遺骨の埋葬にあたり、特定の墓石を持たない「樹木葬」を選ぶ人の割合が全体の4割を超え、長年トップだった一般墓の購入との順位が逆転したという結果を民間の調査会社が発表した。ライフスタイルの多様化により、従来の「お墓」の形にこだわらない世代が増えているという。かつて、成功者にとっては生前に立派な墓を建てることが一種のステータスであり、また節税策として子や孫のためにもなるとされてきたが、今後は相続財産の形として一考の余地がありそうだ。
終活関連企業「鎌倉新書」が運営するお墓の総合情報サイト「いいお墓」が2020年2月に実施したインターネット調査によると、購入したお墓の種類では「樹木葬」の割合が41・5%に伸び、調査開始以来トップであった「一般墓」を初めて上回った。2年前の調査と比較すると樹木葬は1・6倍に増え、一方で一般墓の割合はほぼ半分にまで落ち込んでいる(グラフ)。
樹木葬とは、霊園などにある樹木を墓標として、その周辺に遺骨を埋葬する方法で、一般墓のように家ごとの墓石を持たない。多くの霊園では永代供養料として埋葬時に一定の金額を納めれば、その後は管理費などを支払うことはないシステムがとられている。代々にわたって承継する必要がないため相続にあたって誰が〝墓守〟となるかで相続人がもめる心配もなく、また管理費などが発生しないこともメリットとされる。
特定の墓石を持たずランニングコストがかからないという面では、ひとつの大きなスペースにまとめて安置する「集合墓」や、骨壺のまま専用の置き場に収納する「納骨堂」への埋葬も永代供養のジャンルに分類でき、やはり一定の層の支持を得るようになっている。一般に集合墓は永年安置だが、納骨堂の場合は「3回忌」「13回忌」「33回忌」など期間が定められていることも多く、費用もプランに応じて支払うことになる。
一方、これら永代供養に対して、一般墓は寺院などに墓地の「永代使用料」として費用を支払い、その上に自腹で墓石を建立するものを指す。土地賃料、墓石代、管理料に加え、大抵は檀家としての諸費用がかかり、総額は立地にもよるが永代供養に比べて2~3倍は必要になる。先祖代々の墓として一族の絆を深めるメリットもあるが、管理していくにあたっては面倒な点も多く、近年では避けられる傾向にある。
今回のアンケート結果で注目したいのは永代供養を選択した理由で、1位は「子どもに迷惑をかけたくないから」(50・7%)で、2位の「承継者がいないから」(40・5%)、3位の「比較的リーズナブルだから」(33・8%)を上回った。子どもの有無や費用面以上に、自身の気持ちが理由となっている。「子どもに迷惑をかけたくない」とは、言い換えれば、その人自身が墓を引き継ぐことを「迷惑」と受け取っているからにほかならない。
これまで墓は、それなりの家柄を象徴する面もあり、「立派な墓を残す」ということは、ある意味で成功者のステータスでもあった。だが、立派な墓の継承を重荷に感じる世代が増えてきたことで、今後は財産としての墓の存在価値にも変化が出てきそうだ。
また、生前に立派なお墓を建立することは、富裕層の間では効果的な節税策として重宝されてきた。死んだ人が生前に建てていたお墓は相続のうえで「祭祀財産」として非課税財産となり、課税対象となる資産の額を減らすことができるためだ。お墓のほかに位牌や仏壇、仏具、神棚、さらに先祖代々の家系図なども祭祀財産に含まれ、幅広く認められている。なお、祭祀財産であっても支払いが当人の死後になっては非課税財産とはならないため、ローンなどで購入した場合は注意が必要だ。
相続税対策の有効な手法として活用されてきたお墓の建立だが、お墓自体を相続人が「お荷物」と感じるようなら、いかに相続税が減額できてもありがたいとは思われないだろう。
資産税を専門とする大手税理士法人タクトコンサルティング顧問の本郷尚氏は「どんなに立派なお墓を残しても相続人にとってはただの金食い虫であることは少なくない。そして相続人が80歳になったときに引き継ぐ者がいなければ、もはや撤去も墓じまいもできない」と、相続の現場で起きている実情を語る。
生前に立派なお墓を残すことで相続財産を圧縮できたとしても、相続人がお墓に大きな存在意義を感じていなければ、一生にわたって維持費がかかるだけのものとなる。それなら多少の税金を払ってでも現金で残してくれたほうがありがたいということだ。
「子どもたちのため」という理由での立派なお墓の建立は、ややもすると墓守の押し付け合いから、かえって〝争族〟の種にもなりかねない。生前によくよく検討する必要があるだろう。
最近は、樹木葬のほか、海洋散骨や宇宙葬まで様々な種類の埋葬方法があり多様性に富んでいる。ペットと同じ墓に入りたいという人は63%に上り、実際に同じお墓に眠る人も36%存在するという。アンケートを担当した鎌倉新書の古屋真音氏は「自分の死についてタブー視せず自由に考えるようになっているのではないか」と話す。
死や墓について多くの人が「自分らしさ」を求めるようになっている。相続財産としてのお墓のあり方についても家族で見つめ直す時期に来ているのかもしれない。
(2021/01/06更新)