〝家なき子〟スキームを規制

「小規模宅地の特例」規定厳格化


 2015年に施行された改正相続税法では、取得金額6億円超にかかる最高税率が5%引き上げられて55%になるとともに、基礎控除が大幅に引き下げられた。課税対象者が倍増したことによる数のカバーには限界があるなか、国税当局は次から次へと生まれる新しい節税スキームの取り崩しにかかっている。今回、小規模宅地の特例に関する「家なき子特例」の要件に狙いが定められた。4月の施行前に、改正点を押さえておきたい。


 死と税金からは逃れられない――。これは米100ドル紙幣の肖像にもなっている実業家ベンジャミン・フランクリンによる有名な言葉だが、逃れられないからこそ、つねに人は節税策に頭をひねり、これに対して税務当局は新しい節税スキームが生まれるたびに法改正などで穴を塞いできた。

 

 2013年施行の改正国税通則法により、税務調査にあたっては納税者や税理士への調査内容などの事前通知が義務付けられた。これにより当局の手間が増えたことで所得税や法人税の調査件数は激減した。そんな中、相続税の実地調査件数は、2013年度の1万1909件から16年度の1万2116件へと微増している。ここ数年は、消費税とともに税務調査の〝重点項目〞の常連となっているとはいえ、相続税への力の入れ具合が十分に伝わってくる数字といえよう。

 

 だが、増えたとはいえ、近年の法改正で急増した対象者の数に追いついているとはとても言えない。そこで当局では、すそ野が広がったプチ富裕層に対しては、調査とも税務指導とも判断のつかない「お尋ね」といった文書を大量に発送することで投網を広げると同時に、たくさんの追徴課税が期待できる超富裕層からは1円も取り漏らしをしない構えを見せている。

 

相続税の取りこぼしを防ぐ

 そしてこのたび、相続税の取りこぼし対策として目をつけたのが、小規模宅地の特例に関して広がった「家なき子特例」を活用した節税スキームの取り締まりだ。

 

 小規模宅地の特例とは、亡くなった人(被相続人)が住み暮らしていた330㎡までの土地を配偶者もしくは同居している親族が相続した際は、土地の評価額を最大2割にまで引き下げるというものだ。1億円の土地なら2000万円の評価で相続税が計算されるため、税率30%で考えれば本来なら相続税額3000万円のところ、税率がそのままだとしても特例によって600万円で済むことになる。

 

 特例を利用する条件は基本的に配偶者か同居の親族に限られているのだが、もうひとつ認められているのが、持ち家を持たずに別居する親族、通称「家なき子」が相続するケースだ。

 

 親と同居はしていなかったものの、親の死去により自分の故郷でもある家を処分してしまうのは心苦しいので実家に住み替えることにした子どもなどが想定される。そうしたときに、当該不動産以外に資産がなければ相続税を納めるために住んでいる土地家屋を処分しなければならない事態に陥ることもありえる。

 

 特例は、被相続人と同居していた相続人や、これまで家を所有することなく賃貸住宅に暮らしていた相続人の生活を守ることを目的にしたもので、生活者としては非常にありがたい制度ではある。

 

 だが、世の中には頭のいい人がいるもので、持ち家に住んでいるにもかかわらず、にわか「家なき子」になることで大幅な節税を実現するスキームが生み出された。

 

 現行法では、相続開始3年以内に持ち家に住んだことがない人という、ある程度ざっくりとした条件となっている。そのため土地付き一戸建てに住んでいる子であっても、親の家に移り住むか、相続開始の3年以上前に家を売って賃貸で暮らすなどの方法で特例の対象となることが可能だ。

 

建物だけの名義変更もNGに

 さらに賢いのは、自分が住んでいる建物のみ親に贈与して名義を替え、そのまま住み続けるというものだ。売却の面倒も慣れない同居や賃貸暮らしの煩わしさもない。親が死亡した時に元の家に相続税がかけられても、親が持っていた宅地の評価額が8割減となるので、税負担が少なくて済むことが多い。

 

 なお、土地の相続税についての特例でありながら、あくまでも自分所有の家かどうかが問われるため、土地については親に贈与しておく必要はない。

 

 こうした「家なき子特例」を活用した節税スキームが世間に広がると、当局としても黙っているわけにはいかなくなる。「本来の特例の趣旨から逸脱しているケースが散見される」として、18年度税制改正大綱には、特例が認められる「家なき子」の条件が厳格化された。

 

 すなわち、相続前3年以内に3親等内の親族もしくは関係法人が所有する家に住んでいたことのない人、また元々の自分の家の所有権者を替えたにもかかわらず、その家に住み続けている人はアウトということになった。自宅の売却や贈与などで節税を考えていた人は、「3年」というキーワードとともに、改正点をよく把握しておきたい。

 

 なお、18年度の税制改正大綱では、貸付事業用宅地等についての適用も厳格化されている。アパートやマンション、駐車場として人に貸している土地は、200㎡を上限に5割まで評価額をカットできるが、この制度を〝活用〞し、相続前に一時的に不動産を購入する人が目立つようになった。そこで大綱では、3年以内のにわか不動産業者を特例の対象から外すことが盛り込まれた。

 

 節税策と取り締まりは永遠のいたちごっこと言われるが、相続に関してもまだまだ続きそうだ。

(2018/03/12更新)