約2年後には消費税率が予定どおり10%へ引き上げられることになりそうだ。一般納税者としては場当たり的な政策税制に翻弄されっぱなしだが、数度の消費増税によって学んだこともいくつかあった。その最たるものが増税による金相場の変動だ。金はその仕組みから、増税前に買って増税後に売るだけで大きな利ザヤを生む。もちろん、来年の政局や経済状況すら見通せない状況で、ましてや2年後ともなれば鬼だって笑いように困るかもしれないが、それでも国民・納税者としてはたくましく、あらゆる準備をしておきたい。
安倍晋三首相が衆院選の争点を「消費税10%時の使い道の是非」と位置付けたことで、過去2度にわたって延期されてきた増税が一挙に現実味を帯びてきた。そこで注目されるのが金への投資だ。
消費税は1989年に竹下登内閣によって3%で導入され、97年の橋本龍太郎内閣で税率が5%に引き上げられた。そして2012年の野田佳彦内閣が14年から8%に、15年には10%とする増税法案を「政治生命をかけて」成立させた。だが、14年には8%に引き上げられたものの、その後の安倍内閣は「経済状況を鑑みて」10%への引き上げ延期を2度表明し現在に至っている。
注目すべきは、導入時と2回の引き上げのいずれの時も金の取引量に大きな変動があったことだ。投資用の金のほとんどは輸入で賄われるため、国内での金の人気は輸入量に直接反映される。
消費税導入に際しても、導入前は1カ月25〜30トンで推移していた輸入量が、導入直前の2月には39トン、3月には41トンと急増した。そして施行された4月には15トンへと、非常に分かりやすく激減している。また97年4月の5%への引き上げ時にも同様の動きがあり、通常時に6〜8トンだった輸入量は1月に12トン、2月に14トン、3月に16トンと増え続け、そして4月には9トンと、やはり分かりやすく大幅に減少している。
これは、「金は購入時に消費税を払い、売却時には消費税を受け取れる」という税制を利用して利ザヤを稼ごうというスキームによるものだ。たとえ金の価格そのものが上昇しなくても、消費税率が上がれば、売却時には増税分だけ得をするという仕組みだ。
例えば、1グラム5000円の金を店頭で1キロ購入すると、代金は500万円+消費税8%で540万円となる。なお、ここでは手数料は考慮しない。そしてこの金を消費税率が10%になってから同額のグラム単価で売却すれば、税込み550万円を受け取れることになる。
つまり相場さえ大きく下落するような状況でなければ10万円を手にすることができるという、なんとも濡れ手に粟のスキームなのである。言うまでもないことだが、100キロ(5億円)買えば利ザヤは1千万円だ。とにかく買っておけば儲かる確率が高いのだから、原資さえあれば買いの一手と言えそうだ。
最近は、金を海外からこっそりと持ち込み、税関で支払うべき消費税を逃れたうえで売却して、税額分を儲けとする錬金術が問題となっているが、そんな危険な橋を渡らなくても、消費税の増税さえあればほぼ確実に儲けが出る仕組みなのである。こうなると消費税という制度そのものに問題があると見られなくもないが、少なくともそうした仕組みである以上は、合法的なスキームとして利用したいところだ。
このほか、金は税金面でいくつかの特色を持っている。まず、不動産や自動車などにかかる保有税が金にはない。そのため、持ち続けていてもコストは発生せず、価格の下落以外にはなんらのリスクもない。
金を売ったときに出た売却益は、その状況によって、譲渡所得、事業所得、雑所得のいずれかに分類され、課税条件も変わってくる。まず会社から報酬や賃金を得ている給与所得者であれば、譲渡所得として給与などと合わせて総合課税の対象となる。譲渡所得の計算は、金を保有していた期間が5年未満なら「金を売った利益+それ以外の総合課税の譲渡益-特別控除50万円」となる。一方、保有期間が5年以上なら「5年未満の金額÷2」となるため、長く持っているほうが断然有利になる。
営業目的で継続的に金の売買をしている者であれば事業所得や雑所得となり、雑所得なら総収入額から必要経費を差し引くことが可能だ。
金の価格暴落などによって売却損が出たときは、譲渡所得であれば同じ譲渡所得と、雑所得であれば他の雑所得と損益通算することができるが、この際に給与などの別区分の所得とは損益通算できない。
前述のように、金には保有税がかからないことから、安定した財産として人気が高い。ただ、不動産や機械設備は固定資産税がかかっても、そのもの自体が稼ぎ出す力を持ち、収益を生む。また、株式には配当があり、貯金は多少なりとも金利がつく。だが、金が何かを生み出すことは一切ない。金はあくまでも財産形態のひとつであって、収益を生む資産ではないということは認識しておきたい。
また、テレビドラマの世界に限らず、毎年マルサ(査察)が発表する脱税事件では、自宅の床下などに隠されていた金の延べ棒が発見されて話題になる。不動産などに比べて隠すのも売却するのも楽であろうと安易に考えてしまうようだが、脱税は必ずバレるので不心得は決して起こすべきではないだろう。探すプロに対して隠す素人が勝つことは決してない。さらに、現在は売却代金が200万円を超える金の取引ではマイナンバーが必要になるため、買取店からの支払調書の提出で税務署が実態を把握していることも多い。
消費税の導入時と2度の増税時に使われてきた増税売却スキームがすぐに是正されるとは考えにくい。価格の推移をしっかりと追いながら、金購入のタイミングを見極めたい。
(2017/12/01更新)