国税の本気度、数字からも明確に

富裕層狙いさらに強化

調査件数減るも追徴税額は増加


 増税が既定路線となっている所得税について、取りこぼしを防ぐための国税側の本気度が明確に数字となって表れた。平成27年度の所得税調査件数は前年度比で8割台にまで減少しているにもかかわらず、申告漏れを指摘された金額や追徴税額は前年を上回っていることが国税庁の発表した調査概要で分かった。当局では「効率的・効果的な調査が実施できた」と胸を張るが、効率よく取るための作戦として見えてくるのは、大きな網と一本釣りの使い分けだ。そして言うまでもなく、一本釣りの〝獲物〞は当局が定めるところの「富裕層」である。


 平成28年6月までの1年間の所得税調査件数は、前年度比87・8%の65万件だった。この総数は、調査官が納税者宅などに訪れる「実地調査」と、電話や文書などで済ませる「簡易な接触」で構成されている(表)。そのポイントを検証する前に、まずは当局が使う「調査」という言葉についておさらいしておく。

 

 まず、6万6016件となった実地調査は、「特別・一般調査」と「着眼調査」からなり、前者は「高額・悪質な不正計算が見込まれるもの」を対象としている。「一般」はその名のとおり一般的な税務調査として、各税務署が管轄内を対象に事前通知をして訪れ、書類などをひっくり返して調べる調査だ。おおむね2〜3日程度で済むことが多い。それに対し「特別」は、さらに「高額・悪質」の度合いが高いと判断された納税者に対するもので、税務調査の花形である特別調査部門(トクチョー)や、国税局の資料調査課(リョーチョー)が担当する。国税通則法に定められた事前通知についても「調査の適正な遂行に支障を及ぼす」との理由で行われないことも多く、「行ったからには取る」という不退転の覚悟で臨む。取引先を調べる反面調査や銀行調査も積極的に行い、調査日数が10日を超えることも珍しくない。

 

 もうひとつ、実地調査には「着眼調査」があるが、これは平成16年に導入され、申告所得漏れなどに絞って調べる制度だ。

「調査」なら加算税、「指導」ならゼロ

 実地調査と別にされている「簡易な接触」は、電話や手紙などで自主的な申告や修正または呼び出しをするもので、いわゆる「お尋ね文書」がこれに該当する。

 

 「簡易な調査」とせずに接触としているのは、調査ならば前述の事前通知が必要となるためだ。そのため「簡易な接触」として出される通知などには、税務調査ではなくあくまでも行政指導の一環であると記されている。だが、その文末には「本状を提出しなければ調査に発展する」との記述があることから、任意調査以前の「照会」にも関わらず、文書を受け取った納税者側としてはこれを無視することは難しい。

 

 それは今回の数字にも表れ、「簡易な接触」を受けた58万件のうち、その58%にあたる34万件で何らかの誤りや申告漏れ(非違)が指摘されていることから、「お尋ね」などに応じた納税者は相当数に上ることが考えられる。

お金持ちは一本釣りで

 そして実地調査かそれ以外の「接触」なのかが不明であることが問題になるのは、どちらであるかによって罰則が変わってくることだ。仮に過少申告であると税務署が判断すると、それが調査であれば本税の10%の過少申告加算税がかかるが、行政指導としての単なる接触なら加算税はない。事前に税務調査かどうかをしっかり確認したいところだが、一般の納税者には難しいだろう。顧問税理士などに相談して対処したい。

 

 お尋ね文書などの「簡易な接触」は、事前通知の義務化により調査件数が激減したことを受けて当局が力を入れ出した、いわば〝投網〞だ。個別調査から全体を網に掛けて捕捉する手法で一定の〝釣果〞を上げている。調査総数は前年比87%に落ちているものの、非違割合は前年(60%)と遜色なく、申告漏れ所得金額の割合は微増している。小魚も58万匹集まれば3542億円の申告漏れ金額になるということだ。

 

 そして当局が本腰を入れているのは、やはり高額な追徴が狙える〝一本釣り〞だ。「特別・一般」の調査件数は4万8043件で、そのうち非違は4万1515件と、実に86%という高確率だ。さらに申告漏れ金額は4522億円と、58万件以上を対象とした「簡易な接触」の金額を優に超えている。

 

 さらに注目すべきは、富裕層に対する調査が4377件行われ、現在の集計方法となった平成21年以降で最多となる前年比32・3%増の516億円の申告漏れを指摘したことだ。1件あたり1179万円で、海外投資などを行っていると2970万円に上った。追徴税額は120億円、1件当たり273万円となる。

 

 当局では富裕層に的を絞った「プロジェクトチーム」を東京・大阪・名古屋の各国税局に設置して対策を進めているが、平成29年夏以降は全国に拡大する方針を明らかにしている。また、国税通則法に国税犯則取締法を組み込む案も浮上しており、徴税強化に拍車がかかることは間違いないだろう。

(2016/12/29更新)