年金〝冬の時代〟の選択肢

確定拠出年金って、なんだ?

企業財務にメリット大


 高齢社会化が進むにつれて、この先、年金制度が立ちゆかなくなる不安が増大するなか、リタイア後の資金を自分で稼ぎ出す手段の一つとして、「確定拠出年金」の存在感が増している。年金制度としてさまざまな税制面での優遇を受けられるほか、加入企業にとっても財務面でのメリットがあることから、加入者数はこの10年で3倍以上に膨らんだ。しかしその本質はあくまで「投資」であり、損失を生むリスクがあることは無視できない。確定拠出年金の長所と短所をしっかり把握し、年金制度の選択肢の一つとして検討したい。


 厚生労働省の調べによると、会社で加入する確定拠出年金制度の加入者は、今年3月末で548万2千人だった。前年から43万人増加し、2006年の173万人からみれば10年間で3倍以上に増えている。また、会社では加入していないものの個人で加入した人数は、今年3月末で25万7千人となり、前年比20%増、10年間で4倍以上に増加した。

 

 国民年金や厚生年金などに代表される従来の年金制度は、将来どれだけの給付額を受け取れるのかが確定している「確定給付年金」と呼ばれるものだ。約束した給付額を確保するために、加入者が支払う保険料が変動することがある。

 

 それに対して「確定拠出年金」とは、毎月どれだけを支払うかが決まっている年金のことだ。その代わり、将来もらえる額が確定しない。どういうことかというと、毎月決まった額を拠出し、その積立金を基に本人が掛金を資産運用し、その損益が給付額に反映されるのだ。

 

 たくさんもらえるかどうかは本人の〝腕〞次第ということになる。確定拠出年金への加入者が増えている背景には、国の公的年金制度に対する不安がある。高齢社会化が進む今後、多数の高齢者を少数の現役世代が支えるという構図になることは間違いない。現役世代からすれば、支払う保険料は増えるにもかかわらず、自分が払い込んだ分に見合うだけの年金を受け取れるかは未知数だ。

 

運用対象は通常の投資と変わらない

 それならば、せめて自分の老後資金は自分で稼ぎたいというニーズが、確定拠出年金の加入者増につながっている。確定拠出年金で行われる投資運用の対象は、国債や株、さまざまな金融商品と、通常の投資と変わらない。

 

 だが通常の株投資などに比べて特筆すべきは、年金制度ならではの手厚い税優遇にある。まず、払い込んだ掛金は、全額が所得から控除される。自分の老後のために積み立てたお金が、現在の税金から差し引かれることになる。

 

 次に、投資運用の結果として得た利益も、利息、配当、分配金、売却益のすべてが非課税になる。ここが通常の株式投資と大きく異なる点だといえよう。確定拠出年金制度のなかで得た利益ならどれだけ稼いでも税金がかかることはない。

 

 ただし拠出できる掛け金は青天井ではなく、限度額が設けられている。最後に、年金として受け取る時に、公的年金等控除として一定額を所得から控除できる。一時金として受け取った時にも退職所得控除を受けられるメリットがある。

 

 このように多くの税制面での利点が確定拠出年金への加入者を伸ばす要因となっている。また企業として同制度に加入し、加入者の掛金を負担するケースも増加している。確定拠出年金には、採用する企業にも利点があるからだ。

 

 将来の給付額が決まっている確定給付型の企業年金では、積立金の運用に失敗するなどで給付額を確保できなくなれば、会社がその差額を補てんする義務が求められる。その点確定拠出年金ならば、会社は月ごとに決まった掛金を拠出してしまえば、後の投資運用は個人の責任だ。運用結果に責任を持たずに済み、長期的な補てんリスクに備えなくてよいのが、会社にとっての大きなメリットとなる。また会社が負担した掛金はすべて損金に算入することが可能で、財務面での貢献も期待できる。

 

リスクを認識!資産が目減りしてしまうことも

 今年5月には確定拠出年金法の改正法が成立し、これまで個人型に加入できなかった公務員、専業主婦、別の企業年金制度に加入しているサラリーマンなどが、来年から確定拠出年金制度に加入できるようになった。

 

 政府は年々制度の拡充を図っており、いわば国としても「老後の資金は自分で稼ぐべし」という姿勢を明確に打ち出しているわけだ。とは言え、あくまで確定拠出年金の本質は「投資」だ。であれば、当然お金は増えるだけでなく、減るリスクもあることを忘れてはならないだろう。実際に15年度の確定拠出年金の投資実績では、約36万人がマイナス利回りに落ち込み、年金を稼ぐどころか資産を目減りさせてしまっているという。

 

 格付投資情報センター(R&I)の調べでは、今年に入ってからの株式市場の世界的な混乱によって、確定拠出年金の平均利回りは一年間で5%から1・7%まで落ち込んだ。利回りがさらに低下するおそれも否定できない。年金はリタイア後の人生を支える大事な生活資金だ。あくまで「失ってはならない資産」であることを認識した上で、税制上のメリットなどを踏まえ、自分の資産形成への活用や、会社としての導入を検討したい。

(2016年8月3日更新)