社用と私用の線引き

コロナでも国税に狙われる


 コロナショックで税務調査が事実上ストップするなか、ZOZO創業者の前澤友作氏が会社のジェット機を私的に使用していたとして、東京国税局は5億円の申告漏れを指摘した。公表されたのは緊急事態宣言が全面解除となった直後のことだ。全国的に経済活動が停滞するなかで、経営者による「公私混同」は国民感情を極力刺激せずに行える数少ない税務調査の項目といえるだろう。前澤氏のようなジェット機をめぐる調査は珍しいが、社用と私用の使途の線引きは事業者なら押さえておかなければならないことだ。改めて整理しておきたい。


 新型コロナウイルスの感染拡大やそれに伴う外出の自粛要請を受け、税務署は税務調査を控えている。納税者と国税職員の直接的な接触を極力減らして感染を防止するという側面に加え、全国的に納税者が厳しい状況に置かれているなかで、税務調査をするのは酷という国民感情を推し量ったためとも言われている。税務調査の減少に伴い、例年であれば確定申告期に公になることが多い著名人の脱税や申告漏れのニュースも、今年は大きなニュースとして報じられることはなかった。

 

 そんな中でも大々的に報じられたのが、前澤友作氏の「公私混同」による申告漏れだ。金額も含めて内容が明らかになったのは、政府が緊急事態宣言を全面解除したわずか2日後のこと。「このタイミングで情報が公になったのは、国税当局の意思表示であるとも取れる。『宣言解除後の当局は容赦しないぞ』ということだろう。税務調査を徐々に再開させていくという思惑があるのではないか」(都内の国税OB税理士)という見方もある。

 

 高所得者や富裕層を対象にした税務調査は、一般的に国民感情をさほど刺激しないとされる。そのため税務調査が今後再開される際には、前澤氏と同様、社長の「公私混同」が狙われる可能性も十分にあると言えるだろう。

 

「社有車」でも同じこと

前澤友作氏YouTubeより
前澤友作氏YouTubeより

 前澤氏が東京国税局に指摘された申告漏れは、資産管理会社「グーニーズ」が所有するジェット機をプライベートでも利用していたにもかかわらず、グーニーズの申告書に利用料分の金額が計上されていなかったというものだ。

 

 会社の所有物を私的に利用すると、個人に経済的利益があったとみなされ、たとえ金銭を受け取っていなくても報酬として税務処理しなければならない。役員への報酬は通常、1カ月ごとに同額を支給するなど一定の条件を満たさなければ会社の損金にできないため、グーニーズが会社の経費として処理していた5億円分が前澤氏の利益とみなされ、法人所得から差し引ける損金とは認められなかったと見られている。

 

 前澤氏の場合は「社有機」という聞き慣れない言葉で報じられ、一般の感覚からすれば別の世界の話にも思えるが、「社有車」に置き換えれば多くの経営者に当てはまる話となる。社有車に関する費用は原則として、減価償却資産として購入費を数年にわたって経費にでき、またガソリン代、保険料、車検代、メンテナンス代、高速道路利用料など様々な費用も損金にすることができる。

 

 ただし、あくまでも事業用として使うことが大前提だ。前澤氏のように社長がプライベートで使っていたと税務署に判断されてしまうと、経済的利益に該当する金額分が社長への臨時の役員報酬とみなされ、損金算入は否認される。さらに社長自身も臨時報酬を受け取ったとして所得が上積みされるので、税負担が増えることとなる。

 

 社有車の費用を経費にするには、事業に使ったことを税務署に証明できるようにしておく必要がある。最もオーソドックスな方法は、運転日報を残し、その記載内容と走行距離メーターの数字に齟齬が生じないようにすることだ。また事業以外には使っていないことを証明するため、社有車に社名をペイントすることも考えられる。ただフェラーリやベントレーなどの高級車を社有車としている場合は社名の印字はそぐわないかもしれない。

 

 反対にプライベートで使っているのではないかと税務署に疑われやすいのは、車庫証明の際の保管場所を経営者宅にしているケースだ。また、従業員が少ないのに保有台数が多かったり、嗜好性の高い改造をしていたりすると、経営者の私物とみなされるおそれがある。

 

〝夜の店〟でも経費に

 社有車以外にも、社用と私用の線引きで税務当局と争いになりやすい費用として、飲食、クルーザーや別荘、社宅、旅行(出張)などがある。これらの費用も社有車同様に、経費化の境界線は「公私のどちらに該当する費用か」ということだけだ。キャバクラやスナックといった〝夜の店〟の費用も、仕事に必要な支出であることを説明できれば、一定額まで経費で落とすことができる。

 

 このほか、感染拡大防止のためのマスクのまとめ買いの費用も、個人が使うとはいえ、従業員の感染によって事業を停滞させないことが目的の支出と言えるので、基本的に役員やスタッフの給与とはならず経費とすることが可能だ。また、取引先や自社不動産の借り手などの関係先がマスク不足で業務に支障が出る場合のマスクの提供は、購入費用や送料を一定額まで損金にすることが認められている。

 

 悪質な脱税や所得隠しは問題外として、うっかりミスや国税当局との見解の相違による申告漏れはどの事業所でも起こり得る。社用と私用のどちらに該当する費用であるかという判断は誤りが生じやすい部分なので、慎重に税務処理をするようにしたい。

(2020/08/03更新)