不動産投資で巨額負債

スルガ銀の不正融資は氷山の一角

「相続税対策」を売り文句に


 スルガ銀行(本店:静岡・沼津市)のシェアハウス投資向け融資で多数の不正があった問題で、調査にあたっていた第三者委員会(委員長・中村直人弁護士)は、審査書類の偽造・改ざんが「組織的に行われていた」と断定する報告書を公表した。さらに「全般的にまん延していた」とした上で、不正には営業担当の執行役員をはじめ、過大な営業ノルマに追われた支店長の一部や多くの行員も関与したと認定した。今回は大規模な不正だったことから問題が表面化したが、地銀協会の柴戸隆成会長が「他行でも同様の問題が起こる可能性はある」と指摘しているように、スルガ問題は氷山の一角であるという見方も否定できない。多くの金融機関では、相続税対策として富裕層に不動産向け融資を行っている。不動産会社や銀行が口にする〝節税〟という言葉に乗せられて、結果的に莫大な負債を抱える人も出てきている。


 第三者委員会の調査報告書では、顧客の自己資金を確認する資料の改ざんや、不動産賃料を不当に高値で設定するなど、不正行為が組織的で、かつ長期間に行われていたことが明らかになった。

 

 スルガ銀行は、他の銀行が貸し倒れを恐れて貸せないような、いわゆる〝信用格付け〞の低い顧客に高利率で融資する独自の経営モデルにより高い収益を上げてきた。

 

 だが2018年、シェアハウスへの融資によって420億円に及ぶ多額の損失を計上する。報告書は同行の18年3月期の融資残高3・2兆円のうち1・9兆円を占める不動産融資全般で「不正がまん延していた」と指摘している。

 

 第三者委員会は「不正行為は、最終的には銀行、融資先、シェアハウス事業者等にとっていずれもリスクが高く、特に銀行にとっては不測の損失を被る性質のものであり、しかもビジネスモデルからして永続性がない」と、そもそもビジネスとして成り立たない融資であったと断定した。

 

 スルガ銀の不動産融資の問題が表面化したのは、シェアハウス「かぼちゃの馬車」を手掛ける不動産会社スマートデイズの事業が行き詰まったことがきっかけだった。同社は「賃料保証30年」を謳い、シェアハウス投資で家賃収入を約束して、会社員らの投資家を勧誘。資金はスルガ銀が1棟あたり約1億円を貸し付けた。

 

 同社は入居率9割と顧客に宣伝していたが、実際は3〜4割台で低迷。物件販売で得た利益を、保証した賃料支払いに充てるという状況だった。昨秋、スルガ銀が新規融資を止めると、同社の経営は行き詰まった。これによってスルガ銀は1200人超の顧客に計2000億円超を融資していたことが発覚した。

 

 過大なノルマを課せられた支店では、上司から「数字ができないなら、ビルから飛び降りろ」「お前の家族を皆殺しにしてやる」と営業担当者が叱責された。そして精神的に追い込まれた行員が書類の改ざんに手を染めることになった経緯までが報告されている。審査部門は営業部門に威圧され、融資案件の99%を承認していた。

 

 不正は、不動産向けローンの融資の際、審査を通すために物件所有者の通帳などを偽造して貯蓄が多いように装い、また家賃収入の見通しを改ざんするといった行為もあった。これらの不正では、行員が水増しする額を指示したり、業者から複数の通帳のコピーを受け取ったりしていたという。収入が足りない客の源泉徴収票の改ざんも、行員が業者に依頼していた。

 

 融資限度額については、満室時の想定賃料収入の70%を返済原資とみて算出していたという。行員はより多額の融資をするために入居率や家賃などを記載したレントロールと呼ばれる書類の偽装をしていた。

 

 書類の偽装が疑われる件数は2014年以降で795件あったが、不正融資の正確な件数について第三者委員会は「数えるのは不可能」として明らかにしていない。また営業実績を上げるため、不動産融資を受ける客にフリーローンとの抱き合わせ融資も行っていた。定期預金や保険の契約についても抱き合わせで顧客に押し付けていた。

 

「あなたは何千万円もの貯金があるんでしょ」

 沼津市が本拠のスルガ銀は、東に横浜銀行、西に静岡銀行という全国有数の地銀に挟まれ、地場の有力企業を開拓するのに苦戦していたという。そこで1980年代半ばに個人融資に特化したビジネスモデルに乗り出すことになる。個人向け貸し出し比率が90%で、住宅ローンやアパートローンなどの個人への融資に特化してきた。審査基準を緩めた住宅ローンや女性向けの住宅ローンなど、他行が手を出さないような層への融資を開拓し、やがては高利率のカードローンや不動産投資向けの融資へと拡大していった。

 

