消費増税再延期で

クルマの税金はこう変わる!

取得税廃止は2度目の先延ばし


 消費増税の再延期が、他の税目にも大きな影響を及ぼしそうだ。自動車関連税制のうち、増税と同時に廃止されることが決定していた自動車取得税は、消費増税の再延期によって2度目の延長を余儀なくされる可能性が高い。取得税に代わる「環境性能割」の導入も延期される見込みだが、相次ぐ自動車メーカーの燃費不正発覚によって基準見直しを求める声も上がっている。ただでさえ複雑なクルマの税制が、今後さらに難解になる可能性もある。


 昨年末に与党がまとめた平成28年度税制改正大綱では、自動車に関する税制の見直し項目として、「自動車取得税については、消費税率10%への引上げ時である29年4月1日に廃止する」という内容が盛り込まれた。自動車にかかる税金のなかでも取得税は購入時にかかるもので、現在は自家用車なら「車の取得価額×3%」、営業車や軽自動車なら「取得価額×2%」の税金が課せられることになっている。

 

 政府はこの取得税を消費再増税と同時に廃止し、新しく代わるものとして、車の取得時に燃費性能に応じて課税する「環境性能割」の導入を決定していた。しかし増税の延期によって、取得税の廃止と新税の導入はそろって先延ばしにされると見られている。

 

 新たな環境性能割は、燃費性能に応じて税額が減免されるもので、すべての車種で現行の取得税より税負担が軽くなるわけではない。しかし現在主流となっているハイブリッドカーなどではおおよそ税負担減となることから、消費増税後に確実に訪れるだろう消費落ち 込みへの「特効薬」としての効果が期待されていた。

 

 減税だけを先に実施してしまっては、反動減対策としての意味が薄れてしまうことになるため、取得税の廃止、新税の導入ともに、消費増税に合わせて2年半延期される可能性が高いというわけだ。 

 

毎年のように見直しが行われる自動車関連税制

 取得税の〝余命延長〞は今回が初めてではない。自車業界からの「取得税は消費税との二重課税であり即刻なくすべき」との長年の要望を受け、同税の見直しが税制改正大綱に盛り込まれたのは24年度のことだ。

 

 その後 27 年10月の消費増税 と同時に廃止することが決まったが、景気の減退を懸念した安倍政権によって増税は延期され、同税は当面存続されることとなった。

 

 そして今回の再延期を受け、自動車業界の長年の宿願はまたもや先送りされる公算が高くなったといえる。毎年のように見直しが行われる自動車関連税制だが、近年の改正は「エコ化促進」の流れに沿ったものだと言える。

 

 自動車税や軽自動車税では27年4月にエコカー減税の適用要件が改められ、燃費性能、排出するガスの量がともにより厳しい基準に引き上げられた。取得税の廃止と同時に導入される予定の「環境性能割」でも、新基準に従って税率を6区分することが決まっている。

 

 しかしこの性能基準に対しては、緩和を求める声もある。その背景にあるのは、近年世界的に相次ぐ大手自動車メーカーによる不正の発覚だ。ドイツのフォルクスワーゲン社は、27年上半期に販売台数でトヨタを抜いて世界一の自動車メーカーに躍り出たが、同年9月に特殊なソフトウエアを使って排ガス量を低く見せかけていたことが発覚。該当車両は世界中でなんと1100万台にも上り、同社の今年1〜3月期の利益は前年同期比86%減と大きく落ち込んだ。

 

 今年4月には国内大手の三菱自動車の「eKワゴン」と日産自動車に供給していた兄弟車種「デイズ」、派生車種の「eKスペース」と「デイズクルーズ」の計4車種で燃費性能を偽装していた問題が浮上した。これら該当車両の台数は62万5000台に上るという。

 

 ユーザーへの補償を待たずに、同社は日産自動車の傘下に入ることが決定した。さらに5月には米ゼネラル・モーターズでも、3車種で燃費性能を実際よりも優れた数値で表示していたことが分かった。意図的ではない誤表記と同社は説明している ものの、ユーザーに対する補償額は120億円に上るとみられている。

 

エコカー基準の見直しも?

 これらの問題から浮かび上がるのは、年々厳しくなる環境性能基準についていけず、技術開発競争から脱落するメーカーが出ているという現実だ。

 

 本来ならばメーカーの技術の進歩に合わせて基準が引き上げられるべきところが、目標ばかりが先行してしまい、技術が追いついていないのが自動車業界の現状と言える。

 

 だからといって不正に手を染め、ユーザーを欺くなど論外であることは言うまでもないが、一部のメーカーしか達成できない基準にのみ税優遇を与えるというのなら、国による一部の企業への肩入れとも取られかねないだろう。

 

 基準緩和を求める声を受けて、昨年4月に刷新されたばかりの環境性能基準が見直される可能性は否定できず、そうなれば取得税に代わって導入される「環境性能割」の基準も見直されることは必至だ。

 

 消費増税の延期はさまざまな税目に影響を与えており、自動車関連税制も例外ではない。業界からの要望や増税後の反動減対策など、さまざまな思惑が絡みあった結果、複雑な税制が今後より難解になっていく可能性は十分にある。

 (2016/06/27更新)