中小事業者も適用に

働き方改革関連法


 時間外労働の上限規制が4月から中小事業者にも適用された。大手企業を対象とした「働き方改革関連法」が施行されて以降、中小の現場からは「無理な発注が増えた」(都内の製造業)という声も聞かれるようになっているなか、中小事業者はさらに業務・労務の両面で効率化が求められることになりそうだ。新型コロナウイルスの被害防止の観点から多様な働かせ方を検討しつつ、働き方改革関連法に基づいた新しいルールを見落とさないようにしたい。


2019年4月施行

 2018年6月に成立した働き方改革関連法は、労働基準法やパートタイム・有期雇用労働法など労働関連8法を改正する法律で、それぞれ2019年4月より施行されている。中小事業者への適用時期をベースに主な項目を確認してみる。

 

1、年5日の有給休暇取得の義務化

 年間10日以上の年次有給休暇のある従業員には、1年のうち5日の有給を取得させなくてはならない制度がすでにスタートしている。正規・非正規の立場は関係なく、事業の規模を問わず全業種で実施している。たとえ従業員が「休みたくない」と望んだとしても、事業者は休みを取らせるのが義務だ。「宿泊業・飲食サービス業」など有給取得率の低い業種は労基署の調査でも狙われやすい傾向にある。施行から1年となり、実績を問われる今年は、事業規模にかかわらず注意が必要だ。

 

2、勤務間インターバル制度の推進

 従業員のワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)を守るとの触れ込みで導入された制度。個々人の疲労を蓄積させないため、1日の勤務が終わって次の出勤までは少なくとも10時間以上あることが望ましいとされ、事業所内での制度化が努力義務となっている。厚労省では過労死防止の観点から今年10%以上の導入率を目標に掲げており、近い将来の義務化も視野に入れていると見られている。

 

3、産業医の機能強化

 常時50人以上の従業員のいる企業に選任が義務付けられている産業医の権限が、労働安全衛生法の改正で強化された。企業には1カ月の時間外労働および休日労働時間が80時間を超えた従業員の情報提供が義務付けられた。事業主には客観的な方法での労働時間把握義務が課される。これは管理職も対象に含まれるため、労働者の範囲を「主任以下」「リーダーは除く」などとローカルルールで決めていても逃れることはできない。

 

4、高度プロフェッショナル制度の創設

 年収1075万円以上で、一定の専門知識を持った職種の労働者を対象に、本人の同意などを条件に労働時間規制や割増賃金支払の対象外とする制度が導入された。ただ、あまりに労働者としての権利を奪われる制度ゆえか、制度が発足して1カ月での適用者は1人、3カ月でも300人程度ととにかく人気がない。

 

5、フレックスタイム制の清算期間延長

 労基法の改正により、これまで最大で1カ月だったフレックスタイムの清算期間が3カ月に延長されたことで、2カ月や3カ月単位といった長期間での労働時間の調整が可能となった。繁忙期の1カ月間に時間外労働として割増賃金が必要だった部分も3カ月後の閑散期の短縮時間にあてがうことができるようになる。

 

 

2020年4月施行

6、残業時間の上限規制

 

 中小事業者への適用が猶予されていた制度が4月にスタートした。従来、残業時間は原則月45時間かつ年360時間以内であったものの、「特別な事情」があって届け出れば実質上限なしとなっていた。これが過労死を発生させる温床との批判を受け、上限を設定した。とはいえ、これまで同様「特別な事情」があれば年720時間まで残業が認められる。年間平均労働日数を243日とすると毎日3時間程度は残業させることが可能ということだ。ただし、月に45時間以上の残業ができるのは年間6カ月が上限。違反者は6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金となる。

 

2021年4月施行

7、同一労働同一賃金の原則

 大企業は今年4月に施行。パート、契約社員、派遣社員につき、正社員と比較して「不合理」「差別的」な待遇差を設けることが禁止される。賃金制度の見直しは必須で、人件費の大幅なアップは避けられない。特にボーナスや退職金は頭の痛い課題になるだろう。解雇については非正規とはいえ簡単にできないご時世だけに、雇い入れ前の段階でシビアに調整していくしかない。

 

2023年4月施行

8、60時間超の割増賃金率50%に

 月に60時間を超えた残業時間については、割増賃金の割増率を50%以上にしなければならないという制度がいよいよ中小事業者にも適用される。そもそも時間外労働に対する賃金の割り増しは罰則的な意味合いが強く、労基署が最も目を光らせているところだ。

 

 

無関心ではいられない

 昨年12月から今年1月にかけて帝国データバンクが行った調査によると、働き方改革に取り組んでいるとする中小事業者は57%にとどまった。取り組んでいない理由は「必要性を感じない」が34・2%(複数回答)で最も多く、法改正への関心の低さがあらわになった。すでに長時間労働の上限規制の適用を受けている大企業は、中小事業者に無理な発注を押し付けることで一連の法改正を乗り切ろうとしている傾向もみられる。中小事業者の14%が「急な発注などの影響を受けている」といった調査結果もある(大同生命サーベイ)。労務対策、元請けとの関係、労基署の調査への備え等々、働き方改革への対応は待ったなしだ。中小事業者が無関心でいられる状況ではない。

(2020/05/12更新)