経営に「どうにかなるだろう」は禁物です!

生命保険の活用で将来プランを設計

まさかのときのリスクに備える


 「明日会社が潰れるかもしれない」「私が去った後はどうなるのか」――。中小企業経営者は常に将来への不安を抱えている。経営者に不慮の事故があれば、銀行借入金の返済、仕入先への支払い、社員への給料、家族の生活費、月々の固定費の支払いなど、待ったなしであらゆる事態が発生する。あっという間に会社は倒産の危機を迎えることになりかねない。経営者は「もしも」に備える有効な防衛策のひとつとして、生命保険の活用を考えておきたい。


 「国を滅ぼす言葉は『どうにかなろう』の一言なり。幕府が滅亡したるはこの一言なり」江戸時代末期の幕閣である小栗上野介が死の直前に残した言葉である。

 

 この小栗の言葉は、そのまま中小企業経営にもあてはまる。中小企業の経営者は、大企業と違い、トップが会社を辞めればそれで済むという立場にない、極めて厳しい現実の上で経営をしている。中小企業経営者にとって「どうにかなろう」ほど、危険な言葉はないのだ。

 

 先を見据えたプランを立てられるかどうかが、経営者の手腕の見せ所だ。会社にとっても、経営者個人にとってもプラスになる高度な判断が求められる。そこで再検討したいのが「生命保険」を有効に活用できているかどうかだ。

 

 経営者が何より考えなければならないのは、「まさかの時に備える」ということだ。会社の大黒柱である社長に万が一のことがあった場合のリスクは想像以上に大きい。社内が混乱し、銀行はじめ取引先などの信用を落とすことは、なんとしても避けなければならない。

 

 万が一のリスク対策として「固定費(家賃、給料等)×6カ月分+借入金全額」は用意しておきたいと一般的に言われる。仮に売上が一時的になくなっても、会社が新たな体制で軌道に乗るまでの間、存続できる資金があるからだ。

 

 ただ、これだけの現金を銀行に預け入れておける中小企業は少ないだろう。そこで活用されているのが生命保険だ。生保に加入していれば、万が一のときはある程度まとまった死亡保険金が支払われ、経営を立て直すまでの期間を維持するだけの資金を得ることができる。

 

 もちろん、契約形態によっては、生命保険金は法人税の対象となるため、必要資金に税金分を上乗せして加入する金額を算定する必要はある。

 

資金調達の切り札として

 生命保険は、いざというときに現金を得られる保険機能に加え、貯蓄機能が備わっている点も大きなメリットとして挙げられる。単なる掛け捨てでなく、貯蓄されていくタイプの保険商品は、途中で解約すると解約返戻金として支払保険料の一部が戻ってくる。

 

 また、死亡時の保険金以外にも、生命保険であれば早期の資金調達ができる点も大きな利点だ。解約せずに一定の金額については契約者貸付としてスピーディーに資金調達できる。保険でお金を借りることは、銀行などの融資と違い、審査がなく支払いが早い。しかもお金の使い道は自由だ。また融資金利が低いことも利点だろう。

 

 生命保険を利用し、早期の資金調達によって効果を発揮したのが東日本大震災だった。津波によって全てを失ってしまった会社に唯一残されたのが、思いもしなかった社外貯金としての生命保険だったという企業は多い。

 

世代交代、相続・贈与に活用

 生命保険が税金対策として活用できることは周知の事実だ。相続税対策でなにより大事なのは納税資金を確保すること。財産を引き継いだ者がその財産を換金できずに、自分の預貯金を切り崩して納税資金とすることは避けたい。

 

 会社にとって節税は自己防衛の手段であると同時に、財務体質を強化するためのものだ。安易に金融機関からの借入金に依存するのではなく、自助努力の一環として生命保険節税を位置付けるべきだろう。

 

 生命保険の支払保険料が会社の経費として認められるため、保険料の一部または全部を損金算入でき、法人税を軽減することができる。

 

 生命保険を相続で受け取った場合、法定相続人1人につき500万円の非課税枠が設けられている。法定相続人が3人なら、死亡保険金で1500万円を受け取ったとしても評価額はゼロとなる。同じ金額で銀行に預けているより、保険に加入しておいた方が課税ベースは相当低くなる。

 

 また意外と知られていないのが、生命保険と贈与を絡める対策だ。親から子や孫に毎年、保険料相当額の資金を贈与し、契約者と受取人は子や孫、被保険者を親として生命保険に加入する。毎年1人あたり110万円の保険料に相当する資金を子や孫に贈与すると、10年間で一人あたり1100万円の財産が移転されることになる。さらに相続の時に子や孫に支払われる保険金は相続税の対象ではなく所得税(一時所得)の課税対象となる。財産額によっては税率の低い所得税の課税となるため、二重の節税効果も期待できる。

 

 以上、中小企業経営者が生命保険を活用するメリット面を挙げてきたが、自らの会社にあわない保険商品を選んだり解約の時期を間違えたりすると、損失を被る危険性もあり得ることも付け加えておきたい。

(2016/03/30更新)