マイナス金利、生保各社にも波及

個人年金保険、販売停止の動き加速

加入するならラストチャンス


 マイナス金利政策の導入後、生命保険各社が「個人年金保険」の販売停止や値上げを検討している。商品の見直しの動きがささやかれており、老後の生活保障のための選択肢の幅が狭まりそうな状況だ。個人年金保険は、銀行の定期預金の利率を大きく超える〝金利〞がついた年金を受け取れるほか、保険料の支払いが所得控除の対象になるなどメリットは大きい。


 「生命保険各社は売り止めや値上げを検討しています。いまの条件で加入できるのはここ数カ月がラストチャンス」

 

 大手保険会社に所属するファイナンシャルプランナーのA氏は、個人年金商品のパンフレットを手にしながらこう語った。個人年金商品の販売見直しの動きは、マイナス金利の影響を受けたものだ。

 

 生命保険会社は将来の保険金支払いのために、受け取った保険料を「責任準備金」として留保しつつ、比較的安定性が高い国債で運用している。しかし、マイナス金利のあおりを受けて国債の金利が低下。将来的な運用益が見込みづらくなっているなか、保険会社としては貯蓄型の商品を販売して長期にわたってお金を預かり、運用にまわす〝うまみ〞が減っている。

 

 そのため、貯蓄性の高い商品である個人年金保険の販売停止や値上げを検討する動きがマイナス金利導入直後からあり、そう遠くないうちに見直される可能性が出ているのだ。

 

 販売停止や値上げの動きがある一方で、ファイナンシャルプランナーのA氏が口にするように、現行の条件で加入できるラストチャンスになる可能性もある。お得度が下がる前に、改めて制度の内容を整理しておきたい。

 

税優遇ありの元本保証商品

 個人年金保険の加入者は一時金ではなく年金としてお金を受け取るほか、死亡時には死亡給付金が支給される。

 

 国民年金や厚生年金と異なり、掛け金は基本的に自由に決められるため、将来的に千万円単位の年金を受け取れるようにも設定できる。また、年金受け取り開始期間を一定の条件下で自由に設定できることから、公的年金の老齢給付金を受け取る前の生活保障にも利用できる。

 

 受け取れる年金が支払った保険料に数%〜数十%加算した金額になる点は大きなメリットだ。

 

 日銀のマイナス金利政策の影響で銀行の定期預金は低金利化が進み、メガバンクの金利は預入期間10年でも年0・01%だ。これに対して個人年金保険は、払い込んだ保険料に20%分加算して年金として受け取れる商品もあり、貯蓄性が高い。

 

 加えて、支払保険料が生命保険料控除の対象にもなる。生命保険料控除は、一般生命保険料、介護保険料、個人年金保険料の枠のそれぞれで4万円まで、合計12万円を所得から差し引ける制度。住民税についてもそれぞれについて2万8千円まで、合計で7万円まで所得控除される。

 

 何十年にもわたって払い込む契約であれば税負担軽減額は積み上がり、決して無視できない額になる。

 

控除対象になり、税負担が軽減

 ただし、個人年金は必ずしも払い込み保険料分以上の受け取りが保証されるわけではない。個人年金の受け取り方として、5年、10年、15年などの決められた期間分を必ず受け取れるタイプ(確定年金)であれば、原則として元本割れしない。定められた期間内に死亡しても遺族が残りを受け取れる。

 

 しかし、受給開始期間から死亡するまでの間に年金を受け取るタイプ(終身年金)で、最低保証期間が設定されていない商品だと、早期に死亡すると結果的に元本割れしてしまう。

 

 また、個人年金保険は途中で解約しないことを前提に加入するものだ。仮に途中で解約すると、解約返戻金を受け取れるものの、その額は基本的に払い込み保険料を下回る。元本割れで結果的に〝損〞をしてしまうことになるので、自由に使える資金を残したうえで掛け金や払い込み期間を設定したい。

 

 なお、個人年金は必ずしも老後の生活のためだけに利用されるものではなく、子や孫の教育資金を確保するためにも活用することができる。契約者、被保険者、年金受取人を子にしたうえで、子に贈与した現金を個人年金の保険料支払いに充て、学費など教育関連の支出が必要になる時期に年金を受け取れるように設定するのも一つの方法だろう。

 

 暦年贈与は110万円まで非課税になるため、払い込み保険料をその範囲内にすれば、贈与の問題は生じない。子や孫の名義の銀行口座に預金しておくのと比べ、受け取れる金額が多くなるというメリットがある。

 

 株式市場が不安定な状況では、NISA(ニーサ)などによる投資で資金を確保するのも容易ではない。加えて公的年金制度の保障では十分とは言えない。経営者は経営基盤を強固なものにするのと同時に、個人の財産を少しでも残すため、個人年金やそのほかの生命保険商品の活用、不動産の運用などさまざまな手段を講じなければならない。

(2016/08/01更新)