公益財団法人生命保険文化センターの調べによると、「自分のお墓がある」という人は全体の6割にとどまり、残りの4割は将来的に何らかの「お墓」を自分で確保しなくてはならない状況となっている。また、お墓はあるものの、実際には自分が一度も訪れたことのない地方にある場合や、親が一人で住む故郷にあって自分や家族が入るのは現実的ではないということも多い。近年増加傾向にある墓の移築「改葬」について調べてみた。
遠方にある墓を自分の居住地に移す「改葬」が増えている。「先祖代々の墓」は大切にしたいものの、先々は子どもたちが管理することも視野に入れれば、家の近くにあるほうが安心だと考えるのは自然だ。
改葬にあたって最初にすることは新しい墓地を探すことだが、よほど信心深い人でもなければ自分の宗派すら分からないものだろう。そうしたときは現在の墓地を管理するお寺にいって確認する必要がある。家の近所に同じ宗派の寺(墓地)あればいいが、なければ宗派を問わない霊園を選ぶことになる。また最近は新しく選ぶ墓地によって宗派替えすることも珍しくなくなった。自分の宗派への思い入れも家族と話し合っておきたい。
遺骨の移転先が決まったら新しい墓地(霊園)で受入証明書を発行してもらい、それを持って遺骨所在地の役所に行って改葬許可申請書を受け、墓地の管理者に改葬の承諾を得た後に再び役所で改葬許可書を受け取るという、面倒な手間がいくつもかかる。改葬は「墓地、埋葬等に関する法律」に従うため、適当に行うことはできないので仕方がない。役所やお寺によっては郵送等で受け付けないこともあるため、何度も往復しないで済むよう、事前に「元の寺と役所」と「新しい寺と役所」それぞれに必要書類などをしっかり確認して無駄のないように動きたい。
その後は、お坊さんによる「御魂抜き」の儀式をして遺骨を取り出し、墓石を撤去する。このとき僧侶への謝礼だが、お寺に聞いてしまうと「50万円から100万円という方が多いですね」などと吹っ掛けられることもある。実際には5千円から5万円が相場だとされているので、「お車代」と合わせて3万円もあれば恥はかかずに済むだろう。
内閣府によると、宗教法人の収入は2015年度で平均2026万円と、ピークだった1994年度に比べて4割減となっている。あの手この手で少しでも収入を上げたいための「努力」はところどころにみられる。利用者サイドとしても賢く堂々と対処したい。
御魂抜きが終わるとようやく新しいお墓への納骨ということになるが、墓埋法では何日以内に骨を埋めなければならないという決まりはない。そのため、故人を偲んで一定の期間(お盆のひと夏など)自宅の仏壇の前に安置しておく人もいるという。新しいお墓の業者やお寺とのスケジュールにもよるので相談してみるべきだ。
改葬にあたっては、元のお墓(墓石)をそのまま移築することも可能だが、多くは新しくお墓を建てる(買い直す)ことになる。都内の墓石業者によると、①新たな建立者としての節目、②傷ついていることがある、③移転費用が意外にかかる――という理由によるらしい。なお、受け入れ先の墓地によっては、飲食店のように「持込不可」としていることもあるので確認した方がいい。
移転にあたってかかる費用は、墓地の使用権料である「永代使用料」、新しい墓石を建てる際の「墓石代」そして「管理費」と、大きく3つに分けられる。永代使用料とは墓地代のことだが、あくまでも「使用」する権利のことだ。一般的にお墓については「建てる」「買う」というものの、買うのはあくまでも墓石であり、墓地は使用権を得るに過ぎない。そのため墓地は他人に貸与することも譲渡することもできない。
そして永代使用料とは別にかかるのが管理費で、これは文字通り墓地や霊園を管理するための費用として徴収されるものだ。永代使用料を払ったからといって、毎年の管理費が滞れば、最悪の場合は墓石の撤去もあり得るので注意が必要だ。
永代使用料の平均は、社団法人日本墓苑協会によると東京近郊20〜40キロ圏内で220万円〜500万円、年間管理費は1800円〜1万2000円が多いそうだ。
なお、これらの支出のうち墓石代に関しては消費税の対象となるので、新たに購入するときは来年の増税を見据えて検討したい。また管理費も消費税の対象だが、多くの場合は内税表示であり、さらに「消費税込み」などと丁寧に書いてはいないため、税額分を支払っているという認識はないことが多い。
以前なら檀家になるのが必須条件であった寺も、最近は売り上げ減少から融通が利くこともある。なんでも相談して良い取引をしたい。
また墓石に関しては基本的に一品生産であるため、「こんなはずじゃなかった」ということもある。その際は、契約状況によっては墓石もクーリングオフの対象になるので、泣き寝入りせずに交渉すべきだろう。
そして墓石以上にトラブルが報告されているのがお寺との関係だ。一部ではあるが、元の寺院から「離檀料」の名目で法外な金額を要求されるケースがあったという。檀家としては初めての経験でもあり、またお寺に対しては断りにくく、言われるがまま支払ってしまうこともあるようだ。
お寺も様々な手を打ってくるわけだが、やはり契約のない支払いはする必要がない。もしも埋葬証明を出さないなどの嫌がらせをしてきたときには、弁護士に相談するなど、あいまいにはしない姿勢が肝要だ。
(2018/10/10更新)