新型コロナウイルスの感染拡大によって人々の行動様式が大きく変わりつつある。商品やサービスに対するニーズが変化するなかで、そのニーズをいち早くつかめれば、コロナ禍を成長のまたとない機会とすることも可能だろう。新事業を始めるためには設備投資が必要になることも多いが、その際には取得設備にかかる償却資産税を3年間で最大全額免除できる特例を活用して負担を抑えたい。
事業に利用される機械装置、乗り物、備品などは、収益を上げる能力がある資産として固定資産税が毎年課される。固定資産税といっても土地や家屋に課されるものとは要件などが異なるため、こうした機械装置などにかかる税については固定資産税のなかでも特に「償却資産税」と呼び分けることが多い。
2018年に施行された生産性向上特別措置法では、この償却資産税に税優遇が設けられた。生産性向上などの要件を満たす設備投資について、その設備にかかる償却資産税を3年間で最大全額免除するというもので、法人税の優遇とは異なり、赤字企業でも恩恵をフルに受けられる嬉しい制度だ。
新型コロナウイルスの感染拡大によって、人々の行動様式が大きく変わるなかで、これまでと同じサービスや商品では昨年までのような売上を見込めなくなっている。
また新型コロナでダメージを受けていない業種であっても、この社会の大変革が新たなビジネスチャンスになり得ることを感じている経営者は多いだろう。新たな事業を始める上では設備投資が欠かせないが、その際に償却資産税の特例が効果を発揮するというわけだ。
そうした新規事業に取り組もうとする事業者のニーズを受け、同特例については今年の5月、優遇内容の拡充と延長が行われた。もともとは今年中に取得した設備までが対象の時限措置だったが、これを2年間延長し、22年までに取得した設備が対象となった。
また対象となる設備は、これまでは機械装置・器具備品などに限られていたが、事業用家屋と構築物も追加されている。期間と対象が拡大されたことで、これまでは制度利用をあきらめていた事業者も、設備投資を前向きに検討することができるようになったのではないだろうか。
同特例の内容を詳しく確認しておきたい。特例の適用対象となる設備は、一定期間内に販売された新しいモデルで、労働生産性が年平均3%以上向上する機械装置(160万円以上)、測定工具および検査工具と器具備品(30万円以上)、建物附属設備(60万円以上)などとなっている。要件を満たす設備を、今年であれば12月31日までに取得すれば、来年から3年間の償却資産税について優遇を受けられる。
ただし要件に適う設備を買えばそれだけで税が軽減されるわけではない。まず、その設備が要件を満たすことを証明する必要がある。加えて、「先端設備等導入計画」を作成し、市区町村の認定を受けなければならない。
手続き全体の流れとしては、①まず取得する設備が要件を満たしているという証明書をメーカーを通じて入手、②導入計画を作成、③支援機関の確認を受け、④それらを全てそろえて自治体に計画を申請する——ことになる。そして認定が下りて、ようやく設備そのものの取得がかなうというわけだ。認定される前に設備投資をしてしまうと税優遇は受けられないので、ここだけは間違えないようにしたい。
例外として工業会の発行する証明書については年内の追加提出が認められているものの、計画書の認定と設備取得が逆になるのは認められず、必ず認定を受けてから設備を取得するという手順を踏むことが必要だ。
一連の流れは表を見れば分かるとおり、結構複雑だ。やりとりしなければならない書類は多く、またその相手も様々だ。これから年末が近づくほどに、様々な申請書類が行政機関に殺到する〝申請渋滞〞が発生し、さらに今年はコロナ禍もあり、どのようなアクシデントが起きないとも限らない。前述のとおり認定を受けなければ設備を取得することもできないため、最悪の場合、年内に認定が受けられず、設備投資計画そのものが来年に持ち越しになってしまう可能性もある。
もし税負担の軽減を織り込んだ来年の資金繰り計画などを立てているなら、持ち越しの影響は大きい。今年中に設備投資を行い、来年から税優遇を受けたいと考えるなら、すぐに準備に取り掛かるべき時期に差し掛かっていることを認識しておきたい。
(2020/10/06更新)