生保をさらに使いこなせ

契約の〝お手入れ〟で決算対策

年に一度は保障の見直しを


 9月末の年次・中間決算を目前に控え、今まさにその対策に取り掛かっている会社も多いだろう。決算直前に使える節税策としては生命保険の活用が挙げられることが多いが、すでに保険には入っているからと選択肢から除外している経営者も多い。しかし保険は一度加入して終わりではない。ライフプランの変化や会社の状態に合わせて見直しをしていくことで、より自社にとって最適な保障や財務強化につなげることが可能だ。決算期を年に一度のメンテナンスの時期と捉え、生保をフル活用するきっかけにしたい。


 一度契約した保険の内容を、その後の自身のニーズの変化に合うよう見直すことを「保全」という。自身の人生や会社に大きな変化があれば、ライフプランも変わり、おのずと求める保障の内容にも違いが出てくる。加入済みの保険であっても内容を見直し、必要に応じて調整を行う「保全」が必要となるわけで、いわば保険の〝お手入れ〞とも言える。

 

 保全の代表的な手法としては、保険会社の承認を得た上で、契約している保障金額の範囲内で他の保険商品に乗り換える「変換(コンバージョン)」と呼ばれるものがある。すでに加入している定期保険を生涯保障に変えたいという希望があるなら、定期保険から生涯保障の終身保険に「変換」することで、長生きしたことによって死亡保険金を受け取れなくなるリスクを完全に排除することが可能だ。

 

 保険料が変換時の年齢によって既存契約より加算されるなどのデメリットはあるが、利益が多く出てしまった時の決算時に組み合わせることで、多くの保険料を損金計上できる決算対策として使うことも考えられるだろう。

 

払済保険への変換で資金繰り改善

 逆に、会社の経営状態が思わしくなく、既存契約の保険料の支払いが負担になっているという会社もあるかもしれない。保険の解約に踏み切るのも一つの手だが、契約によってはそれまで払い込んだ期間が無駄になってしまうことになる。そうした時には「払済保険」への変換が助けになる。

 

 払済保険は、以後の保険料を一切払うことなく、今まで支払ってきた保険料で積み立てられた額の範囲内で、一定の保障額の保険に変更する制度だ。払済保険のメリットは、今後一切の保険料を発生させずに保障を継続することができ、解約返戻金も維持されるという点にある。もっともデメリットとして、当初の保障額よりは減額されてしまうことや、税務処理が複雑になるという点もあるので、税理士としっかり相談した上で変換に踏み切るようにしたい。

 

 決算対策として生命保険に加入した会社にありがちなのが、多くの保険料を損金として計上したいがために年払い保険に加入したものの、その後、運転資金に余裕がなくなり、支払いの発生する次の決算時期に慌てるというパターンだ。

 

 こうしたケースでは、支払いを月払いに変更することで、負担を平準化するという手法が考えられる。また生命保険の持つ機能の一つとして知られる契約者貸付制度も、一時的な資金繰り悪化を助ける有効な手立てだ。ただし契約者貸付制度は生命保険の「社外貯金」としての役割を担うもので、経営計画にも関わってくるため、利用は慎重に行いたいところだ。

 

 もしもこれらの手法を知らなかったことで保険料が払えず、契約が失効してしまっても、失効から一定の期間内であれば同内容で契約を再度結ぶ「復活」ができる可能性がある。復活が認められる期間は保険会社などによってまちまちだが、おおむね1〜3年以内となっているようだ。ただし保障内容を元通りにするためには失効中の保険料も支払わねばならない点には留意すべきだろう。

 

 他にも、払済保険への変更など、契約している保険から別の安い保険へ変更したときには、一定の期間内であれば以前の契約に戻す「復旧」を行えることがある。これについても、変更していた期間にかかる積立金の支払いや、場合によっては利子の支払いも必要となることは忘れないようにしたい。

 

ライフプランに沿った見直しに限るべき

 生保の保全を決算対策に活用する上で忘れてはならないのは、あくまで保険の最大の目的はもしもの時の保障であるという点だ。目の前の決算のために新たな保険に入ったり既存の契約内容を変更したりして、先々になって「本来求めていた保障はこうではなかった」と言っても後の祭りだ。あくまで最優先すべきは加入者のライフプランであり、決算前に契約内容を見直すのも必要性に迫られた時に限るべきだろう。

 

 例えば、社長が加入している保険の期間が60歳までとなっていて、すでに50代半ばで持病も特にないというケースであれば、61歳以降に死亡してしまうと死亡保険金を受け取れず、遺族への死亡退職金の支払いも困難になってしまうので、保険期間の延長を検討すべきだと言える。単なる決算対策としてではなく、自身と会社の状況、家族の今後などを総合的に考えることが必要だ。

 

 熟考を重ねて保険商品を選ぶ契約時に比べて、一度加入してしまった保険に対しては決められた保険料を定期的に払うだけになりがちだ。しかし保全によって可能となるさまざまな生保の活用法を知るのと知らないのとでは、決算前にできることにも、長期的なライフプラン形成にも大きな違いが出てくる。既存契約でどんな保全ができるのかを把握し、顧問税理士と相談した上で、自身のニーズに合うよう見直しを行っていきたい。

(2017/09/01更新)