法人税の節税の基本は損金になる経費を増やして課税所得を減らすことにある。高額な経費を計上できる定番と言えば、支払い額の大半を損金にできる生命保険だ。多額の黒字が見込める会社は活用を検討したいところだが、自社の財務状況に合った商品を探す時間や、事業年度内に保険会社から審査を受ける時間を確保するためにも、決算期にギリギリで対策を練ることは避けなければならない。3月決算法人に次いで数が多い9月決算法人をはじめ、決算が近づきおおよその業績が見えてきた会社は、早い段階から保険の見直しや新規加入について考えておきたい。
9月決算法人の決算期まで残りわずかとなった。事業年度の中間であっても年間の業績はほぼ見えてくる。9月決算法人に限らず、大きな黒字が見込まれるのであれば、納税額を減らすために何らかの手を講じたい。
決算対策として支出を増やす際は、必ずしも支払った費用をそのまま法人所得から引けるというわけではないことを把握して実行しなければならない。例えば社用車として購入した新車は、減価償却資産に計上し、法定耐用年数の6年にわたって損金にする。つまり1千万円の新車を購入すると、初年度に損金にできるのは単純計算で最大167万円(購入額の6分の1)だけとなる。節税だけを考えれば損金にしやすい支出を増やすのがコツだ。
その点において生命保険の節税効果は高く、支払った保険料のうち最大で全額を損金にできる。大きな黒字が見込めそうな会社は、生保の見直しや新規加入によって税負担の軽減を図るようにしたい。
ただし、決算ギリギリに慌てて検討を始めると効果的な節税に繋がらないおそれがあるので注意が必要だ。
決算対策として保険を活用する際は、まず保障内容や支払保険料などを踏まえて会社に見合った商品を選ぶための時間が必要となる。可能な限り各保険会社の商品を見比べるべきだろう。その後に法人契約を結び、保険料を振り込めば、支払いの時点で前払い分を損金に算入することはできる。
しかし保険会社の審査が通らなければ、損金化は取り消しとなる。別の保険への加入を再検討するための時間を確保するためにも、事業年度中に審査結果が分かるようにしておきたい。決算を迎えてから慌てて節税策を練るよりも、おおよその黒字見込み額が分かった段階で着手した方が効果的な方法を講じることができると言える。
支払い保険料を損金にできる保険のうち、節税商品の〝王道〞として使われることが多いのが養老保険や長期平準定期保険、逓増定期保険などの商品だ。養老保険は、被保険者の死亡時には死亡保険金が支払われ、満期到来時には満期保険金が支払われるタイプの保険で、会社を契約者、役員や社員を被保険者にして加入し、満期保険金の受け取り人を会社、死亡保険金の受け取り人を被保険者の遺族とする契約を結ぶと、会社が支払う保険料の半分を損金にできる。
一方、満期保険金の受け取り人を社員とすれば、全額を損金にすることが可能だ。全社員を加入対象にすれば「福利厚生費」、一部の社員だけを加入対象にすれば「給与」として法人所得から控除する。社員の家族にとっては万が一に備えた保障となり、会社にとっては社員の退職金の原資の確保につながる保険と言える。
また長期平準定期保険は、保険期間が比較的長い定期保険で、終身保険に近い死亡保障が受けられるほか、解約返戻金が高額になるので役員退職金の確保のために活用されることが多い。保険期間の前半6割の期間は支払う保険料の半額が損金、後半4割の期間は全額損金となる。
一方、逓増定期保険は、保険期間満了までに保険金額が契約当初の5倍にまで増加する定期保険で、比較的早い段階で高額な解約返戻金を受け取ることができるタイプの保険。保険期間の後半4割の期間は長期平準定期保険と同様に全額を損金にできるが、前半で損金にできる割合は保険期間満了時の被保険者の年齢などに応じて最大で4分の1にまで引き下げられる。
ここまでは支払い分を損金にして節税を図るという観点で見てきたが、満期保険金などの益金への対応についての観点も頭に入れておく必要がある。
保険金や解約返戻金を必ず受け取れる保険は、掛け捨ての保険とは違い、会社に後々益金をもたらす。受け取り金は法人税の課税対象なので、受け取る時期に向けて何の対策もとっていないと結局は税金が課されてしまう。益金を支出(損金)と相殺できるように、退職金の支払いや大規模な設備投資などの計画を前もって練っておく必要がある。決算期に慌てて保険活用を検討すると、この点がおろそかになりがちなので注意しなければならない。
生命保険に加入すると節税以外のメリットも生まれる。そのひとつが、事業資金が足りなくなった際の備えになるという点だ。
資金調達が必要な会社は、保険を解約することで解約返戻金分を受け取ることができる。また、解約しなくても「契約者貸付」として資金を調達することが可能だ。契約者貸付は、その時点で解約したものと仮定して算出する「解約返戻金相当額」の範囲内でお金を借りることができる制度で、解約するケースと違い、利用しても元の保険の保障内容は変わらない。受け取れる額は解約返戻金よりも低い額となるが、消費者金融のキャッシングや銀行のカードローンの利率と比べて負担は軽い。
決算対策を機に、保険会社から勧められた商品が最適なものであるか否か、保障と税務の両面から改めて確認するようにしたい。決算期に慌てて支出するとかえって会社の財務にマイナスとなることもあるので、可能な限り早めの対策が必須と言える。
(2018/08/28更新)