休業手当を国が支援する雇用調整助成金の評判がすこぶる悪い。事業者からは「制度が複雑すぎる」「申請書類を揃えるのが大変」「問い合わせをしても電話が繋がらない」「窓口に相談に行っても長時間待たされる」「申請してもほとんど支給されない」といった、悲鳴ともとれる声が聞かれる。6月15日時点で申請は17万4376件、支給決定は10万3211件にとどまっている。
新型コロナウイルスが引き金となった経営破綻は月を追うごとに増えている。東京商工リサーチによると、2月は2件、3月は23件だったが4月は84件に急増し、5月15日時点での破綻件数は150件に達した。補償がないなかでの自粛要請により、手持ち資金が少ない中小事業者の資金繰りが厳しくなるのは当然で、従業員の雇用は瀬戸際に立たされている。
業績が悪化した事業者にとって、休業手当の一部が助成される雇用調整助成金は渡りに船といえる制度だ。新型コロナの影響で売り上げが減少した事業者が労働者をひとりも解雇しなければ、休業手当、賃金などの一部を助成される。政府は感染拡大を受け、支給対象を雇用保険に加入していないパートにも拡大し、助成率を引き上げた。上限額の引き上げもなされている。
しかし、積極的に利用したい事業者が多い反面、支給決定数は予想以上に少ない。都内の社会保険労務士の一人は「支給決定した事業者がこれほど少ないのは、労働局に相談したはいいが、申請にさえたどり着けない事業者があまりにも多いからだ」と話す。
申請には、驚くほどの事務の煩わしさがあるのだ。4月末の時点で、全国で20万件を超える相談があり、申請に必要な休業計画の提出は4月24日までに2万件を超えていたが、うち支給が決定したのは282件にすぎなかったというから驚くしかない。
スポット社労士くん社会保険労務士法人(東京・千代田区、関根光代表)は、雇用調整助成金を申請したい中小事業者を対象にアンケートを実施し、516社から回答を得た。
雇用調整助成金の申請に必要な書類のうち分かりにくいのは「休業協定書(34・6%)」で、次いで「労働条件通知書(26・2%)」、「売上が分かる書類(16・8%)」の順だった。
多くの批判を受け、厚労省は70以上あった記載事項を半減したうえ、小規模企業には助成額を算定する際の平均賃金の計算を免除し、実際に支払った休業手当で済ませられるようにした。おおむね従業員20人以下の事業者が対象になるという。
また一定規模以上の事業者でも申請手続きのルールを緩和。1人当たりの平均賃金を計算する際に、源泉所得税の納付書の代用を認めるようになり、さらに休業手当の計算に必要な所定労働日数は、休業実施前の任意の1カ月をもとに算定できるようになった。
昨年までも中小・零細企業への支援策として「キャリアアップ助成金」や「両立支援助成金」などの利用を厚労省は促していたが、用意する書類が多く手続きが煩雑で、申請してから入金まで1年以上かかるケースも稀ではない。
時間がかかるのは不正受給への対策を厳格にしているためだ。だが、不正対策を行うにしても、書類の簡素化に加えて、助成金の支給要件については再検討すべきところだろう。
また、近年の公務員削減によって対応する人数が十分でないことを大きな原因として挙げる社労士もいる。現に、不明点を確認しようとハローワークなどの助成金申請の窓口に連絡しても電話が繋がらないことは多い。
なお、支給要件には「生産量要件」というものがあり、最近1カ月の「売上」(生産量・販売量)が前年同月と比べて5%以上減少していることが必要となる。この要件は利益ではなく、あくまで「売上」となっている。
つまり、増収減益の事業者は、この助成金の対象外となってしまう。要件が「売上」だけだとこの1年で雇用を拡大してきた事業者ほど不利になり、助成金が支給されないという状況になりかねない。「売上」要件はすぐにでも改善すべき点だろう。
多くの事業者から求められていたオンライン申請が5月20日にスタートした。一歩前進といいたいが、開始早々、申請したひとの個人情報が流出する事態となり、21日には早くも一時的にストップした。
国の要請に応じる形で事業規模を縮小しているにもかかわらず休業補償や所得補償がまともに整備されていない。それでも中小事業者は耐えている。一刻も早く、雇用を維持するために欠かせない雇用調整助成金が給付されなければならない。
(2020/07/06更新)