国税庁はこのほど、2018年分の相続税路線価を公表した。全国平均は前年分を0・7%上回り、8年ぶりに上昇に転じた16年から3年連続の伸びを示した。海外観光客の増加を受けたインバウンド需要もあり、都心に加えて北海道や広島などの観光地でも上昇幅を拡大し、前年を上回った都道府県も17年の13都道府県から18都道府県へと増加している。16年4月に地震の被害にあった熊本は前年の0・5%の下落からプラスに転じた。一方で青森や宮崎など前年より下落幅が拡大した自治体もあり、明暗が分かれる形となった(表1)。
三大都市圏は東京4・0%、大阪1・4%、愛知1・5%と軒並み上昇した。都心の地価高騰については一服感が見られるとの見方もあったが、前年より上昇幅が拡大した地点も多く、都市部や観光地の土地需要の高まりはまだ終わりそうにない。
ただし地方の観光地などを含む18都道府県が上昇する一方で、29県では下落が続く。前年ワーストの秋田は下落幅こそ縮小したものの、今年も2・3%のマイナスでワーストとなった。近年の傾向として、全国平均がプラスなのは東京など一部の地価高騰が数字を引き上げた感も否めず、都市部と地方の二極化は依然として進みつつある。
相続税路線価は、毎年1月1日時点での一定の範囲内の道路(路線)に面した土地を評価するもので、国税庁が1年に1度この時期に公表している。
国土交通省が毎年3月に発表する「公示地価」の8割程度の価額が目安とされ、今年1月1日から12月31日までの間に相続や贈与で受け取った土地に、今回発表された路線価を基にした税額が適用される。
相続税路線価の上昇は、そのまま相続財産としての価値の増加につながるため、全国的な上昇傾向は土地所有者の税負担増を意味しているとも言えるだろう。
18年分の路線価が全国で最も高かったのは、33年連続で「東京都中央区銀座5丁目銀座中央通り(鳩居堂前)」だった。前年から9・9%の高い伸びを示し、1平方メートル当たり4432万円、はがき1枚分で65万円と、前年に記録した過去最高額を更新した。増え続ける海外観光客によるインバウンド需要や不動産投資熱の高まりが影響したとみられる。
都道府県庁所在地で東京の次に高かったのは、大阪市の「北区角田町御堂筋」で1平方メートル当たり1256万円。以下、横浜市、名古屋市、福岡市、京都市と続いた(表2)。
前年からの変動率でみると、1年間で地価が最も高騰したのは北海道倶知安町にあるニセコで、前年比ほぼ2倍となる88・2%の上昇を示した。
2位の京都市四条通の地点の伸び率が25・9%であることから見ても、ニセコの地価高騰の凄まじさがうかがえるところだ(表3)。ニセコのスキーリゾート近辺の別荘地が中国人など海外投資家の人気を集めていることが原因とみられる。
土地の値段を指して、「一物五価」ということがある。一物五価とは、一つの土地に5種類の価格が付けられていることを表した言葉だ。「五価」とはすなわち、公示地価、相続税路線価、固定資産税路線価、基準地価、実勢価格を指す。5種類の価格の動きは連動しているが、それぞれ値付けをする団体や、役割が異なっている。
まず「公示地価」は、国土交通省が発表する、毎年1月1日時点で全国約2万6000地点を調査して価格を定めるものだ。毎年3月に発表され、他の4つの価格の基準にもなる、いわば全ての基礎となる価格だ。
次に、今回発表された「相続税路線価」は、国税庁が定めるもの。土地の相続があった時に土地がどれだけの資産価値を持っているかを定めた価格だ。敷地そのものを対象とした公示地価と異なり、路線価という名前の通り、一定の距離内にある道路に面した土地、いわゆる「路線」ごとに価格が決められる。一方、同じ路線価でも、「固定資産税路線価」は各市町村が原則3年に一度発表し、固定資産税の算定基準となる。
「基準地価」は、各都道府県が9月ごろに発表する毎年7月1日時点の土地の値段だ。公示地価よりやや少ない全国約2万2000地点の地価が調査される。土地の取引価格などの参考にされる役割は「公示地価」に似ていて、1年の間に変動する土地の価格を、ほぼ半年の間隔を置いて発表される両者が補完しあっている格好だ。
最後の「実勢価格」は、言うまでもなく実際に土地の売買に用いられている価格のこと。ちなみに、これに不動産鑑定士による鑑定額を加えて「一物六価」と呼ぶこともある。これらの価格の持つ意味合いはそれぞれ異なるが、相続税対策を考える上で重要となるのは、もちろん名前の示すとおり今回発表された「相続税路線価」だ。投資熱の高まりを受けてか、近年では1年で驚くほど価格が動くことも珍しくはない。値動きの激しさも視野に入れての相続税対策を心掛けたい。
(2018/08/30更新)