中小企業向けも意外とあるぞ!

助成金を上手に活用したい


 助成金や補助金というと、つい租税特別措置と同様に大企業向けのものといったイメージを抱きやすいが、調べてみると中小向けの制度も意外とある。税制も各種優遇策も中小企業に冷たい世の中にあって、使える制度は遠慮なく使いたい。だが同時に、目先の給付金が後々になって企業の発展の足かせになってしまうこともある。まずは制度の全体をつかみ、各種の助成金を冷静に判断できる目を養いたい。


 スーパーコンピューターの開発会社「ペジーコンピューティング(ペジコン)」の齊藤元章社長が助成金詐欺の疑いで東京地検特捜部に逮捕された。水増し請求によって約5億円を不正に受け取っていたという。経営陣が現政権に近い関係であったようで、モリカケ問題に続く新たな政治スキャンダルに発展する可能性も指摘されている。

 

 助成金は融資とは異なり、返済義務がない完全な「もらい金」だけに、経営者にとってはなんともありがたい存在だ。それだけに不正受給を目論む輩が後を絶たず、また政策的な思惑から政官財の癒着が生まれる可能性も否定できない。

 

 そもそも国の助成金は法的には補助金適正化法に定める「補助金」の一部とされ、地方公共団体からの交付金は地方自治法に則っている。一般に「助成金」は要件さえ満たせば原則的に誰でも受け取ることができるのに対し、「補助金」は申請しても審査ではじかれることがある点が両者の違いといわれる。また、助成金は厚生労働省の管轄に多く、補助金は中小企業庁によく見られると言われることもあるが、こうした違いについて明確な垣根はないため、申請にあたっては名称や支給元だけで判断せず、制度ごとにしっかり確認する必要がある。

 

受給のための組織変更は慎重に

 支給にあたっては、助成金も補助金も多くの場合で「後もらい」になる点は覚えておきたい。有期雇用の高年齢者を無期雇用に転換することで得られる助成金も、助成を受けた金額をもって有期雇用となった社員に給料を払うのではなく、あくまでも有期雇用にして半年にわたって給料を払った会社が支給を受けられる制度だ。同様に「ものづくり補助金」では、受け取った補助金を設備購入の資金に充てることはできず、自社の財布で買ったものに対して、後になって一部を負担してくれるという仕組みだ。

 

 そして助成金も補助金もその多くが返済不要であるだけに、使途は厳格に定められ、途中で決まりを変更することはできない。そのため、助成を受けることができても、そのために行った組織体制の変更が後々になって足かせになることもある。

 

 実際に多いのは、高齢者雇用継続に関する助成を受けるために定年制を撤廃したようなケースだ。定年した者を再雇用したのであれば賃金は現役より目減りした額にもできるが、正社員の状態が延々と続いていれば、一方的な賃下げは労働者にとって不利益変更にあたるためできない。姉妹紙『納税通信』で「ホンマのつぶやき」を連載する社会保険労務士の本間邦弘氏は「雇用や賃金に関する変更は簡単には元に戻せません。目先の助成も魅力でしょうが、申請にあたっては条件となる社内体制を維持できるかどうかを冷静に考えてもらいたい」と指摘する。

 

 助成金の支給を受けた企業には定期的な報告義務が生じ、また支給した自治体等からは必ず調査が入ることになる。そこで支給の条件を外れているときや、支給要件に該当しなくなっていれば、交付した金額の返済を命じられるのだが、ペナルティーはそれにとどまらない。悪質と判断されれば3年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金、またはその両方を受けることが助成金適正化法で定められている。さらに以降3年間は助成金の利用ができなくなり、また事業所名が公表されるため、社の看板も大いに傷つくことになる。

 

 中小企業が受けられる助成金の多くは労働局が窓口となっているのが現実だろう。近年、偽装請負や労働者派遣法違反、また助成金の不正受給の摘発などで大忙しの役所だ。さらに活気付かせる対象とならないためにも、おいしい制度の裏にあるリスクヘッジは慎重に行いたい。

 

 なお、労働局とは各都道府県に設置されている厚生労働省の地方支分局のひとつで、東京労働局、大阪労働局などの名称から自治体の機関と誤解されることがあるが、あくまでも国の出先機関である。労働基準監督署やハローワークは労働局の下部組織だ。

 

積極的に取りにいく

 冒頭のペジコン社の問題をはじめ、助成金についてはとかく悪評が先行するこの頃だが、それでも使える制度は積極的に取りにいきたい。国や自治体の制度は、手続きが厳格な反面、予算を投じているだけに「使ってくれなければ困る」という事情もある。

 

 都内のあるNPO代表は本紙に「新しい制度ができると、区から『申請してほしい』とこっそり連絡が入るときがある」と暴露してくれた。行政としては、予算化したものの助成対象ゼロでは議会で吊し上げられかねず、かといって申請に不慣れな者からのいい加減な書類を通すわけにはいかないため、どうしても「慣れた人」に頼ってしまうそうだ。これは「素人には手が出せない」ということではなく、「きちんとやればチャンスは転がっている」ということを意味する。

 

 『納税通信』で助成金の連載を執筆する社労士の大畑美栄子氏は「過去6カ月の解雇要件に引っかかってしまってハローワークの助成金を諦めざるを得なかったとき、東京都の類似の制度を活用できたこともあった。調べることと諦めないことで道は開けます」とアドバイスを送る。助成金情報は社労士などの専門家に加え、誰でも簡単に検索できるウェブサイトも増えている。予算と期間に限りがあるので、常にアンテナを張っていることが重要だ。慎重かつ粘り強く取り組みたい。

(2018/01/31更新)