7月から施行された中小企業等経営強化法には、企業が生産性を高めるために必要とする金銭的負担を緩和する施策がいくつか盛り込まれている。目玉は、中小企業が新たに取得する機械装置の固定資産税が3年間50%に減額される措置だ。経済産業省によると、設備投資の固定資産税減税は「史上初」。法人税の軽減措置と異なり、赤字企業にも効果があることが大きな特徴だが、事業用の償却資産に固定資産税(償却資産税)が掛かること自体を問題視する声は根強く、同法の施行前には、日本税理士会連合会の会長が諮問機関に対し、償却資産税のあり方を総合的に検討することを要請している。
中小企業等経営強化法について経済産業省が6月にまとめた資料では、新設されたいくつかの支援措置につき、設備投資にかかる固定資産税の軽減措置と、それ以外の支援措置とに分けて紹介している。
このことからも、複数の支援措置のうち、国が設備投資の固定資産税特例を目玉と捉えていることが読み取れる。同法による固定資産税の減税措置は、個人事業主や資本金1億円以下の中小企業を対象に、今年7月1日から平成31年3月31日までの間に一定の機械装置を取得したときに適用され、3年間、固定資産税が2分の1に軽減される。
対象設備は160万円以上の新品の機械・装置で、生産性が年平均1%以上向上すると国に認められたもの。会社の生産性を向上させるための計画書(経営力向上計画)を作り、所管省庁に提出し、認定を受ける必要がある。
これまでの設備投資減税は、法人税を軽減する施策に限られていたため、法人税を納める必要がある黒字企業にしか効果がなかった。新設された特例は、赤字中小企業にも効果があることが特徴で、国はその点を強調して設備投資を促す。
しかし、今回の固定資産減税を国の大盤振る舞いと喜ぶのは早計にすぎるようだ。宅地の固定資産税問題に詳しい貸ビル事業者の稲垣俊勝氏は「現在の固定資産税の税体系は、納税者にとって、さも本来の税金から特別安く『おまけをしているのですよ……』というごまかしの制度である」と指摘している。
設備投資減税も同様に、税負担を減らす〝おまけ〞のように見せているが、実際は〝本体価格〞が不合理に値付けされているもので、投資減税でマイナスになった部分は元々支払う合理性がない額とはいえないだろうか。
全国15税理士会で構成される日本税理士会連合会(神津信一会長)も同様に、償却資産税に疑問を抱いている。同法施行4日前の6月27日、神津会長は会長の諮問機関である税制審議会(金子宏会長)に、会社の償却資産税のあり方に関して諮問している。
日税連が問題として挙げるのは、会社の設備投資を阻害している点だ。今回の固定資産税減税の目的は設備投資の促進だが、固定資産税自体が投資意欲を減退させているとして、さらなる税負担の縮小や廃止の必要性を示唆している。
日税連はこのほか、製造業など設備投資型の業種に税負担が偏っていること、その資産で得られる所得への事業税や住民税との重複課税となること、同様の税金を課税している国はほとんどないことを挙げている。実務面では、家屋と償却資産の区分や、会社の決算期に関係なく申告期限が来ることによる煩雑な事務負担も問題であるとしている。
東京・荒川区の大久保俊治税理士も、今回の固定資産税減税措置について、「相当大型の投資ができるような企業でなければインパクトはない」と、さらなる負担軽減を望んでいる一人だ。1千万円の設備投資をしたときの固定資産税(1・4%)の額は14 万円で、今回の設備投資減税ではその半額の7万円が3年間免除されることになる。小規模の設備投資をする中小企業にとっては税メリットを感じづらいというわけだ。
それでも国は、固定資産税減税による設備投資の増加に期待を寄せている。同法が今年6月3日に公布された時点では、施行日は公布日から3カ月の範囲内とだけ規定されていた。そのため、最も遅ければ9月初旬の開始になる可能性もあったが、施行が遅れるほど設備投資意欲のある会社が投資時期を遅らせるようになってしまうといった状況にかんがみ、比較的早い時期でのスタートとなった。企業の設備投資を後押しするひとつの起爆剤と国が捉えているのは間違いない。
償却がすでに終わっていてメンテナンス費用が高額になってしまうような古い機械を使い続けると、生産性は大きく落ちる。固定資産税の減税措置は、ここ2〜3年の間に該当する機械・装置を導入しようと考えていた中小企業の税負担を多少なりとも軽減するものではある。
また、旧タイプの機械・設備をやむなく使っている中小企業が設備の入れ替えを検討するきっかけにもなり得るだろう。適用できる会社は利用すべきであるが、日税連が指摘するように、償却資産税そのものの課題については議論する必要がありそうだ。
なお、中小企業等経営強化法では、固定資産税減税以外にも、経営力向上計画を作成して国の認定を受けた中小企業に金融面での優遇措置を設けている。政策金融機関での低利融資、民間金融機関からの融資を受けるときの信用保証、中小企業基盤整備機構による債務保証などの支援を受けることが可能だ。
昨年末に公表された平成28年度税制改正大綱では、「市町村財政を支える安定した基幹税であることに鑑み、償却資産に対する固定資産税の制度は堅持する」と明記された。財政面重視の記述だが、中小企業に余分な負担を強いることにかんがみれば、さらなる見直しは必要だろう。
(2016/08/31更新)