1年間に支払った保険料や医療費を少しでも取り戻すためには、各種控除の適用が欠かせない。なかでも保険料控除などは年末調整で手続きが完結するが、医療費控除は確定申告のやり方次第で控除額が変わるものもあり、なるべく〝賢く〞利用したいところだ。手続き面で大きく変わった部分もあるため、領収書をまとめて整理する年末に向けた注意点や、得をするためのポイントを押さえておく。
「そもそも家族全員の医療費を合計しても10万円に達していないから医療費控除は関係ない」
そう考えている人は、もしかしたら確定申告で受けられる優遇を受けずに、損をしている可能性がある。
医療費控除という制度は、「医療費が年間10万円を超えた時に超過部分を所得から差し引ける」と説明されることが多い。しかし、これは厳密に言えば正確ではない。控除を受けるための要件には例外があり、その年の総所得金額が200万円未満の人が医療費控除を適用する時は、10万円ではなく「総所得金額の5%」が適用下限額となる。
医療費控除の要件には、「自分と、生計を一にする配偶者や親族」の医療費が対象になるとある。つまり共働き家庭であれば、夫と妻のどちらが医療費控除を適用してもいいわけだ。ここで先ほどの例外要件を当てはめると、夫妻のどちらかが所得200万円(年収約300万円)未満なら、医療費が10万円を超えていなくても控除されるケースがある。
また、10万円を超えていても年収が低い方が医療費控除を申告すれば得をする可能性があるわけだ。もちろん所得に応じて税率も変わってくるためシミュレーションは必要だが、検討の価値はあるだろう。
医療費控除は前述のとおり、病気やけがの治療にかかった費用が1年間で一定額を超えたときに、超過分を所得から差し引ける制度だ。限られた一部の市販薬の購入費のみを控除対象とする「セルフメディケーション税制」との選択適用となっていて、医療費控除はより幅広い治療費全般が対象となっている点に特徴がある。差し引ける上限は200万円で、今年大きな病気やけがをしたという人は医療費控除の適用をまず検討することになるだろう。
医療費控除を巡る近年の変化としては、手続き面で大きな見直しが施されている点が挙げられる。昨年からは、これまで添付が義務とされてきた領収書の提出に代えて、新たに「医療費控除の明細書」に1年間でかかった医療費などを記入して提出する仕組みが導入された。
医療を受けた人の氏名や支払先、医療費の区分や金額などの細かい記載が求められ、さらに提出不要となった領収書を自宅で5年間保存することが義務付けられている。納税者の負担がこれまでに比べて減ったとはいえないこの見直しは、従来の制度と併存する3年間の経過措置を経て、2020年度からは完全義務化されることが決まっている。
医療費控除を受けるにあたって最も悩むことの多いテーマは、「どこまでが控除対象となる費用か」という部分だろう。例えばダイエットのためのサプリメント商品や民間療法による治療行為は、原則的に医療費控除の対象外だ。
総じて「医師の指示のもとで治療のために必要となった支出」は控除対象となるが、限りなく治療に近いようなものが対象にならなかったり、逆に治療とは直接関係ないように思える支出が対象となったりすることもある。判断の難しいものであっても最初からあきらめずに、税務署に確認するようにしたい。
なかには、控除対象にはならないものの、やり方を変えることで損をしない支出もある。その代表的な例が、これからの季節に欠かせないインフルエンザの予防接種だ。
インフルエンザに限らず、予防接種は「治療」ではなく、あくまで「予防」であるため、免疫が低くなる病気を患っている人などを除き、医療費控除の対象とはならない。個人で受けることを考えているなら、各種健保組合や自治体などから補助が出ることも多いので、それらをうまく活用すべきだろう。
経営者の視点から見ると、従業員にインフルエンザの予防接種を受けさせて費用を会社が負担すると、全額を福利厚生費として損金で落とせる。もちろん従業員には経営者自身も含まれるが、役員だけ予防接種を会社で受けさせるようなケースでは、給与として課税されてしまう。従業員の間でインフルエンザが流行すると業務が停滞してしまうのだから、役職にかかわらず、全従業員に予防接種を受けさせて損金にすることを検討したいところだ。
高齢化が進むなかで、家族の介護をお手伝いさんに頼むことも増えている。医療費というと「非常時の出費」と考えてしまい、恒常的にお願いするお手伝いさんへの出費を含めていいか迷うかもしれないが、介護費用は原則として医療費控除の対象になる。
ただし注意したいのは、「入院していて家に手が回らないから」などの理由で、自宅の掃除を頼んだり子どもの送り迎えを任せたりすると、その費用は控除の対象外となってしまう点だ。医療費控除が適用されるのは、あくまで療養のための世話のみで、たとえ病気が影響していたとしても家事代行は療養の世話ではないと判断される。またプロの家政婦を雇うほどではないとして親族に入院中の世話を頼むこともよくあるが、その親族への謝礼金も医療費控除の対象とはならないので気を付けたい。
(2018/12/06更新)