社長さん! 目的別で使いこなしましょう

生命保険が果たす3つの役割

経営計画策定でニーズ把握


 マイナス金利の影響による保険料の引き上げなどによって、経営者は生命保険を使った自身のライフプランの見直しを迫られている。いま契約している保険で自分の求める保障が得られるのか、新たに契約するならどのような商品を選べばよいのかなどを考える上で欠かせないのが、自分が生命保険に求める機能を見定めることだ。経営者にとって生命保険には3つの役割があると言われ、どれに重きを置くかによって選ぶ保険も変わってくる。生命保険の役割を改めて確認したい。


 個人が生命保険に加入するとき、その目的はほとんどの場合「もしもの時の保障」だろう。自分に何かあったときに家族に少しでも財産を残せるよう、生命保険に入っているという人は多い。

 

 もちろん経営者も例外ではなく、家族のために生命保険に入っていることがほとんどだろう。しかし経営者はさらに、その両肩に家族の人生だけでなく会社の存亡ものしかかっている。大企業に比べて中小企業では社長の個人能力が経営に占める役割は大きく、社長にもしものことがあれば会社はすぐさま機能不全に陥ってしまう。立て直しを図るあいだにも金融機関への借入金の返済、仕入先への決済、社員への給与の支払い、月々の固定費などが待ったなしで発生し、備えがなければ「倒産」の2文字がちらつくのは驚くほど早い。

 

 こうしたことを考えても、「もしもの備え」が生命保険の最大の役割であることは間違いないだろう。生命保険に入る際にはまず、家族や会社が安心できるだけの額が保障されるかを考えるべきだ。

 

「可視化」によって必要な金額を把握

 保障額はもちろん多ければ多いほうがいいが、かといって保険金が高いということは、支払う保険料も高くなる。どんなに良い保障内容でも、支払い続けられずに途中で解約しては意味がない。ここで不可欠なのは、実際に必要となる金額の「可視化」だ。銀行や仕入先への返済にはどれほどの原資があればいいのか、当面の給与の支払いにはどれだけあれば安心できるのか、固定費はどれほど発生するのか、家族の生活費としてどれくらい残したいのかといった数字をある程度計算した上で、実際に支払える保険料とすり合わせを行うことで、自分の欲しい保険商品を具体的にイメージすることが可能になる。

 

 その際には経営革新等支援機関など専門家の力を借りて、経営計画を策定することを検討したい。現在会社が置かれている状況と目指すべき将来像を経営計画で結ぶことによって、自分が保険に求めるニーズを正確に把握することが可能だ。生命保険に詳しい高橋博税理士は、「経営計画を策定して自社に潜むニーズを数値化することで、最適な保険商品が選べ、将来への漠然とした不安を解消することができる」と保険を選ぶ上での経営計画の重要性を強調する。

 

 そして経営計画とも密接に関わってくるのが、企業にとって2番目に大きな生命保険の役割である「会社の財務強化」だ。生保を活用した財務強化は主に、支払保険料として払い込んだ現金が損金計上され、払い込んだ保険料以上の金額が一定期間後に満期保険金あるいは解約返戻金として戻ってくる形で行われる。ある種の投資であり、だからこそ十分な投資効果を得るためにしっかりした経営計画の策定が求められるわけだ。

 

 生保活用でよくある誤りに、単純に利益だけを見て支払保険料を決めてしまい、支払能力が追いつかずに契約後数年で解約せざるを得なくなるケースがある。これは経営計画を策定していなかったからこそのミスで、特に資金繰り表の作成をしていなかったためであることが多い。売掛金回収表、受取手形回収表、買掛金支払表、支払手形支払表などを基に、実績ベースだけでなく予想ベースの資金繰り表を作成し、さらに保険商品の設計書を分析した上で投資効果が何年後に発生するのかの中期計画も作成して、はじめて生命保険を活用した長期的な財務強化は機能を果たすと言えるだろう。

 

「財務強化」「資金繰り対策」「社外貯金」

 最後に、生保の3つ目の役割は「資金繰り対策」となる。数ある節税策のなかでも生命保険は、解約をすると支払った額かそれ以上の額がすぐさま現金として戻ってくるという機動性の高さが会社経営に大きく貢献する。一種の社外貯金とも言えるだろう。東日本大震災で被災した中小企業が津波によって全てを失ってしまったなか、唯一残った生命保険の解約返戻金が会社を救ったというエピソードもあり、会社の危機にまとまった金額をすぐ用意できるのは生命保険の大きな強みだ。

 

 また解約までいかなくとも、生命保険の積立金を担保としてお金を借りる契約者貸付制度がある。同制度は銀行の当座貸越制度と同じ効果を持つもので、借入金を返済すれば解約するまでは何回でも活用できる。企業である以上は無借金経営が理想だが、業界の慣習や最初の契約時の判断ミスで資金繰りのズレが解消できず、利益は出ているのにお金が無いという会社は多い。一時的な運転資金不足に陥ったときの緊急手段として、契約者貸付制度の存在は必ず知っておきたい。

 

 自社の状況、今後のライフプラン、求める保障内容に加えて、3つの役割のどれに重きを置くかで、保険商品選びのポイントは大きく変わってくる。商品の内容は多岐にわたり、税務も複雑となるため、必ず保険外務員、フィナンシャルプランナー、税理士などの専門家に相談した上で、契約する保険を選びたい。

 

 さらに一度契約した後も、細やかな保険プランの進捗確認や見直しが必要だ。自身のライフプランや会社の状況に変化があれば、保障に求める内容もおのずと変わってくるだろう。また2016年2月に導入されたマイナス金利を受けて大手生保がこぞって節税型の保険商品の値上げや販売中止をしたように、生保プランに影響を及ぼす保険商品の改定や法改正が起きることは珍しくない。すでに契約している保険について法改正や商品の設計変更が影響を与えることはほぼないが、将来的に新たな保険契約をしたり契約変更したりすることをプランに含めているときには、十分な注意が必要だろう。

 (2016/05/30更新)