新型コロナウイルスの影響で飲食業者などが深刻な売上減に落ち込むなか、テナントに物件を貸しているオーナーもまた、家賃収入の減少という問題に直面している。「不動産オーナーは十分な蓄えのある富裕層」という先入観からか、行政の救済策も、どうしても店子重視に偏りがちだ。店子と共倒れにならないためにも、テナントオーナーは様々な手を駆使して難局に立ち向かわなければならない。
飲食店経営者らでつくる「外食産業の声」委員会が、4月21日に発足した。中心メンバーでタリーズコーヒージャパン創業者の松田公太氏らは記者会見を開き、家賃の支払いが難しくなっている飲食業界の窮地を訴え、テナント料の支払い猶予を盛り込んだ「家賃支払いモラトリアム法」の策定を求めた。
同団体によれば、不動産オーナーに対して家賃減額や猶予の話し合いに応じることを法律で義務付け、さらに「痛みの分かち合い精神」で減免交渉に応じることも義務化するという。オーナー側の都合で減免が難しい場合は政府系金融機関による肩代わりも検討するが、その際の条件は「テナント側が不利にならないよう配慮する」ことを求める。
松田氏は会見で「飲食店のなかには今月や来月の支払いが厳しいところも多く、すでに倒産したところもある。時間が迫っている」と危機感をにじませた。実際に東京商工リサーチの調査によれば、4月5日までに新型コロナウイルスの影響が「すでに出ている」と答えた企業は6割を超え、特に飲食業を含む「サービス業他」が71・5%と最も多かった。
新型コロナウイルスの影響は当初、海外観光客を主たる客層とする旅行業者、宿泊業者で大きかったが、政府の緊急事態宣言をはじめとする外出自粛要請によって、飲食産業にも広がった。そのなかで、飲食店などテナントの「家賃問題」が浮上している。
日本に先行して新型コロナウイルスの感染が拡大しているドイツでは、家賃滞納による解約を禁止し、4月〜6月分の家賃に限り2年間支払いを猶予する仕組みを作った。また米国では、事業者が家賃を滞納しても120日間は延滞料を課されないルールを定めている。
冒頭に挙げた「外食産業の声」委員会の要望では、テナントを借りている店子側が不利にならないよう十分に配慮することを求めている。しかしオーナー側からすれば、現状で〝弱い立場〞にあるのは自分のほうだという思いがあるだろう。
3月31日には、国交省から不動産オーナーに、家賃徴収の猶予に応じるよう要請が出されている。要請に法的拘束力はないものの、今のような社会情勢下でかたくなな態度に出ればSNSなどで拡散されてしまう恐れも否定できない。また実情として店子が家賃を支払えない状態にある以上、オーナーとしては減額や猶予に応じざるを得ない状況だ。それにもかかわらず、店子が入っている以上はオーナーに物件を管理する責任が生じ、様々なランニングコストが家賃徴収を猶予している間にも発生し続けることになる。
不動産経営は中小事業者やその経営者のスタンダードな副業だが、新型コロナウイルスの影響によって本業の業績が落ち込むなかで、副業でも出血を強いられるとしたら、店子より先に大家が音を上げてしまうだろう。
ただ、ここまでテナントの家賃問題を巡って店子側の訴えによる議論が先行したなかで、ようやくオーナーの救済にもスポットライトが当たりつつある。例えば国交省が4月17日にまとめた案には、家賃支払の猶予に応じたオーナーの固定資産税や償却資産税を1年間免除する内容が盛り込まれた。また与党が店子向けの補助金の検討に入ったほか、野党も、いったん国が家賃を肩代わりして家主に支払う案を近く法案にして提出する方針だ。
国としての対応はこのように検討の最中だが、先んじて独自の対策をすでに打ち出している自治体もある。例えば福岡市は家賃の徴収猶予を求めるだけでなく、市内の中小事業者に対して月50万円を上限として店舗賃料の8割を補助することを発表した。また山形市でも30万円を上限に家賃補助を行う考えを示している。その他、様々な自治体が、テナントの店子とオーナーの救済に乗り出している(表)。
家賃問題は商業用のテナントだけにとどまらない。米ニューヨーク州では多くの市民が、家賃の支払いが困難になっている。これと同様に日本でも外出自粛が長引けば、居住用物件の家賃問題が拡大するだろう。その際には、遅きに失するであろう国の対応を待つのではなく、「住宅確保給付金」のような既存の制度もフル活用して、収入の減少を最小限に防ぎたい。
飲食業をはじめとして、テナントの経営が極めて苦しい状況にあるのはもちろん理解できるが、大家側に過重な負担がかかれば、店子ともども共倒れということにもなりかねない。国や自治体には店子も大家も救われる施策を求めるとともに、オーナーは様々な支援策を活用して家賃の収入減少を抑えて、この難局を乗り切りたい。
(2020/06/04更新)