消費税率引き下げの可能性は?

政府はかたくなに拒むが…


 新型コロナウイルスの影響で多くの事業者が深刻な経営難に見舞われるなか、消費税の減税を求める声が絶えない。野党のみならず与党内にも経済再生のために必須との見方があるが、当の政府は消費税減税には消極的だ。世界的にも新型コロナ対策として減税を実施する国が増えるなかで、日本がこの先消費税減税を実施する可能性はあるのだろうか。


 2020年度2次補正予算は、1次に続き100兆円を超えるという異例の規模となった。新型コロナウイルス対策に充てられた予算はトータル234兆円に上る。

 

 補正予算には給付金、金融措置、景気刺激など様々な支援策が盛り込まれたが、国がかたくなに踏み込まない措置が一つある。それが「減税」だ。国税に関しては、あくまで納税を遅らせる「猶予」がメインで、課税制度の選択特例など結果的に税負担が減少する場合もあるが、制度としての税率引き下げには一切乗り出していない。地方税では唯一、収入が著しく落ち込んだ事業者の固定資産税を減免する措置が盛り込まれている。

 

 新型コロナウイルスの影響を受け、国内の事業者はいま、かつてない苦境に立たされている。内閣府が発表した1月〜3月の国内総生産(GDP)速報値は年率換算でマイナス3・4%と落ち込んだ。緊急事態宣言による自粛が本格化した4月以降は、さらなるマイナスが予想されている。

 

 そうした状況のなかで、野党のみならず与党内からも減税を求める声が上がる。自民党保守派議員でつくる「日本の尊厳と国益を護る会」は5月29日、消費税の当面の執行停止を盛り込んだ法案を作成する方針を公表した。代表幹事の青山繁晴参院議員は、「今とれる経済対策は消費税減税しかない」と記者会見で意気込んだ。

 

コロナ前から経済は下降

 なぜ数ある税のなかでも消費税なのか。その理由は、現在の経済の落ち込みの理由が、新型コロナだけではないからだ。早い段階から新型コロナ対策として消費税の凍結を求めてきた安藤裕衆院議員(自民党)は、「昨年10月〜12月のGDPの、マイナス7・1%という衝撃的な数字は、増税が経済に悪影響を与えているという裏付けだ」と語る。事実、マイナス7・1%という数字は、新型コロナの影響が出始めた今年1月〜3月のマイナス3・4%を大きく上回っている。つまり日本経済は、新型コロナが流行する前にはすでに下降局面に入っていたということだ。

 

 消費税増税がそれだけ経済にマイナスの影響を与えるのならば、消費税減税が景気に与えるプラスのインパクトもそれだけ大きいはずだ。多くの人が、消費税減税こそ経済再生への起爆剤になると主張する理由はそこにある。

 

 だが多くの要望を受けても、国は消費税減税に応じるつもりはないようだ。麻生太郎財務相は6月2日の参院財政金融委員会で、「いま消費税を引き下げることは考えていない」と断言した。増税前には「リーマン・ショック級のことがない限り引き上げる」と繰り返していた安倍首相だが、実際にこうしてリーマン・ショックを上回る経済危機が発生しても「消費税は社会保障改革を進めていく上においては、どうしても必要な税」とのみ繰り返し、減税の検討すら行っていない。

 

 こうした政府の方針の背景にあるのは、「一回下げると、次はいつ上げるんだ」(麻生氏)という本音だろう。徴収事務を事業者が肩代わりしてくれるという〝理想の税〞である消費税は、かつて成立させるために多くの内閣が倒れた過去がある。時間をかけてようやく1989年に導入したものの、当時は税率3%で、全税収に占める割合は1割強だった。しかし、そこから「将来の社会保障制度の維持のため」という大義名分のもと複数回にわたる増税を繰り返し、いまや消費税は全税収の3割を超え、所得税、法人税をしのいで全税目のなかで最も多くの税収をもたらす基幹税となった。まさに「小さく生んで大きく育てる」を実践した消費税を引き下げることは、「いろいろな政治的犠牲を払いながら今日まで増税をやってきた」(甘利明自民党税制調査会長)政治のプライドを損なう行為なのだろう。

 

緊縮財政のドイツでも減税

 所得税や法人税と異なり、消費税は収入ではなく消費にかかるという特徴を持つ。それは事業者でいえば、黒字でなくても税負担が発生することを意味する。過去に、消費税が引き上げられたタイミングで新規滞納が激増しているのは、消費税が他の税に増して事業者の生活をおびやかしている結果に他ならない。

 

 現在は新型コロナ対策の特例によって消費税も猶予されているものの、猶予には終わりがあり、将来的には猶予分を含めた多額の消費税を納めなければいけない日がくる。また消費者は新型コロナで収入減を余儀なくされるなかで、日々の生活必需品の購入に10%の消費税を支払い続けている。

 

 大型の補正予算による財政収支の悪化に対して、麻生氏は「増税に頼るのではなく、景気回復によって税収を伸ばすことが第一」と発言した。それならば、消費税を引き下げて景気を立て直すことこそが、将来の社会保障制度を維持するためにも必要な手段ではないか。

 

 6月3日、ドイツが消費税の大幅減税を決定した。ドイツは世界的にも突出した緊縮財政国家として知られ、収入を増やすより支出を減らすことで財政を維持してきた国だ。そのドイツが消費税の減税に踏み切ったことは、それだけ新型コロナが過去にない最悪の経済危機をもたらしているという現状を意味する。そうした状況で、これまでの「政治的犠牲」を理由に消費税減税を拒んでいる日本は、景気回復への見通しが暗いと言わざるを得ない。

(2020/08/05更新)