消費税をめぐる脱税事件が後を絶たない。架空経費を計上することで「支払い消費税」を過大に偽装し、「受け取り消費税」と相殺することで消費税額を減らしたり、不正に還付を受けたりするなどの手法が横行している。消費税率の引き上げを前に、脱税がなぜ後を絶たないのか、その巧妙な手口について調べてみた。
国税庁によると、2017年度の消費税調査による追徴税額の総額は748億円にのぼり、5年前の474億円と比べ57・8%増となっている。ここ数年、国税庁長官や各国税局長の就任会見でも、消費税の不正への対応は積極的に取り組むべきテーマとして繰り返し語られているように、国税当局が消費税への税務調査に力を入れていることを物語っている数字だ。
消費税に関して常に話題にのぼるのが、その滞納率の高さだ。1993年以降、新規発生滞納額は各税目のなかで常にトップで、17年度は全税目の滞納額6155億円のうち、全体の半数を占める3633億円となっている。徴収率の向上に力を入れている当局が差し押さえを増やすなどムチを振りかざしても、滞納発生件数は微減にとどまっているのが現状だ。
この滞納率の高さは、中小企業にとっていかに消費税の納税が苦しいかということを表しているのと同時に、消費税の脱税が横行しているという事実も示している。脱税で摘発された事件をみると、多くは架空経費の計上で「支払消費税」の額を増やし、これを「受取消費税」と相殺することで納税額を減らしたり、還付を受けたりする手口であることが分かる。
今年1月には、高級腕時計の取引をめぐり、消費税約2400万円の不正還付を受けたとして、腕時計販売業者の代表が消費税法違反の疑いで東京地検に告発された。海外で仕入れた腕時計などを国内で仕入れたように帳簿を操作。消費税が国内取引にだけ課税され、仕入れ時に支払った税額が売上時に受け取った税額から控除される仕組みを悪用し、不正還付を受けたとされる。
消費税は、「国内で消費される財貨やサービスに対して課せられる税」であるため、国外との取引には原則的に課税されない。しかし、国内の事業者から商品を仕入れる際には消費税分が上乗せされている。そのため国外取引を行う事業者は、仕入れにかかった消費税額を申告することで、その分の還付を受けることができる。架空の海外取引で消費税の還付を受ける手口が横行しているのはこのためだ。
消費税が免除される制度を悪用しているケースもよくある脱税のパターンだ。別掲のすべてを満たせば免税事業者とされるが、なかでも人材派遣会社を使って偽造工作するケースが目立つ。
会社が従業員に支払う賃金には消費税が発生しない。消費税は売り上げで得た「受取消費税」から、仕入れなどで支払った「支払消費税」を差し引いた額を納めるルールだ。賃金は経費として損金算入できても支払消費税は発生せず、受取消費税から差し引くことができない。
そこで、ダミー会社を設立。自社の社員をダミー会社(多くは人材派遣会社)から派遣されたスタッフということにして、ダミー会社に賃金相当額を「外注費」として支払えば、「支払消費税」が発生するので、納付する消費税額を圧縮することができる。
そして免税事業者の要件にある「2年間免除」の制度を悪用し、ダミー会社を2年ごとに潰しては立ち上げて脱税を繰り返している。都内の人材派遣会社は、設立したばかりのダミー会社に人材派遣を委託したように装い、免税となるダミー会社側の売上を膨らませるなどの手口で3年間に消費税約7千万円を免れたとされている。脱税した金は会社の運転資金に充てていたという。
ある建設会社が消費税法違反と地方税法違反の罪に問われた事件も同様の手口だ。この会社では外注費を装い、実際には従業員へ給与を支払い、3年間で約5500万円の消費税を免れたほか、同じ手口で消費税約700万円の還付を不正に受けたとされている。ダミーの人材派遣会社から労働者を受け入れたようにみせかけ、消費税込みの外注費を支出する手口で納税額を圧縮。資本金1千万円未満の会社は設立から2年間、消費税が免除される制度を悪用し、ダミー会社の設立を繰り返していたとみられている。
国税当局は消費税の不正還付や脱税を警戒しており、東京・大阪・福岡の各国税局に消費税事案の専門部署を設置し、監視を強めている。10月には消費税率10%への引き上げを控え、消費税の滞納率がさらに高くなるとの声も聞かれる。
消費税に限らず、税務調査対策の基本は、なんといっても疑われないことに尽きる。各種の節税策では微妙なラインもあるだろうが、否認された際のリスクを考えれば「勝負」をかけるところではないことがほとんどだ。税理士と相談しつつ、中小業者にとっての非情な増税に備えたい。
(2019/07/05更新)