自宅や店舗がある土地にかかる相続税を最大8割減らせる「小規模宅地の特例」の適用条件が厳しくなりそうだ。会計検査院はこのほど、特例が本来の趣旨に沿わないかたちで利用されていることを指摘し、国に制度の見直しを求めた。また税制改正に向けて政府は、検査院とは別の観点から特例の趣旨に沿わないスキームを封じることを検討している。高額な財産である不動産にかかる税負担は重く、また不動産のままでは原則的に納税できない以上、不動産相続の負担を軽減する何らかの施策は不可欠だ。そうであるにもかかわらず、頼みの綱である小規模宅地の特例が今後は簡単に使えなくなるおそれがある。現行制度で認められている方法を確認するとともに、財産の承継計画を見直す必要がありそうだ。
会計検査院がこのほど公表した資料には、小規模宅地の特例を利用して税負担を大幅に減らした相続人の事例が紹介されている。Aさんは不動産貸付業に使われていた約200㎡の土地の半分を相続。受け取った土地の本来の課税価格は5159万9600円だったが、特例を利用して半額の2579万9800円に減らし、その土地にかかる相続税額を大幅に圧縮した。そしてAさんは、申告期限の1カ月半後に土地を6450万円で売却した。
Aさんの一連の行為は現行制度の枠内で行われているものだが、会計検査院は「問題あり」という判断を下している。Aさんの利用法は制度の本来の趣旨にそぐわないと見ているためだ。
小規模宅地の特例は、一定規模以下の宅地にかかる相続税評価額を引き下げる制度。被相続人が住んでいた土地なら330㎡までの部分の課税価格が8割、貸付事業に使っていた土地なら200㎡までの価格が5割、それ以外の事業のための土地なら400㎡までの価格が8割引き下がる。
その趣旨は、居住用または事業用の建物がある土地に重い税金をかけられてしまうと、納税資金を確保するためにその不動産の売却を迫られ、生活や事業を営む場所から離れることを余儀なくされるおそれがあるので、税負担を軽減するというものだ。
検査院が特に問題視したのは、不動産貸付業に使われていた土地を相続して特例を利用した人が、その事業を短期で終えてしまっている点だ。検査院は、相続した土地と建物を申告期限から3年以内に譲渡した際の譲渡所得税が軽減される特別措置を利用した人を抽出調査。小規模宅地の特例が適用された物件の7割にも上る177物件が不動産貸付業用の土地であり、そのうち110物件が、冒頭のAさんの土地のように申告期限から1年以内に売却されていたという。宅地を手放さずに済むようにする目的の特例が、相続後すぐに売却した人に適用されていることを検査院は問題と見ている。
検査院の指摘は国の施策に多大な影響を与える。これまでどおりの制度内容だと趣旨にそぐわないケースでも使われてしまうため、相続後に不動産貸付業を何年か続けなければならないといった適用条件が新たに付け加えられる可能性は十分ある。
小規模宅地の特例の適用条件を厳しくする動きは他にもある。一部報道によると、被相続人と別居している親族に使われていたスキームを、税制改正で今後使えないようにする見通しだという。どのようなテクニックを封じることが政府で話し合われているのかに注目が集まる。
現行制度では、配偶者以外の親族が居住用の宅地で特例を使うには、被相続人と同居しているか、別居していて3年以上借り家住まいしていることが求められる。この「借り家住まい」という条件が設けられているのは、特例が住まいを手放さずに済むようにするための救済措置であり、相続した不動産以外に持ち家がある人なら住まいを確保できるので、適用対象にする必要はないという考えが根本にある。
しかしこの縛りには抜け道がある。自分の持ち家を親族に譲ってそこに住めば、借り家住まいとみなされ、被相続人から宅地を相続する時に特例を適用できるのだ。
今後はこのスキームにメスが入り、相続開始時に住んでいる家が元々自分のものであったり、3親等以内の親族の家に居住していたりすると、税務上は「持ち家あり」とみなされ、特例が使えなくなる見込みだ。
相続税の負担軽減策として小規模宅地の特例は頼みの綱でもあるのに、利用のための間口を狭める方向で国が動いている。今回表面化した見直し以外にも今後メスが入るおそれはある。相続税の負担はますます重くなるとの前提に立ち対策を講じる必要がありそうだ。
(2018/01/04更新)