意外と使いにくい

新・医療費控除

どれがスイッチOTC薬なの?


 確定申告はお済みだろうか。給与所得だけの人の多くは手続きが不要だが、年収2千万円を超える人や不動産オーナーは確定申告をする必要がある。また、税還付の対象者は面倒でも申告をしなければ本来戻ってくるはずのものが戻ってこない。なかでも今年の申告で気を付けたいのは、一定額の医療費を所得から差し引ける「医療費控除」だ。新制度の開始によって考えるべきことが増えたほか、領収書の自宅保存が必須となるなど面倒なことも意外と多い。


 医療費控除制度で前年の確定申告と大きく異なる点は、特定の医薬品を購入した人が適用できる特例「セルフメディケーション税制(市販薬控除)」がスタートしたことだ。新しい控除制度は、10万円超の医療費を所得から差し引ける通常の医療費控除との併用ができず、「どちらが得なのか」を見極める必要があるため、新制度の理解が必須となっている。

 

 セルフメディケーション税制は、国が指定した「スイッチOTC薬」を薬局などで1年間に1万2千円超買うと、所得から最大8万8千円を差し引くことができる制度だ。

 

 約1700の商品が対象として登録され、胃腸薬、かぜ薬、鼻炎薬、痛み止め、腰痛や捻挫の湿布、整腸剤、花粉症・アレルギーのための目薬、殺菌薬、消毒薬、絆創膏など薬の種類は幅広いものの、スイッチOTC薬をドラッグストアで見つけるのは案外難しい。値札に小さく書かれていることがほとんどで、しかも青色の専用マークはあまり目立たない。レシートの記載によって初めてスイッチOTC薬であることに気付くことも珍しくない。

 

 また、スイッチOTC薬は値段が比較的高いものも多い。東京・世田谷区のドラッグストアに訪れていた佐藤雪子さん(仮名)は、「痛み止めの薬の購入に来たのですが、店員に勧められたスイッチOTC薬は自分が普段使っているものより千円ほど高かった。税優遇を受けるために高い商品をわざわざ買うのはばからしい。いつも買っている商品はスイッチOTC薬ではなかったのですが、結局そちらを買いました」と、対象商品が限定されているために、スイッチOTC薬の購入には至らなかったことを語ってくれた。

 

どちらが得か判断するのも難しい

 通常の医療費控除とどちらが得なのかの判断も難しい。高額な治療費が掛かったわけではなく、市販薬で済ませることが多いなら、セルフメディケーション税制を利用するのが基本的な考え方となる。ただ、正確に判断するには支出額や各種控除などの細かい計算が必要となる。

 

 簡易的な判断方法としては、所得によっても異なるが薬代を含めた医療費全体が18万8千円を超えるなら医療費控除が有利。医療費全体が18万8千円以下であれば、「セルフメディケーション税制の対象となる分を除いた医療費」が8万8千円以下なら、市販薬控除のほうが得となる。逆にこれが8万8千円を超えるなら医療費控除のほうが有利だ。医療費全体が10万円を超えないのであれば、そもそも医療費控除の適用対象外なので、市販薬控除の一択となる。判断が難しければ税理士に聞いて適用制度を決めるようにしたい。

 

 医療費控除制度のもうひとつの変更点は、医療費の領収書の提出が今年の申告から不要になったことだ。この改正点について国税当局は「提出書類が簡略化されます」と手続きがシンプルになった点をホームページ上で強調するが、領収書の提出が不要になった代わりに別の負担が納税者にかかるのが今回の改正となっている。

 

領収書の提出は不要でも保管は必要

まず、領収書の提出は不要となった一方、医療費の金額や支払い内容を一覧にした「医療費控除の明細書」の提出が義務化されている。明細書に記入する主な項目は、①医療を受けた人の名前、②病院や薬局などの支払い先、③「診療・治療」や「医薬品購入」などの区分、④支払い金額、⑤保険などで補てんされる金額―の5つで、これらを踏まえて医療費控除の額まで記入する。以前と比べて申告時の手間はかなり減るとみられるが、明細書の提出が義務化された初年度の今年は、慣れない作業に多くの納税者が手間取ることは想像に難くない。

 

また、領収書の提出が不要になった代わりに、自宅での5年間の保存が義務付けられるようになったことも、納税者にとっては新たな負担となる。個人事業主なら他の経費の領収書とともに医療費の領収書も事務所内に保管することになるだろうが、これまで保管する習慣がなかった人は5年の間に紛失してしまうおそれがある。税務調査で領収書の提示を求められた際に紛失が分かれば、所得控除が否認されて余計な税負担を負うことになりかねない。

 

医療費の領収書の提出が不要になった背景には、国税当局の都合もあると言われる。税務署としても大量の領収書を保管するための場所やコストを無駄にしたくないため、納税者に一部を負担してもらうという思惑があるようだ。

 

なお経過措置として、今年から3年間は従来の領収書添付による申告も認められる。将来的には新方式に対応しなければならないが、旧方式の方がスムーズに申告できるという人は3年の準備期間を掛けて改正内容に慣れていくという選択肢もある。

 

今年の確定申告の医療費控除は例年よりも考えることが多く、判断に迷う点もある。ただ本来差し引ける支出を所得から控除できないのはもったいない。申告期限まで残りわずか。間違いのない申告をして無駄な支出をしないようにしたい。

(2018/03/02更新)