中小の〝大淘汰時代〟に突入

「成長戦略」は支援から育成へ


 コロナ禍にあえぐ中小事業者の資金繰りを支えてきた持続化給付金の受付が終了した。政府は事実上の後継策として事業再構築補助金を新設したものの、スピード支給を前提としてきた持続化給付金とは対照的に、実際に給付されるのは採択から原則1年後となっている。つまり補助金を受けようとする事業者には、1年間耐え抜くだけの体力が備わっていることが求められるわけだ。これは政府の方針が事業継続のための資金繰り支援から、菅首相が〝成長戦略〟として掲げる「足腰の強い中小事業者を育成する」段階にシフトしたことを示している。


 中小事業者に最大200万円、個人事業者に最大100万円を支給してきた持続化給付金の受付が終了した。約421万件、約5・5兆円を給付している。

 

 政府は持続化給付金について、あくまでも「緊急時の対応」と位置付けており、給付金の終了をもって中小事業者への〝緊急〟支援に区切りをつける考えだ。そして後継策として業態転換・事業転換などを行う事業者を支援する「事業再構築補助金」を創設した。

 

 事業再構築補助金は、業態転換などに取り組む中小事業者に対して最大1億円の補助金を支給するもの。今国会で成立した第3次補正予算に盛り込まれ、1兆1485億円もの巨額を割いて措置する一大事業だ。菅首相が〝成長戦略〟として掲げてきた「中小事業者の規模拡大を通じた生産性向上」を実現するために、事業者の〝延命〟を図る資金繰り支援から、淘汰・再編へと軸足を移したことがうかがえる内容となっている。

 

 まず、持続化給付金に比べると、採択されるためのハードルが高い。事業再構築補助金を受けるには、業態転換や事業転換を実施するための事業計画を税理士らの認定経営革新等支援機関とともに策定する必要が生じる。さらに、計画通りに支出したかどうかの経費項目が証憑によって審査される。申請書類を必要最低限に絞り、使途も自由だった持続化給付金とは勝手が違う。手続きが厳格化された背景には、持続化給付金の不正受給が多発したことへの反省もあるようだ。

 

 持続化給付金は約7割が申請から14日以内に支給されていたが、事業再構築補助金が実際に支給されるのは原則として採択から1年後となる。計画実施前に補助金が支払われる「概算払制度」が設けられる予定ではあるが、制度を利用するにはなんらかの条件が付される見込みで、やはり持続化給付金に比べると受給までの道のりは険しいと言わざるを得ない。

 

 政府はコロナ禍により重大なダメージを負った事業者には「緊急事態宣言特別枠」を設けて対応するとしているが、採択数に上限があるうえ、採択されたとしてもそのメリットは「補助率の引き上げ」にとどまる。ある中小企業診断士(大阪)は「1年間耐え切る余裕がないなら諦めろということか。資金繰りに苦しむ事業者が申請するケースは少ないだろう」と批判する。

 

体力ある事業者だけ育成

 内閣府が発表した1月の「景気ウォッチャー調査」によると、街角の景況感を示す現状判断DI(季節調整値)は3カ月連続で低下して31・2。緊急事態宣言がはじめて発令された昨年5月(17・0)以来の低水準となっている。こうした状況を受け、与党内からも「持続化給付金の再実施を検討すべきだ」(岸田文雄自民党前政調会長)との声が上がる。

 

 菅政権が新設した成長戦略会議では、中小事業者の淘汰・再編が議論されており、生産性を向上させるという大義名分のもと、中小再編を促す税制優遇措置などを提言してきた。さらに菅首相が「私と考え方が似ている」と評してブレーンの一人に起用したデービッド・アトキンソン氏の主張は「中小事業者を半分程度にまで減らすことで日本の生産性は改善する」というものだ。

 

 菅首相のこうした考えを反映するかのように、最近は政府内で中小事業者全体に対して支援を続けることに批判的な意見が目立つ。持続化給付金の受付終了期限は当初の1月15日から1カ月延長されたものの、財務相の諮問機関である財政制度等審議会からは「もともと事業が芳しくない事業者を延命しているにすぎない」として、当初の日程通り早期終了するべきとの意見が出ていた。

 

 また、休業手当の一部を補助する雇用調整助成金の特例措置については、期限が2月末から4月末に延長されたものの、成長戦略会議の一員で菅首相とも関係が深い竹中平蔵氏は「雇用をつなぎとめることにより休業者を創出し、不況の原因になっている」と主張し、批判的な立場をとってきた。

 

 さらに、金融機関に資金を融通してきた日本銀行内でも、鈴木人司審議委員が昨年12月の講演で「本来は廃業するはずの事業者まで延命されれば、生産性を妨げる副作用が生じる」と指摘。「事業者の選別」といった方向に議論が進む可能性を示唆していた。

 

〝延命〞支援に終止符

 〝選別される〟立場の事業者としては、政府の意図はどうであれ、事業再構築補助金の最大1億円という給付額のインパクトは大きく、〝生き残る〟側になるためにも利用を検討したいところだ。しかし、事業再構築補助金を受給するためには具体的な生産性向上が求められることから、実際に取り組むとなると相応の資本投下が不可欠となる。さらに、中小事業者を対象とした補助額は100万円~6000万円、補助率は3分の2となっていることから、最低でも150万円、最大9000万円の資金を用意して1年間乗り切らなくてはならない。制度を活用するには潤沢な自己資本があるか、手元資金を確保するために金融機関から借り入れる必要がある。

 

 しかしその一方で、金融機関の融資姿勢が硬化しつつあるといった見方もある。大手信用調査会社の幹部は「コロナ禍の長期化により、融資先の選別がはじまった」と指摘する。また、コロナ対策としての融資制度を感染拡大の当初から利用してきた事業者は5月以降に返済期限が迫ってくるため、目先の返済に追われて新たな投資など考えられない状況だ。

 

 つまり、事業再構築補助金を活用できるのは、経営体力がもともと備わっている事業者に限られることになる。成長戦略会議が策定した実行計画には、「小規模事業者の淘汰を目的とするものではない」とわざわざ記されているが、実際には事業者の選別による淘汰・再編が進んでいくことだろう。中小事業者は今後、コロナ禍を乗り切る方策はもちろんのこと、〝そのあと〟の生き残りも視野に入れて対策を講じていかなければならない。

(2021/04/01更新)