不動産の譲渡で得た所得の年間合計額が、リーマン・ショック直後の2009年を底に8年連続で増加していることが分かった。地価の上昇とともに土地を売却する人が増えたことが譲渡所得の増加に結びついているようだ。右肩上がりの地価だが、五輪景気の終焉や生産緑地にまつわる「2022年問題」によって数年後には下降に向かうという見方もあり、「今が売り時」と見る地主が増えれば、さらに売買は活発化する。不動産の売買を検討する際は譲渡所得税の要点を押さえておくことが必須だ。
土地や建物などの不動産を売却すると、その収入から取得と譲渡に掛かった費用を差し引いた「譲渡所得」に税金がかかる。譲渡所得は財産の所有期間に応じて2通りの税率が適用され、1月1日時点で所有期間が5年を超えている不動産の売却(長期譲渡)であれば15%、5年以内の売却(短期譲渡)なら30%と、2倍の差がある。
譲渡所得が1千万円なら所得税だけで150万円、さらに復興特別所得税と住民税を加えると合計で約190万円もの違いが出る。税金だけを考えれば、そう遠くないうちに所有期間が5年超となる不動産は、長期譲渡の税率を適用できる時期まで売却を先延ばしにした方が、不動産にかかる固定資産税の支払いを続けてでも負担が少なくて済むことになる。
長期譲渡と短期譲渡のどちらに該当するかにかかわらず、自分が住んでいる家の売却であれば、譲渡所得から3千万円を控除できる特例を利用できる。
特例は原則として現に住んでいる家屋が対象だが、売却時点で空き家でも、過去に所有者として住んでいて、かつ居住しなくなってから3年経った時点の年末までに売れば適用できる。また、転勤や転地療養で所有者がマイホームから離れていても、売却の直前まで配偶者や子がその家に住んでいれば適用が可能だ。例えば地方から東京に転勤で単身赴任している人が、東京での生活が落ち着いてから地方の妻子を呼び寄せ、地方のマイホームを売却するケースでは控除を受けられる。
特別控除の対象は居住用の家屋に限られるため、店舗併設の住まいの売却では店舗部分の譲渡収入は控除の対象にならない。ただし住まいとして使っていた部分が建物の9割以上を占めれば、全体を「マイホーム」として特例を適用できる。
なお所有期間が10年を超えていたのであれば、売却益のうち6千万円以下の部分の所得税率は、長期譲渡所得の15%よりさらに低い10%を適用できる。
土地の取得時期によって税優遇を受けられる制度もある。2009年もしくは10年に取得した土地が対象で、売却時に譲渡所得から1千万円を特別控除できる。
ただし、その土地が親子や夫婦などの身近な間柄の人から取得したものだと適用できない。ここでいう身近な間柄には、生計を一緒にする親族のほか、内縁関係にある人や同族会社も含まれる。
なお、この特別控除は土地だけを対象にした制度で建物の売却益には適用できない。また、マイホームの売却時に譲渡所得から3千万円を控除できる前述の特例との併用はできない。
居住用財産の買い換えで、元の家の売却額より新たな家の購入額が高いときは、売却益にかかる譲渡所得税の納税時期を将来に先延ばしできる特例の対象になる。
1千万円で購入したマイホームを5千万円で売却し、7千万円のマイホームに買い換えたとすると、通常なら4千万円の譲渡益が課税対象となるが、特例では売却した年には課税されず、買い換えたマイホームを将来譲渡するときまで課税時期が持ち越される。買い換えたマイホームを例えば将来8千万円で売却すると、売却価格8千万円と購入価格7千万円との差額である1千万円の譲渡益に、繰り延べていた4千万円の譲渡益を加えた5千万円が、譲渡益課税の対象になる。あくまで「繰り延べ」であって非課税というわけではないが、目先の持ち出しがなくなるため買い替え時には利用されている。
この特例の対象となる物件は、売却代金が1億円以下で、買い替える建物の床面積が50㎡以上、土地の面積が500㎡以下となっている。他にも適用条件として、居住期間10年以上、所有期間10 年超のマイホームであること、マイホームの3千万円控除を適用していないことなどが設けられている。なお、事業用資産の買い替えにも類似の税優遇制度がある。
相続した土地の売却にも税優遇がある。土地を相続した直後に売却すると、相続税と譲渡所得税がダブルで課税されるのが原則だが、相続税を納めたばかりの納税者が譲渡所得税も負担するのは酷ということで特例が設けられている。特例では、譲渡所得を計算する際に、納付した相続税額のうち譲渡した土地の分の相続税額を差し引くことができる。相続開始の日から3年10カ月以内に譲渡すると適用される。
(2018/07/09更新)