今年5月以降の売上高が激減した個人事業主らに国が家賃の一部を補助する「家賃支援給付金」の申請が7月14日からスタートした。だが、トラブル続きの持続化給付金よりも審査に時間がかかるとみられ、支払いは秋以降になるものと見込まれている。経産省は給付が遅くなる理由として、「家賃は契約パターンがさまざまで申請や審査は簡単ではない」と言い訳するが、事業者からは「遅すぎる。とても秋までは待てない」という不満の声が噴出している。
家賃支援給付金は、新型コロナウイルスの影響で売上が急激に減少した事業の継続を下支えするため、固定費の中で大きな負担となっている地代、家賃の負担を軽減することを目的としている。
対象者は、①資本金10億円未満の中小企業やフリーランスを含む個人事業者、②5〜12月のいずれか1カ月の売上高が前年同月比半減、または連続3カ月の売上高が前年同期比30%以上減、③自らの事業のために占有する土地・建物の賃料の支払いがある——のすべてを満たす事業者となる。
法人に最大600万円、個人事業者に最大300万円の給付金を支給する。給付額は支払っている賃料の水準で変わり、法人は月額75万円が基準になる(表)。例えば、賃料が月90万円の法人なら、75万円を超えた分に相当する15万円の3分の1である5万円に50万円を加え、月55万円が支給される。給付総額は6カ月分の330万円。上限の600万円が支給されるのは、賃料の合計が225万円以上の法人となる。
東京・大田区でカラオケスナックを経営する男性は「家賃や人件費、カラオケリース代の固定費負担が重い。家賃だけでも早く補助してほしい」と嘆く。しかし家賃支援給付金は、入金が遅れるなどのトラブルが続出した「持続化給付金」よりも、さらに審査に時間がかかるとみられている。
経産省の担当者は「家賃給付金は持続化給付金の3〜4倍では収まらないほど手続きが複雑になっている」と話している。家賃は契約パターンがさまざまで、審査が簡単ではないからだという。たとえば、貸主と借主が親族関係だったり、親会社と子会社の関係だったりする場合は対象外だ。
また自粛の動きが一気に広がった3月や、全国に緊急事態宣言が出た4月の売上減は対象外となっていることについて経産省は、持続化給付金の存在を理由に挙げている。持続化給付金は5月から給付が始まっており、「持続化」と「家賃」の両給付金には「時期的な役割分担がある」というのが経産省の見解だ。
だが持続化給付金は一時、給付遅れが続出した。国は今年1〜3月に開業した事業主やフリーランスらも新たに支給対象に加えたが、申請の受け付けが始まったのは6月末からだ。経産省は両給付金の役割分担を主張するが、両方の給付金がなかなか手元に届かない事業者が続出しているのだ。
また家賃給付金には「連続する3カ月の売上高が30%以上の減少」という支給条件があり、これも給付が遅れる大きな要因になっている。「5〜7月の30%減」を確認後、8月に申請しても支給は9月になる可能性が高い。新型コロナウイルスの影響で苦しむ医療機関や中小企業からは「給付されるのが遅すぎる。秋まで待てない」といった悲鳴が聞こえてくる。
申請は、売上減少月の翌月から来年1月15日までいつでも可能となっているが、給付に時間がかかることが予想されるため、申請する事業者は早急に書類を準備しておいたほうがいい。
申請書類は、①賃貸借契約の存在を証明する書類(賃貸借契約書など)、②申請時の直近3カ月分の賃料支払実績を証明する書類(銀行通帳の写し、振込明細書など)、③本人確認書類(運転免許証など)、④売上減少を証明する書類(確定申告書、売上台帳など)——となっている。
審査が複雑になることに比例する形で申請書類も多くなっている。オーナーとテナントの賃貸借契約が多様化していることから、申請時に提出書類が揃わなくても、それを補う資料を提出すれば申請を受け付けるなどの柔軟な対応も必要になってくるはずだ。
国の給付金だけでなく、自治体独自の家賃補助制度も活用したい。例えば東京都は新型コロナウイルスで売上が減少している中小企業などを対象に、国の家賃支援給付金に独自の援助金を上乗せ支給する方針だ。企業が負担する1カ月の家賃について、75万円までは国の給付金と合わせて4分の3(国は3分の2)を補助する。
家賃は売り上げにかかわらず発生する大きな固定費であり、言うまでもなく売上が減ると事業者の負担が大きくなる。事業継続という視点で考えれば、事業者の家賃支援は欠かせない政策であり、一刻も早く事業者に給付金を届けなければならない。
(2020/09/04更新)