税制は毎年必ず見直され、そのつど国民の生活や事業の在り方を大きく変える。そのため、遅くても毎年12月に発表される税制改正大綱で改正の方向性を把握しておき、適用可能な制度を事前に知っておきたいところだ。さらに、今の時期に出そろう各省庁の税制改正要望の内容を確認しておけば、自社で活用できる特例などを早期に把握できる。会社や経営者の税負担を減らせそうな見直しを各省庁の改正要望から抜き出してみた。
各省庁の税制改正要望が出そろった。今後は政府税制調査会と与党税制調査会でそれぞれ要望の内容について話し合い、12月には税制改正大綱が閣議決定され、1月からの通常国会での議論を経て4月に関連法が施行されることとなる。
中小企業に関わる税制改正要望は基本的に経済産業省によってなされる。その中から重要な項目をいくつかピックアップしたい。
まず注目したいのは、役員報酬の損金算入要件の緩和だ。現行法では、役員報酬は毎月同額を支払う給与や税務署に事前に支給額を届け出る賞与を除き、原則として会社の損金にできない。好業績により役員に急きょ支払うボーナスは損金算入が制限されてしまうわけだ。
そこで経産省は、業績に連動して支給する役員報酬について、損金算入の要件を緩和することを求めている。損金不算入であるために臨時の賞与が出せなかった企業が減る可能性もありそうだ。好業績の企業の役員にとっては期待大と言える。
また、相続人が個人事業者の事業用資産を引き継いだ場合に、相続税の負担が軽減される制度の創設も要望されている。
個人事業者の事業用資産は、大きく分けて土地、建物、設備に分けられる。このうち土地については、相続の際に評価額を8割減らせる小規模宅地の特例があるため負担は最小限に抑えられる。しかし建物と設備については優遇がない。
このことが親の資産を引き継ぐ際の事業継続の足かせになっているため、経産省は個人事業主が持つ工作機械などの設備や事業に使う建物について、相続税の算定基準となる評価額を軽減する見直しを求めている。
要望には償却資産税の見直しも盛り込まれた。償却資産税とは、事業に使う機械装置や看板などの固定資産(償却資産)に掛かる地方税で、税額は耐用年数と減価率を考慮して市町村が決める「固定資産税評価額」の1・4%となっている。
企業の設備投資の阻害要因となっているとの理由から廃止を望む声もあるが、自治体の大きな財源となっているため現段階での廃止は現実的ではない。
経産省の要望には見直しの具体的な内容は記されていないが、非課税枠を現行の150万円から引き上げて課税対象の範囲を狭めることや、法人税と同様に30万円未満の減価償却資産を一括費用化することなどが検討されている。
また、現行法では法人税の申告期限とは別に、保有している償却資産を毎年1月に申告しなければならないが、今後は法人税と同時に申告できるようになる可能性がある。
経産省は印紙税についても見直しを要望している。現行法で印紙税が課税されるのは紙の文書での取引に限られ、電子取引には課税されないため、課税の公平性を損なうと指摘されている。経産省の要望には「電子取引の増大を踏まえ、印紙税のあり方を抜本的に見直す」と記されており、印紙税廃止の方向に動き出すことへの期待は大きい。
中小企業関連の見直し要望としてはこのほか、800万円までの法人所得に掛かる法人税率を15%に軽減する特例や、一定の設備投資をした会社が税額控除や特別償却を受けられる税制の延長が盛り込まれている。
個人の消費や財産に関する改正要望は複数の省庁から財務省と総務省に提出された。特に消費税の増税対策についての要望は各省庁から出された。国土交通省は、過去の消費税増税の前後には住宅の駆け込み需要とその反動による需要減が顕著だったことから、住宅ローン残高に応じて10年間にわたって税額を軽減する住宅ローン減税の拡充を求めている。
また経産省も、消費税増税後に自動車の購入者が激減することを防ぐため、取得段階で購入者に掛かる税負担を軽減するように求めた。さらにユーザーが毎年支払う自動車税についても、軽自動車税の水準まで税率を引き下げることを要望に盛り込んでいる。自動車の取得や維持に掛かる負担を減らすことで消費意欲の減退を防ぐ狙いだ。なお、日本自動車工業会も消費税の増税を踏まえ、自動車税などの大幅減税を求めている。
相続や贈与に関する見直しとしては、文部科学省が教育資金の一括贈与の非課税特例の恒久化を要望に盛り込んだ。この特例は教育資金の贈与が1500万円まで非課税となる制度で、子や孫へ財産をまとめて非課税で贈与したいと考える富裕層が適用しているものだ。制度の開始から3年弱で利用は15万件を超え、制度を利用した贈与金額は1兆円を突破している。
また国交省は、空き家の売却に掛かる譲渡所得から3千万円を控除できる制度の延長を求めた。適用要件の緩和も要望しており、現行では被相続人が相続開始の直前までその家に住んでいなければ適用できないが、被相続人が老人ホームに入居して家を離れていたケースも適用範囲に加えるよう求めている。
各省庁の要望から税制改正の方向性を早めに確認し、自分に必要な税制を漏れなく適用できるようにしておきたい。
(2018/11/02更新)