所得拡大税制の利用件数急増

使える租特を見逃すな!


 大企業の税負担を減らす制度が目立つ「租税特別措置(租特)」だが、中小企業向けのものも少なくないようだ。財務省が国会に提出した報告書によると、租特法に規定されている「所得拡大促進税制」の利用件数は、制度の開始からわずか3年で9倍にまで増えている。他にも中小企業が使える租特はそこかしこに隠れている。大企業と比べて自己資金が少ない中小企業こそ、数少ない優遇措置を見逃さずに使いたい。


 租税特別措置(租特)には大企業だけが使える租特が目立つが、多くの中小企業に使われているものもある。中でも利用する法人が急激に増えているのが、賃上げによって法人税額を最大2割軽減できる「所得拡大促進税制」だ。

 

 財務省が2月に国会へ提出した租特の適用実態調査報告書によると、所得拡大促進税制が創設された平成25年度に利用した法人は1万823社だったのに対し、28年度は9万8853社と、わずか3年で9倍にも増えている。平成27年度に適用要件が緩和されたことや、儲かっている会社が増えたことで、利用件数が急増したようだ。

 

 同税制は平成30年度税制改正で控除額が増えることから、さらなる利用増が見込まれている。従前法で税額控除できるのは給与増加額の10%だが、今後は15%に拡大。また、平均給与額の増加率が2・5%を超えたうえで「教育訓練費を対前年度比で1割増加させる」もしくは「経営力向上計画に基づき経営力を向上させる」のいずれかの要件を満たせば、税額控除の割合が10%分上乗せされて25%となる。

 

 適用要件も簡素になる。従前法を適用する際に求められた「平成24年度と比べて給与総額を3%以上増加させる」という要件は、今年4月以降撤廃。一方で、前年と比べて平均給与額を1・5%以上増加させるという数値目標が新たに設けられた。

 

 前年の社員の平均給与が35万円として単純計算すると、今年の平均給与を36万円にすれば「(36万円-35万円)÷35万円=2・8」と「1・5%以上」の要件を満たすこととなり、さらに教育訓練や経営力向上を行えば法人税額の最大25%が税額控除されることになる。

 

 利用件数が急激に伸びている所得拡大促進税制と違い、すでに中小企業にとって〝定番〞の租特となっているのが、少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例だ。同税制は取得価格30万円未満の減価償却資産の購入費を全額即時損金算入できる制度で、平成28年度は51万262社が利用している。

 

 中小企業庁のアンケート調査では、この特例を利用している会社の4割は従業員が5人以下という結果が出ており、小規模企業にとって使い勝手の良い租特となっていることが分かる。

 

税制改正で控除割合引き上げ

 機械装置の購入費の一部を即時償却もしくは税額控除できる制度も比較的多くの企業が利用している。同制度は一定額以上の機械装置やソフトウエア、測定工具を購入した会社が、取得価格の30%の即時償却か、7%の税額控除のうち有利な方を適用するもので、平成28年度に即時償却を選んだ会社は3万8939社、税額控除は3万4766社だった。

 

 購入費の30%を即時償却すると当期の税金は大幅に減るが、将来の償却費の合計は通常の減価償却と変わらず、今納めるべき税金を将来に先送りしているに過ぎない。それでも7%の税額控除を選ばずに即時償却をする会社が多いのは、高額な設備の購入によって厳しくなった当面の資金繰りの負担を減らす狙いがあるとみられる。

 

 租特の中で最も適用件数が多いのが法人税の軽減税率制度だ。資本金1億円以下の中小企業の法人税の税率は、年間所得800万円を超える部分は23・4%だが、800万円までの部分は15%(本則19%)にまで引き下げられている。

 

 この軽減税率制度を28年度に適用した会社は88万8592社で、前年度から4万5千社も増えた。法人税を納める黒字企業が増えたことが影響しているとみられる。

 

減価償却資産特例は50万社利用

 中小企業が使える租特もあるが、一部の大企業だけが使っている租特が目立つのが現状だ。特に試験研究費の税額特別控除制度で大幅に税負担を軽減できているのは一部の大企業であることが、財務省の報告書で明らかになっている。

 

 報告書によると、平成28年度に試験研究費に関する租特を利用した1万2262社の合計適用額5926億円のうち、31・8%に当たる1883億円は適用額が大きい上位10社で占められている。最も多かった会社の適用額は841億円にも上るという。大企業にとって試験研究費の税額控除は補助金とほぼ同じ意味合いを持っていると言えそうだ。

 

 租特は、「公平・中立・簡素」とされる税制の基本原則の「例外的な優遇措置」(政府税制調査会の平成14年答申)と位置づけられているが、だからといって少数の企業しか使えないような租特が目立つ状態だと国民の理解を得られない。

 

 平成30年度の与党税制改正大綱では、租特を政策目的の実現に有効とする一方で、「税負担の歪みを生じさせる面がある」として、租特ごとに見直しを行うとしている。また会計検査院は、「政策目的に国民的合意があるか、政策手段として税制を用いることが適当かどうかについて、十分に吟味していく必要がある」と指摘している。

 

 廃止を含めた抜本的な見直しを行う基準は、「利用者が特定の企業に集中している税制や、利用者が極端に少ない税制」(政府税制調査会)だ。試験研究費の税額特別控除制度をはじめとした、税負担を大きく軽減できる企業が一部に偏っている税制は今後の見直しが求められている。

 

 問題も多い租特だが、中小企業の税負担を減らす制度もある。経営者としては自社に必要な措置を見逃すことのないようにきちんと確認しておきたい。

(2018/05/08更新)