毎年1千億円超発生

休眠預金がブラックボックスへ

民間への流用可能に


 預金者本人と連絡が取れなくなって10年以上が経つ「休眠預金」が、毎年1千億円超のペースで発生していることが分かった。本人などからの払い戻し請求に応じた額を除いても年間700億円以上が新たに発生しているという。休眠預金については昨年12月の法改正を受けて、2019年から福祉や地方活性化などに流用していくことが決まっているが、その使途や選定の基準にはあいまいな点が多く残されたままだ。


 東京商工リサーチはこのほど、銀行が休眠預金の払い戻し請求に対応するために計上する「睡眠預金払戻損失引当金」の額を調査し、発表した。同引当金は、過去の払戻実績などに基づいて、金融機関の負債の一部として会計処理されるものだ。

 

 それによると、107金融機関の2017年3月期決算時点での「睡眠預金払戻損失引当金」の総額は、前年同期から3・4%増えて951億4800万円だった。ただしこの結果には、決算書の科目に同引当金の項目がない三菱東京UFJ銀行や、りそな銀行などの大手行のものが含まれていないため、実際に積み上がった国内金融機関の休眠預金の額が1千億円を軽く超えたものであることは確実と言えるだろう。

 

 引当金を計上した金融機関のうち、最多はみずほ銀行の175億7500万円で、次いで三井住友銀行の136億200万円が続いた。107金融機関の総預金金額に占める引当金の比率は0・02%だった。

 

 金融庁によれば、休眠預金の発生額は14年3月期で1187億円(うち払戻460億円)、15年3月期で1278億円(同518億円)、16年3月期で1308億円(同565億円)と、徐々に増加していることが分かる。

 

 昨年12月に「民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律」が成立したことで、休眠預金は、福祉・健康増進・地方活性化などの社会的事業への活用が可能となっている。実際に休眠預金が助成されるのは19年秋頃となる見通しだ。

 

交付業務は独占状態に

 休眠預金の民間活用をめぐっては、東日本大震災の復興資金としての利用が模索されたことをきっかけに議論がスタートし、塩崎恭久前厚労相や菅義偉官房長官などが顔を並べた超党派の議連などの後押しを受け、法成立へ至った経緯がある。莫大な休眠預金を寝かせておくのはお金のムダであるのと同時に、その管理コストが金融機関の経営を圧迫しているというのがその理由とされた。

 

 休眠預金の福祉や教育分野への利活用は、海外ではすでに複数の国で行われている取り組みで、日本の制度もそれらの先行モデルが参考にされた。英国では預けられて15年を経過した休眠預金を管理する専門の基金があり、社会事業への貸し付けを行うことを事業内容としている。また韓国では08年に「休眠口座管理財団」が設立され、福祉事業者への無利子融資を行って弱者救済に休眠預金を活用する取り組みが開始された。

 

 とはいえ本来個人の財産である預金を国の旗振りのもとで流用するだけに、その枠組には厳格なルールが必要とされる。しかし現状では、配分額や交付団体の選定にかかる透明性の確保がなされていないなどの点から、特定団体への利益誘導の材料になるのではとの見方が消えていない。

 

 議連が発表した休眠預金活用の仕組みでは、金融機関が現在管理している休眠口座を政府や日銀が出資する預金保険機構に移管し、それを休眠預金の分配や分配にかかる事業計画を策定する「指定活用団体」へ交付。この「指定活用団体」が実際に休眠預金をNPOに渡す「資金分配団体」を選び、実際に資金が渡るという仕組みだ。またどのように事業計画が立てられ、実際に運営されているかを内閣府に設置された「休眠預金等活用審議会」が監督する。

 

 懸念されているのは、休眠預金の配分や団体の選定を行う「指定活用団体」の透明性の確保だ。どういう基準で配分先の団体が選ばれ、その活動や財務状況の信頼性をどのように担保するのかが、成立した法案だけでは判然としない。

 

 またこれだけ公益的な活動を行うにもかかわらず、「指定活用団体」が一般財団法人であることも憶測を呼んでいる。活動内容を監督官庁に厳しく監視される公益法人と異なり、一般財団法人は規制が少なく、行政庁の監督もない。

 

特定団体への利益誘導懸念

 さらに内閣府は、法案にあるように「全国に一を限って、指定活用団体として指定する」方針で、ただ一つの組織を休眠預金の交付団体として指定するようだ。いわばJT(日本たばこ産業)と同様、公的な業務独占状態となるわけで、新たな天下り先となる懸念が現状では拭えない。

 

 怪しいのは指定活用団体だけではない。その活用団体を監督する、内閣府に置かれる「審議会」についても、同様に中身がはっきりしない。審議会の委員についてはすでに10人の委員が選任されているが、選任の理由などは特に示されず、さらに委員会が実施する各業界へのヒアリングについても「分野のバランス等を考慮しつつ選定を会長に一任した」としか説明されていない。

 

 NPOの関係者や、特定の利益誘導を目的とした人間が入ることを排除する仕組みなども現時点では用意されていないようで、最悪の場合、政治との癒着の温床となる可能性もある。

 

 海外の休眠預金活用では、国民の財産を預かって使うという観点から、透明性を確保するために非常に厳格な仕組みが構築されている。英国では通常の企業のような決算報告書に加えて、実際に社会にどれだけ貢献したかを数値化した「社会的投資収益率」という指標を用いることで事業の実効性を高めている。国民の私有財産を国が有効に使うことで福祉の充実や弱者の救済につながると言うのであれば、説明責任が十分に果たされるべきだろう。

(2016/10/06更新)