。痛くもない腹を探られて戸惑うことのないよう、税法に則った経理を徹底したい。

(2016/05/10更新)