大きく変わる「相続」の仕組み

配偶者、介護負担者に手厚く

37年ぶり大改正へ


 相続税法の改正によって、昨年1月以降に発生した相続から基礎控除額が引き下げられ、最高税率が55%に引き上げられたことで、これまで以上に相続は多くの人にとって身近で大きなテーマとなった。相続にまつわる制度の見直しは税だけにとどまらず、37年ぶりとなる家族の相続分の見直しや、介護に携わった人の権利拡大が今後図られる見通しだ。さらに円滑な相続を促すための諸制度の見直しも検討されており、相続をめぐる法制度は変革の時期を迎えつつある。


 法務大臣の諮問機関である法制審議会は6月下旬、相続に関する民法改正の試案をとりまとめた。目をひくのは、配偶者の権利拡大に関する項目だ。現在、配偶者(ここでは妻とする)と子ども1人が相続人の場合の相続割合は「1対1」だが、これを試案では、婚姻後一定期間(20〜30年)を経過すれば、妻と子の取り分割合を「2対1」とする内容が盛り込まれている。

 

 また相続人が亡夫の妻と亡夫の兄弟1人の場合には、現状の「3対1」から「4対1」にする。この見直しは、長年にわたる夫婦の〝連れ添い〞の権利を強化するものだ。また結婚後に財産が増えた分に応じて妻の相続分を増やす案や、これまで住んでいた建物に妻が引き続き居住できる居住権の確保など、配偶者を保護する内容が法制審議会の試案には並んでいる。

 

 試案ではさらに、高齢社会化に伴い家族介護が増加していることを受けて、介護者の権利拡大にも道筋が付けられている。現行では、長男の妻が被相続人の介護をしても財産を相続できる権利はない。これを今後は、相続人である長男に対して妻が金銭請求できるようにする。重負担である介護の担い手に対して、法律面から貢献度を評価するものと言っていいだろう。

 

 その他、自筆遺言証書について財産目録などにパソコン作成を認めることや、遺言書を公的機関が預かる制度も創設するなどの内容が盛り込まれた。法務省は来年中の国会に民法の改正案を提出する方針で、もし成立すれば1980年に配偶者の取り分が3分の1から2分の1に引き上げられて以来の、相続法制の大改正となる。

 

被相続人への貢献を正当に評価

 2013年9月の最高裁判決によって、婚外子の相続分が低い民法規定は違憲だと判断された。これを受けて民法の改正がなされたものの、今度は正妻の権利を拡大すべきとの声が強まった。

 

 また家族介護の負担が増加し続けるなかで、被相続人への貢献度を正当に評価することへの必要性が高まった。法制審議会がまとめた試案はこうした社会の流れの変化をくんだもので、相続をめぐる制度は大きく変わりつつあると言えるだろう。

 

 税制面でも相続は転換期を迎えている。昨年1月からは、それまで相続人の取得金額3億円超については一律50%だった最高税率が、6億円超については55%へと引き上げられた。また、これまで「5千万円+法定相続人の数×1千万円」だった基礎控除が「3千万円+法定相続人の数×600万円」へと大きく縮小され、相続税の課税対象が大幅に増加した。

 

 これらは納税者の負担増となる見直しだが、与党内では相続税負担を軽減する見直し案も出ている。有効な遺言に基づいて相続された遺産について、基礎控除に数百万円を上乗せできる「遺言控除」は、昨年の税制改正に伴う議論で浮上し、反論も出なかったものの最終的には16年度税制改正大綱には盛り込まれなかった。

 

 大綱から外された理由は不明ではあるものの、遺言作成によって「争族」トラブルの防止を見込めることや、遺言書で財産移転を子らにほのめかすことによって在宅介護の増進にもつながることなどから、「遺言控除」が17年度以降の税制改正のメニューに並ぶ可能性は高い。

 

「法定相続情報証明制度」で手続きの煩雑さ解消へ

 さらに相続の手続き面でも再整備が進みつつある。法務省は相続にかかる手続きの煩雑さを解消する「法定相続情報証明制度」を17年から開始すると7月5日に発表した。現在は親や配偶者が死亡したときには、相続人は不動産登記の変更や相続税の申告、銀行口座の解約などのため、大量の戸籍書類一式をそろえて、相続対象となる不動産を管轄する各自治体の法務局や預金などのある金融機関ごとに提出しなければならない。また提出を受けた法務局や金融機関も、申請者が正当な相続人かどうかを審査することが求められている。

 

 新制度では、相続人全員分の本籍、住所、生年月日、続柄、法定相続分などの情報をそろえて一度法務局に提出すれば、法務局が公的な証明書を発行し、以後はその写しを金融機関などに提出すれば事足りるという。

 

 相続不動産が各地に点在しているようなケースでは、煩雑な手続きがハードルとなって資産価値の低い土地の名義人を変えないままにしていることが多く、山間部などで宅地造成する際に買収が進まない例があった。政府としては手続きを簡素化することで円滑な登記変更を促し、有効な土地活用にもつなげたい狙いだ。

 

 遺産分割、税制、事務手続と、さまざまな面で相続はこの数年間で大きく変わる可能性がある。制度が変わるということは、相続対策のポイントや、引いては相続のあり方、家族のライフプランにも大きな影響があるということだ。

 

 すでに相続対策を行っているという人は制度変更に合わせた再チェックを、まだ準備できていないという人はこれを機にしっかりとした相続対策を進め、ぜひ自分や家族の幸せにつなげていきたい。

(2016/09/06更新)