 だが、日銀の異次元緩和によって、法人融資の利ザヤで稼げなくなった他行が個人向けローンに追随してくるようになり、スルガ銀の個人向け融資のビジネスモデルは雲行きが怪しくなってくる。こうした状況でスルガ銀は融資の比重をシェアハウスにシフトしていった。行員たちはあきらかな過剰供給であることを理解していながら、1件1億円前後で4%程度の金利が稼げるシェアハウス融資をストップすることができなかった。ついにはビジネスモデルが破綻し、目先の利益を優先した結果、顧客を窮地に追い込む結果となった。

 

 今回の報告書では「銀行に与えた損失」については触れられているが、腑に落ちないのが「顧客の損失」という視点がすっぽり抜け落ちている点だ。

 

 法人向け融資では、融資先の資産などを偽って融資した挙句に法人が返済不能に陥れば、資金回収が不能になる。そのため直接的に銀行に損害が発生する。

 

 だが個人向け融資では、個人が債務者であるため自己破産しない限り返済を続けるのが一般的な方法となる。そのため預金額を偽ったとしても融資回収にあたってすぐに問題が生じるわけではない。言うなれば、見込みどおりの家賃収入が入らなくても、債務者自身が返済を続ける限り、スルガ銀の損失にはならないということだ。

 

 とはいえ、今回の不正融資による顧客の被害は甚大だ。ほとんどのオーナーは、入居者が少ないシェアハウスと約1億円に及ぶスルガ銀行からの借入金が残っている。

 

 東京地検特捜部OBの郷原信郎弁護士は「不正・不適切行為が『顧客の損失』につながったことについて言及すればするほど、顧客側からの債権放棄や損害賠償の要求が高まり、第三者委員会報告書によって銀行の損失が拡大することになる。そのような事情を考慮し、スルガ銀行から委託された第三者委員会としては、不正・不適切行為が『銀行に与えた損失』を記述することにとどめ、銀行だけの問題として自己完結せざるを得なかったのではなかろうか」と自身のブログで述べている。

 

 オーナーがスルガ銀に相談に出向くと、行員は資料改ざんをしておきながら「あなたは何千万円もの貯金があるんでしょ」と突き放したというから驚くよりほかない。

 

前金融庁長官「地銀の成功モデル」

 そもそもスルガ銀のビジネスモデルを「地銀の成功モデル」と持ち上げてきたのは、監督官庁である金融庁の前トップだ。森信親前長官はことあるごとにスルガ銀の名前を出して絶賛してきた。日銀のマイナス金利政策にあえぐ地銀に対しては「個々の銀行が創意工夫して、新たなビジネスモデルをつくりあげることが重要」とし、成功例としてスルガ銀行を持ち上げてきた。

 

 だがふたを開けてみると、スルガ銀のビジネスモデルは不正がまん延したものだった。監督官庁でありながら、融資の中身を見ることなく、数字だけを見て賛辞を送っていたということになる。

 

 全国地方銀行協会の柴戸隆成会長はスルガ銀の不正融資について、「銀行は信用がベースで、そこが毀損してしまうと、信頼関係が崩れるのが残念だ」とコメントした。その上で、「他行でも同様の問題が起こる可能性はある」と指摘し、法令遵守の体制を徹底する必要があるとの認識を示した。

 

 経済評論家で楽天証券経済研究所客員研究員の山崎元氏は「スルガ銀行以外の銀行にも、同行と同類のビジネスが少なくないのではないか。そして、これは、かつて金融危機を起こした米国の『サブプライム問題』と似た構造の問題である」と指摘している。先日も山口県の建設業者の従業員が顧客の預金残高データを改ざんして、地銀から融資を受けようとした事件が発覚したばかりだ。

 

 石川県に住む家主は金融機関から融資を受けてアパートを建てたが、家賃減免を求められ売却を決意。だが売却額が融資額よりも少なかったことから多額の借金を抱えた。仕方なく他の土地を売って穴埋めしたという。

 

 賃貸アパート向けの融資では、一部の地銀が顧客を建築業者に紹介する見返りに手数料を受け取っていることも金融庁の調べで明らかになっている。

 

 銀行は「顧客のため」と称してアパート経営を勧めておきながら、その実は建築費が高くなればなるほど業者からバックマージンが入り、また融資額も大きくなる仕組みになっているということだ。

 

 銀行は融資先の利息をメシの種にする商売だ。当たり前だが、責任は借り手が負わなくてはならない。身の丈に合わない巨額の投資、未経験者によるアパマン経営、聞いたこともない国の外債購入など、金融機関はあの手この手で顧客の捺印を求めてくる。1千万円の節税のために数億円の借金をして、慣れないビジネスに手を出すことが本当に正しい節税策といえるのか。最近の銀行の動きを見ていると慎重にならざるを得ない。

(2018/11/05更新)