日本司法書士会連合会(日司連)は、空き家に関する電話相談窓口「全国空き家問題110番」に寄せられた相談内容を集計・分析し、実施報告書として公表した。放置家屋の活用法を尋ねる相談は多く、空き家を簡単に売却・賃貸できずに悩んでいる人が多いという実態が浮き彫りになった。空き家を含めた不動産の有効活用のために、日本の住宅市場に根付いた「スクラップ・アンド・ビルド」の考え方で解体後に建て直し(新築)をするだけではなく、住宅を〝再利用〞する選択肢も検討する必要があるようだ。
調査にあたった司法書士によると、親が所有していた郊外住宅を相続で手に入れたものの、その実家から離れた場所に住居を持っている人が、使うあてもなく相続財産を放置しているケースが多かったという。
空き家を放置していると、固定資産税を納め続けるだけで何も生み出せず、負の不動産、いわば〝負動産〞になってしまう。しかし、報告書によると、空き家を売却、賃貸など何らかの方法で活用したくても、なかなか実現できない人が多いことが分かる。相談時点で活用できていない理由に関する分析結果では、「買主がみつからない」「価格が折り合わない」「空き家に資産価値がない」として〝買い手がいない〞と回答した人と、あるいは〝借り手がいない〞と回答した人が合わせて全体の半数近くに上った。このほか、活用するための解体費用が捻出できない人、解体後に固定資産税が6倍になることを懸念する人などがいた。
総務省の「住宅・土地統計調査」によると、平成25年10月1日時点での「賃貸用の住宅」の空き家は429万戸で、賃貸用の住宅全戸数に対する空き家率は約2割に上り、不動産経営者にとって住宅市場は厳しい状況にある。
親から受け継いだ不動産が新築に近いものであれば、借り手が見つかる可能性は少なからず高まる。しかし、改築などをせずに建築から何十年も経った家屋だと賃貸経営の難易度は高くなる。老朽化や破損が激しい空き家であればなおさらだ。
そのまま貸すことが難しい不動産には、老朽化した家屋を新築の状態に近づける「リフォーム」や、新たな住宅性能の付加や家屋価値向上のために大規模な工事をする「リノベーション」を施す必要がある。コストは当然掛かるが、収益を生み出すようになる可能性は探るべきだ。市場調査を行っている矢野経済研究所は、平成27年の住宅リフォーム市場は6兆6千億円で、32年には7兆3千億円にまで拡大するとしており、リフォームのニーズは高まりを見せている。
コストの観点からリノベーションやリフォームを躊躇するようであれば、国土交通省が提唱している「借主負担DIY型」での賃貸を視野に入れたい。DIYは「ドゥー・イット・ユアセルフ」の頭文字で、借り手が自費で修繕や模様替えをすることを認める賃貸借契約だ。貸し手は原則として修繕義務を負わず、借り手は退去時に模様替えなどをした部分の原状回復義務を負わない。契約によって借り手側の自由度は異なるが、持ち家感覚で好きなように壁紙や床の張り替え、水回りのリフォームを認めるのが一般的となっている。
借主負担DIY型は、不動産所有者に修繕義務がないことから近隣の賃料相場より低廉に設定しやすいこと、また、借り手があえて自己負担をしてまでリノベーションやリフォームをする仕組みであることから、短期間での賃貸契約は比較的少ない。借り手は安定した賃料を期待できることになる。
親から家屋を相続した場合、自分が居住しなくても、思い入れがあるために手放せないという人は多い。だからこそ賃貸が有効な選択肢になり得るわけだが、いくら工夫を施しても〝負動産〞にしかなり得ないことはある。そうしたときは売却も選択肢に入れなければならない。
ただ、利用価値の低い空き家だと、前述の報告書にあったとおり、売れずに放置せざるを得なくなる。そこで、平成28年度税制改正には、売却を考えている人が家屋の利用価値を高めたときの負担軽減策が盛り込まれる。
改正の対象になる不動産は、相続後に耐震リフォームまたは解体をしたうえで、31年12月31日までに売却した土地と家屋。売却して得た譲渡所得に3千万円の特別控除が認められる大盤振る舞いの改正だ。平成25年以降に発生した相続で、相続のあった年から3年以内に売却することが要件。また、相続開始時点まで親などが自宅として使っていて、かつ相続後はずっと空き家であり、旧耐震基準しか満たさない昭和56年5月31日以前建築の家屋であることが求められる。譲渡の対価が1億円を超えるものは適用対象外になる。
相続した家屋が空き家になってしまう要因のひとつには、元々の持ち主だった親世代が相続対策をしていなかったことも挙げられる。子どもや孫の負担を減らすよう、事前の不動産対策が必要だ。
(2016/05/20更新)