日本税理士会連合会(日税連、神津信一会長)の諮問機関である税制審議会(金子宏会長・東京大学名誉教授)はこのほど、個人所得課税の控除のあり方についてまとめ、神津会長に答申した。2018年度税制改正を踏まえながら、個人所得課税の問題点について検討している。答申では給与所得控除や公的年金等控除などを可能な限り縮小させ、基礎控除などの所得控除制度を抜本的に見直すべきと提言した。
給与所得控除
2018年度税制改正では、給与所得控除額を一律10万円引き下げるとともに、控除の上限額を195万円とし、その適用対象となる給与収入金額は850万円に引き下げられた。この引き下げについて税制審では、「給与所得者が実際に負担する必要経費の実態からみると微調整にすぎず、適正化を図るものとはいえない」とし、控除額を削減するなどの抜本的な見直しを求めた。
公的年金控除
また公的年金等控除について、18年度税制改正では10万円引き下げられるとともに、公的年金等の収入金額が1000万円を超える場合には、195万5千円の上限額を設けるなどの措置が講じられている。また、給与収入と公的年金等収入の双方がある人については、給与所得控除と公的年金等控除の一方の控除額が10万円引き下げられることになっている。
これについて答申は「現行の公的年金等控除は給与所得控除の水準を上回っており、世代間の課税の不均衡が生じているとともに、65歳の前後で最低保証額を含めた控除額の水準が異なっているため、世代内での課税の不均衡も生じている」と指摘。公的年金以外の所得を得ている高齢者が多いことから、公的年金以外の所得が多額である人に過大な公的年金等控除を適用することは適当ではないとも述べている。
また、公的年金等収入と給与収入の双方がある人について、それぞれの控除を併せて適用することも適切でないとし、高収入者への優遇的な控除に歯止めをかけるべきとの考えを示した。
退職所得控除
退職所得等控除については勤続年数20年までは1年当たり40万円、同20年超の場合はその超える部分につき1年当たり70万円とされているが、これについては「退職所得に対応する直接的な必要経費はないことからみて過大」とし、若年層を中心に短期的な就労形態が増加していることから、「勤続年数に応じた控除額の差異は就労形態に中立的ではない」との考えを示し、就労期間にかかわらず、勤続年数1年につき一定額の控除制度とすべきと述べている。また、高所得者など「退職所得に優遇的な措置を講ずる必要がないと判断される場合」には、現行の2分の1課税制度の是非についても再検討する必要があるとした。
現行の所得控除制度には、基礎控除や配偶者控除、扶養控除などの「基礎的人的控除」、障害者控除や寡婦控除などの「特別人的控除」、社会保険料控除や生命保険料控除、雑損控除、医療費控除などがある。
答申は、若年層や低所得者層への支援とともに、所得再分配機能の回復を図る観点から、所得控除を縮小し、その一部を税額控除にシフトする方向を提言している。税額控除は、所得の大小にかかわらず控除額が画一的であるため、所得控除方式に比べて税負担の軽減額が明瞭になるというメリットがある一方で、税額控除を適用する際には、最終的な税額まで算出する必要があるため、納税者の申告実務が煩雑になるとともに、申告件数が増加することによって税務当局にも負担が大きくなるという特徴がある。
当面は基礎的人的控除の額を引き上げた上で所得控除方式として据え置き、その他の所得控除項目の整理合理化を図りつつ、「可能な範囲で税額控除方式とすることが適当」との考えを示した。
基礎的人的控除については、今年の税制改正で基礎控除の額が38万円から48万円に引き上げられたが、「最低生活費部分を不課税とする制度の趣旨や生活保護基準との関係からみれば、その額はなお低水準」との認識を示し、さらに大幅に引き上げるべきとした。昨年の改正で見直された配偶者控除は「適切な改正といえない」との見解だ。
社会福祉政策の一環としての税制措置である特別人的控除については、税制として残すのであれば、所得の多寡にかかわらず控除額が一定になる税額控除方式にすべきとした。
また社会保険料控除や生命保険料控除などについては、全てを所得控除としている現状に「適切かどうかという疑問がある」と異論を唱え、「それぞれの控除の役割と意義を検証した上で、廃止すべきもの、縮小すべきもの及び税額控除方式へ移行すべきものに区分し、複雑化した現行の所得控除制度を簡素化する必要がある」と、根本的に問いただす必要があるとの認識を示した。
そこで若年層や低所得者層を支援するとともに、所得再分配機能の回復を図る観点から、「所得控除を縮小し、その一部を税額控除にシフトするという視点が重要」とし、当面は基礎的な人的控除の額を引き上げた上で所得控除方式として据え置き、その他の所得控除項目の整理合理化を図りつつ、「可能な範囲で税額控除方式とすることが適当である」との考えを示している。
さらに、答申では基礎控除などに代えて一定の所得金額までの税率をゼロとする「ゼロ税率方式」の導入を検討すべきと提言している。「所得の多寡にかかわらず、一定の所得金額に対する最低税率がゼロであるため、所得控除方式に比べて高所得者の負担が相対的に増加することになる。このため、高所得者の負担が軽減されるという所得控除方式の問題点が解消できるとともに、所得再分配がより促進される」と、新たな税率方式を提言している。
(2018/06/05更新)